6月14日、ラグビー元日本代表FB五郎丸歩選手が(ヤマハ発動機)が引退会見をされました。2015年W杯で彼が見せてくれた正確無比なキック。これをきっかけにラグビーファンになったワタシからすると感慨深いものがありました。

五郎丸選手は会見でこう仰っています。

「今まで(日本のラグビーは)企業色が強かったので、プロクラブを作る発想がなかった。ヤマハ発動機が、先陣を切ってやる」

(出典:JSPORTS | 五郎丸歩、引退会見。プロラグビークラブのスタッフとして新たな道を進む)

五郎丸選手の仰るように、2022年現在のトップリーグに代わり、新リーグが開幕する予定です。今回はこの新リーグ開幕を見据えて、ラグビーに関する記事を書いていこうと思います。具体的には新リーグの概要、ラグビーファン&競技の特性、そしてこれらを踏まえるとどんな企業がラグビーにスポンサーするとWin-Winの関係になれそうか、についてまとめていきたいと思います。

今回の記事は、TBSのノーサイドゲーム最終回で君嶋GM(大泉洋)が浜畑選手(廣瀬俊朗)を抱擁するシーンを1000回ぐらい見て、950回くらい号泣したサセがお送りします。

1. ラグビー新リーグについて:何がどうなる?

まずはじめに、みなさん日本のラグビーリーグであるトップリーグが来年2022年から変わり、新リーグが開幕するのをご存知でしょうか?

トップリーグから新リーグに代わって、何がどう変わるのか、についてお話していきます。これについては色んなサイトで語られているので、ポイントだけサクッとふれておきます。

これはみなさんご存知かと思いますが、現在のトップリーグはプロリーグではなく、企業スポーツのリーグです。企業スポーツとは何かって言うと、チームを所有するの企業の予算を使って活動するスポーツ(チーム)です。なので、トップリーグのチーム名には全て企業名が入っています。NECグリーンロケッツ、ヤマハ発動機ジュビロ、パナソニックワイルドナイツなどなど。東芝ブレイブルーパスの正式名称は東芝ラグビー部です。(出典:NHK | サクサク経済Q&A) このように企業の一部として活動するのが企業スポーツなんですね。

(出典:TOP LEAGUE | 2020-2021 チーム一覧 より作成)

じゃあ、新リーグになると、どんな変化があるのでしょうか。Jリーグのチームは法人化されています。いわば、Jクラブはスポーツ興行・スクール・物販等をビジネスとして営む独立した事業体なわけです。だから、横浜Fマリノスの運営主体は“横浜マリノス株式会社”なんです。

ではラグビーの新リーグではどうかと言うと、企業所有のスポーツチームである、ということは変わらないようです。しかし、新リーグに参加する24チームのうち、親会社からチームを独立させ、法人化しようとしているチームもあります。新リーグに移行し、経営の自立性を確保したチームから、徐々に親会社からの独立&プロ化の道に進むものと思われます。(出典:日本経済新聞 | 22年開幕のラグビー新リーグ 〝プロクラブ〟誕生に期待)

まとめると、まだプロ化はしないけど、プロ化に向けた道筋ができたのが新リーグなわけですね。ということは、チームによっては頑張ってチケットを売ったり、スポンサーを連れてくる、ってことが求められるようになります。

2. ファンの特徴から考えるラグビーのスポンサー候補

ではこんな新リーグのラグビーチームにどんな企業がスポンサーとして相性が良いのでしょうか。逆に言うと、スポンサー企業を獲得したいラグビーチームはどういった企業にアプローチしたらええんでしょうか。

ここではそれを考える取っ掛かりとして、まずはラグビーファンの特徴に着目してみたいと思います。

2-1. ラグビーファンの特徴①:しこたまビールを飲む

まずラグビーファンって言ったら、 “ビール好き”ってイメージがあると思います。2019年に開催されたラグビーW杯のビール消費量はプロ野球やJリーグと比べて3.4~4.6倍だった、なんてニュースもありました。(出典:nippon.com | ラグビーファンはやっぱりビール好き : 9~10月のハイネケンは282%)

ワタシはこのニュースを見た時、“ビール好きの外国人が観戦者の大半だったからでしょ”と思いました。でもデータを見てみるとそうとも言えないようです。居住地情報に基づいてチケット購入者を分類すると、海外ファンからのチケット購入率は28.2%だったようです。つまり、70%以上の人が国内居住の観戦者だったということですね。(出典:EY | ラグビーワールドカップ2019日本大会 成果分析レポート)

つまり外国人だけでなく、国内ファンも多くのビールを消費したであろうことは推察できます。その証拠に、日本人を中心としたファンゾーンでも1試合で3日分のビールが早々に完売した様子も報道されていました。(出典:西日本新聞 | 観戦のお供、ビールを切らすな! 大分の関係者 確保に奔走 ラグビーW杯)

外国人であろうと日本人であろうと、ラグビーファンはビール好き!って考えられそうですね。

ビール好きというファンの特徴を考えると、単純にビールメーカーがスポンサーするってのが当然といえば当然ですよね。実際に、“アサヒ、スーパードゥラァァイ”で有名なアサヒビールはちょっと前にW杯の最高位スポンサー(ワールドワイド・パートナー)になりました。(出典:日経新聞 | なぜアサヒビールがアジア初スポンサー? ラグビーW杯)

ですが、大手のビール会社は当然のこと、実はクラフトビールを作ってる比較的小規模なメーカーさんの方がスポンサーするメリットがある気がしてます。

規模に違いはありますが、日本には300を超えるクラフトビールメーカーが存在します。(出典:CRAFT BEER | 日本のクラフトビールブルワリーまとめ・一覧) 当然のことですが、クラフトビールメーカーは大手ビールメーカーと比べると小規模です。それが故に、営業体制に限りがあり、顧客獲得に課題を抱えているようです。よなよなエールなどのクラフトビールを販売するヤッホーブルーイング社長井手さんは、その課題を↓のように表現しています。

“取扱店は増やしたいが、営業力には限りがあり、インセンティブを上げるほどの体力もない。今できることは、イベントなどを通じて熱狂的なファンを増やすことだ”

(出典:REUTERS | 〔特集:クラフトビール〕3メーカー責任者が指摘する夢と現実)

クラフトビールメーカーは「味なら大手に絶対負けねぇ」という自負をお持ちだと思います。しかし、営業力が限られているため、なかなかスーパー、レストランなどにおいてもらえません。消費者との接点が作れないため、世間に認知されないのです。ならば、ビール好きがわんさか集まるラグビーにスポンサーし、試飲イベントなんぞをやってみる。するとビール好きなラグビーファンへの認知が広まり、取扱店舗での購入率向上&新規取扱店舗の増加につながるかもしれません。

世界を見渡すと、ラグビーにスポンサーしているクラフトビールメーカーは当然存在します。それがウェールズのクラフトビールメーカーBrecon Brewingです。2020年、彼らはウェールズラグビー協会(WRU)とパートナーシップを締結しました。このパートナーシップで、彼らはWRUの商標利用権を獲得し、WRU印のオリジナルクラフトビールを作って、販売しています。

さらに加えて、クラフトビールとラグビーって相性いいかもな、と思うもう1つの意外な理由をご紹介します。

↓は2019年のW杯の日本戦5試合の視聴率推移です。見てもらえればわかりますが、13-19歳の視聴率がグイグイっと伸びてます。おそらくラグビーには他の世代よりも若い人たちを引きつける何かがあり、今後は彼らがラグビーファンの中心になっていくことが期待されています。

もちろんこの世代は現時