時の流れは早いもので、東京2020オリンピックが閉会してもう1ヶ月以上が経ちました。みなさんが東京オリンピックで1番楽しんだ競技はなんでしたか?
最近、こんなランキングが発表されました。東京オリンピックで人々が楽しんだ競技ランキングなるものです。1位卓球、2位野球・ソフトボール、3位柔道と日本のお家競技に続いて、4位にスケートボードがランクインしています。
東京2020オリンピックから新競技として追加されたスケートボード。多くの日本人選手がメダル獲得したことで、みなさんも印象に残っているのではないでしょうか。
今回の記事は、そんなスケートボードの基本から将来の可能性まで書いていこうと思います。
1. そもそもスケートボードってどんな競技?
1-1. スケボーの歴史をざっくりと
スケートボードの発祥は、1940年代のアメリカ・カリフォルニア州と言われています。当時は木の板に鉄製のコロコロをつけた手製のもので、主に子供達が路上でキャッキャ遊んでいたものだったようです。その後、1980~1990年代にかけて世界に広まり、日本でも1960年ぐらいから愛好者が増えていったようです。(出典:ムラサキスポーツ | 【スケートボード編】これを見れば大会が楽しく見れる!ルールブック!)
その後、2000年代に入ると競技として認知されるようになってきます。年2回、夏と冬に開催される「X-GAMES」などの大会がアメリカのケーブルテレビで放送されるようになりました。そこから徐々にスポーツとして認知されるようになっていったんですね。1940年にカリフォルニアで誕生したものの、競技として認知されてからはまだ20年ぐらいしか経っておらず、かなり新しいスポーツっすね。(出典:文春オンライン | なぜ金メダル候補に日本人が? スケートボード後進国・日本が異様に強いワケ)
実は、スケボーをスポーツではなくファッションや文化に近いもの、と主張し楽しむ人たちもいます。確かにスケボーにはそういった側面があると思います。ただ、SPOVAはスポンサーシップやスポーツの価値を発信するメディアなので、この記事では競技としてのスケボーにフォーカスしていきます。
1-2. ルールってどうなってんの?
競技としてのスケボーには大きく2つの種目があります。1つがSTREET、もう1つがPARKと呼ばれるものです。STREETは坂や階段などまさに“街なか”をイメージしたコースが使用されます。PARKでは曲線やお椀のような形状のコースが使用されます。
どちらの種目も男女別で争われます。選手たちはコース内でTRICK(技)を繰り出し、難易度、高さ、スピードの観点から採点され、最も点数が高かった人が優勝というわけです。審判から採点されるという意味ではフィギュアスケートなんかと似てるかもしれないですね。
1-3. 市場規模と競技人口はどのくらい?
ではでは、こんなスケボーのメーカー市場規模はどのくらいなのでしょうか。実はグローバルで見たスケボーの市場規模は増加傾向です。2020年から2026年にかけて年平均成長率2.0%で成長していくと見込まれています。2020年は日本円でざっと170億、2026年で190億円ってかんじですね。地域別に見ると、アメリカのシェアが最も大きく32%、続いてヨーロッパが28%と続きます。
競技人口については正確な数字を取ることは難しいようです。ただ、(一社)日本スケートボード協会(AJSA)によればスケボーの体験人数は2016年時点で世界で5,000万人、日本では約40万人とのこです。純粋に競技人口に限って言うと、全日本大会や地方大会に出場する選手数を平均すると日本にはざっと約3,000人のアマチュア&公認プロがいるとされています。(出典:日本スケートボード協会(AJSA) | よくある質問)
なお、東京オリンピックで堀米雄斗、西矢椛選手が金メダルを獲得したことを受け、日本ではスケボー人気が加熱しています。体験会や教室の申込みが殺到し、スケボーがバンバン売れているようです。
日本ではスケボーができる公園が少なかったり、以前はスケーボー≒“やんちゃな遊び”、といった見方もありました。しかし、東京オリンピックの影響もあり、国内ではスケボーがスポーツ競技として認知されつつあります。もしかしたら今後は日本のスケボー人気がさらに高まってくるかもですね。
2. スケボーの競技連盟について
ではここからはどんな組織が世界、そして日本で競技としてのスケボーを取り仕切っているのかを解説していきます。
2-1. 世界的にはどんな組織があるの?
競技としてのスケートボードを世界的に統括しているのは、World Skateという国際競技連盟。サッカーで言うとFIFAのような存在です。World Skateは1924年にリンクホッケーというスポーツの競技連盟として誕生しました。現在は、スケートボードを含む11のローラースポーツ競技の国際競技連盟として活動しています。(出典:World Skate | About)
2-2. 日本ではどんな組織が存在する?
続いては、日本国内の統括組織について、です。日本国内の主なスケートボード競技連盟は3つあります。1つ目は、上述のWorld Skateへ加盟している一般社団法人ワールドスケートジャパンという団体。World Skateと同じくスケートボードを含む、ローラースポーツの複数競技を統括する競技団体として活動しています。この団体にスケートボード競技が加わったのは、東京2020オリンピックにスケートボード競技が追加されてからなので歴史はまだ浅いですね。
2つ目は、一般社団法人日本スケートボード協会(AJSA)。この協会は1982年に設立されており、その歴史は約40年。プロからアマチュアまで幅広く大会を開催しています。さらに、スケートボーダーのプロ資格の発行や、公認インストラクター制度を設けるなど、啓発から育成まで幅広い活動を行っています。
3つ目は、一般社団法人日本スケートボーディング連盟(JSF)。この団体は2004年に設立された新しい団体です。スケートボードの大会開催の他、選手の海外派遣なども行っている団体です。(出典:株式会社ムラサキスポーツ | スケートボードから見るアーバンスポーツの可能性と未来)
日本のスケートボード選手は、3つの競技団体のうちどこか特定の団体でしか活動しないということはなく、3つの競技団体をまたいで大会に参加する選手がほどんどなのだそうです。また、3つの国内競技団体は協力体制を築いているため、いざこざの末に別々の団体に枝分かれしていったというわけではなさそうです。
ここまで見てきた各競技団体について、簡単にまとめると↓みたいなかんじですね。
3. 選手についているスポンサーはどんな業種の企業?
ここからは、世界のトップスケートボード選手と日本のトップスケートボード選手のスポンサーにはどんな企業がいるのか見ていきましょう。
3-1. 世界ランキング1位の選手とそのスポンサー
まずは、世界のトップスケートボード選手から。World Skateが発表している世界ランキングのSTREETとPARKの男女1位、合計4名の選手に絞って見ていきたいと思います。STREETの男子世界ランキング1位はNyjah Huston、女子はPamela Rosa。PARKの男子世界ランキング1位はHeimana Reynolds、女子は岡本 碧優です。(2021年9月10日時点)
以上4選手のスポンサー企業をピックアップし、その業種ごとに企業数を分類・集計したのが↓のグラフとなります(2021年9月10日時点)。
当然といえば当然ですが、最も多いのはスケートボード関連のスポンサーで、50%を占めます。スケートボードはデッキ(板)、ウィール(車輪)など様々な部品を1つのブランドで揃えるのではなく、部品ごとにブランドが違うということが多々あるとか。スケートボードを東京オリンピックで初めて見たミーハーなワタシは全く知りませんでした。よって、一重にスケートボード関係といっても、デッキ、ウィール、トラック(車輪のシャフトのようなもの)、ヘルメットのブランドなどと多岐にわたります。
スケートボード関係に次いで多いのは、ファッション関係のスポンサーです。4社に1社はファッション関係のスポンサーなのですね。
「1.1スケボーの歴史をざっくりと」で説明したように、スケートボードが”競技”として認知され始めたのはここ20年間のこと。スケートボードはストリートカルチャーの一部分として成長し、そこから競技としてのスケートボードが派生したという歴史があります。スケートボードはストリートカルチャーから競技に派生しても、ストリートカルチャーが色濃く残っている競技のようです。東京オリンピックでは、イヤホンで音楽を聞きながら競技をしている選手もいましたし、選手の服は他の競技には見られないファッション性がありましたよね。
スケートボード競技は、ストリートカルチャーが色濃く残っており、「ファッション」「音楽」、さらに「アート」とも繋がりが強い競技のようです。世界トップ選手のスポンサー企業の4分の1がファッション関係の企業ということも納得ですね。
世界トップ選手のスポンサー企業で3番目に多かったのは、飲料メーカー。そして、その全てのメーカーがエナジードリンクを販売している企業でした。エナジードリンクは若者を中心に人気のある商品です。(出典:日経電子版 | コカ・コーラが新エナジードリンク 若者市場に狙い)
スケートボード人口(Do層)は10代~30代の若い世代が中心です。スケートボード観戦者(Watch層)も同じくらいの世代の人々が多いそうです。若い世代が競技者としても観戦者としても多いスケートボード界は、エナジードリンクブランドのターゲット層と一致しているようです。(出典:アーバンスポーツツーリズム研究会 | アーバンスポーツツーリズム推進に向けた論点整理)
3-2. 東京五輪日本代表選手とそのスポンサー
続いて、日本のトップスケートボード選手のスポンサーについてです。東京2020オリンピックに出場した合計10名の選手に絞って見ていきたいと思います。↓が今回ピックアップする10選手です。
以上10選手のスポンサー企業をピックアップし、その業種ごとに分類・集計したのが↓のグラフとなります。(2021年9月10日時点)。
世界トップ選手のスポンサー企業と同じくスケートボード関係のスポンサーが1番多く、ファッション関係が2番目に多いという結果になっています。
世界トップ選手のスポンサー企業分析と違う結果になったのは、3番目にスポーツ用品が入っていること。また、世界トップ選手のスポンサー企業分析で3番目に多かった、飲料メーカーが4番目ということです。しかし、日本のトップ選手にスポンサーしている飲料メーカーの全てがエナジードリンクブランドという点は同じでした。
4. アーバンスポーツにおけるスケボーの可能性
ここまでで世界&日本のトップ選手のスポンサー企業の外観がお分かりいただけたかと思います。そして、ここからはもう少し深掘っていきたいと思います。
ご説明したとおり、スケボー関連、ファッション、飲料メーカーがスポンサーに入っているのは納得感があるかと。1点気になるのが、割合こそ少ないものの、「ディベロッパー・建築」とか「旅行」関連のスポンサーが入ってる点ですね。一見スケボーと関係なさそうなこれらの企業がなぜスポンサーしているのか?ここでは「アーバンスポーツ」というキーワードを使って紐解いていきたいと思います。
4-1. 日本政府も注目しているアーバンスポーツ
アーバンスポーツとは、「エクストリームスポーツの中で都市での開催が可能なもの」と定義することができます。アーバンスポーツには、スケートボードの他、スポーツクライミング、BMX、3×3などが含まれます。
このアーバンスポーツの参加や観戦を目的として地域を訪れたり、地域資源とスポーツが融合した観光を楽しむツーリズムスタイルであるアーバンスポーツツーリズム。これを推進すべくスポーツ庁には、アーバンスポーツツーリズム研究会という審議会が設けられています。(出典:アーバンスポーツツーリズム研究会 | アーバンスポーツツーリズム推進に向けた論点整理)
アーバンスポーツツーリズム研究会の公開資料をみると、アーバンスポーツが持つ可能性は、①その地域に訪れさせる(Visit)、②その地域に定着させる(Stay)、があるようです。
4-2. ①その地域に訪れさせる(Visit)
アーバンスポーツの競技者・愛好家(Do層)の特徴として、優れた施設でプレーしたい欲が強いこと、があげられます。「〇〇にある施設がめっちゃやばいらしいぞ!」→「まじ?絶対行こうぜ」という感じで、全国各地、世界各国の優れた施設に訪れる人がいるのです。なので、もし多くのスケートボーダーが「行きたい!」と思うような良い施設があれば人々はそこに訪れ(Visit)、その地域には多くの人が集まる可能性が高いのです。
しかもその優れた施設でプレーする障壁も低いです。例えば野球少年が「甲子園でプレーしたい!」と思っても、なかなか難しいことは想像に難くないかと。でも、アーバンスポーツの場合は予約さえ取れてしまえばその施設で競技を楽しむことが比較的簡単にできるわけですね。つまり、他のスポーツよりもその施設でDoしたい人が気軽に移動する(Visit≒旅行)する可能性が高いわけです。だからが故に、旅行会社がスケボーに目をつけているんですね。
ちなみに、日本でも多くのスケートボーダーが訪れる”聖地”を目指すべく作られたスケートボード施設があります。↓の写真は茨城県笠間市にある2021年3月に開園した国内最大級のスケートボードパーク、“ムラサキパークかさま”です。この施設なんかも日本、そして世界からスケートボーダーたちを呼び込むために作られました。この場所が広く知られるようになれば、多くのスケートボーダーたちがこの地を目指して移動≒旅行することが期待できますね。
4-3. ②その地域に定着させる(Stay)
アーバンスポーツは、その土地の魅力を高め、人々をその地域に定着(Stay)させる一要素になる可能性も持っています。
テレワークが広がり働く場所の制約が少なくなったとは言え、東京へは依然多くの転入者がいます。その理由はいくつかありますが、東京には「働く場所」、「遊ぶ場所」、「食事する場所」が他地域に比べ豊富にあるってことがあげられると思います。この~~する場所≒コンテンツ、は人々をその場所に集め、定着させます。
スケボーを含むアーバンスポーツは、若者人気が高い遊ぶor運動するコンテンツの1つです。東京オリンピックを見た子供が「ど~してもスケボーをやりたい!」って言ったとします。それを聞いた親御さんがスケボー施設を探し、近所にスケボーができる場所があったとします。その施設でお子さんが夢中になってスケボーをしていたら、親御さんたちはその場所に住み続けようと考えますよね。
↓の写真は、子育て世代を中心に約4万人弱の人が住む豊洲に2020年10月にオープンしたアーバンスポーツ施設です。ご存じの方もいるかもしれませんが、この施設の開発業者は三井不動産です。三井不動産といえば、日本を代表するディベロッパーで柏の葉スマートシティや日本橋再生計画などを手掛けた、その土地の魅力を高めるプロ集団です。そんな三井不動産は、「豊洲に人を定着させ、自社マンションの価値を高めたい → そこまで広い土地を必要とせず、子育て世代が喜ぶコンテンツは?」 って考えた結果、1つの答えとしてアーバンスポーツにたどり着いたのだと思われます。
これはアーバンスポーツの魅力(Visit&Stay)にいち早く注目し、スケボースポンサーとしての権利をうまく活用した事例だと思います。割合としては少ないながらも、これがディベロッパー・建築がスケボーにスポンサーしている理由ではないでしょうか。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか。今回の記事は、東京オリンピックで注目を集めたスケートボードについて、キホンのキからビジネスとしての可能性まで書かせていただきました。
日本における競技としてのスケートボードは、まだまだマイナーな市場です。しかし、今回の東京2020オリンピックで日本の高いスケートボード競技レベルが証明されました。スケートボード競技における合計12個のメダルのうち、5個を日本代表が獲得。これによって日本ではスケートボード旋風が巻き起こりましたね。解体予定だったオリンピックのスケートボード会場は再整備が検討され、スケートボード教室には多くの人々が殺到するなど、早くもオリンピック効果がでています。このオリンピック効果によって競技人口が拡大し、さらなる競技力の向上が期待できそうです。(出典:FNNプライムオンライン | 五輪効果で人気沸騰のスケボースクール 練習場の確保が課題、読売新聞オンライン | 【独自】解体予定だったスケボー会場など、一帯を「聖地」として再整備へ)
スケートボードを含むアーバンスポーツには、地方活性化への一手にもなる可能性があるとして日本政府も注目しています。野球などのスポーツと比べるとそこまで広い土地を必要としないことから、国土面積の小さい日本だからこそアーバンスポーツを使った地方活性化が期待されているのだと考えられます。Iターン、Uターンで若者を集めたいと考えている地方自治体にとっての起爆剤にもなりうるかもしれませんね。
このように、競技としても、スポンサービジネスにおいても、これからの発展が見込まれるのがスケートボードなのです。我々もそんなスケートボードに発展に少しでも貢献できるよう、これからも情報発信を続けていこうと思います。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。読んでみて良かったらTwitter&Facebookのシェア、フォローもどうぞよろしくお願いいたします。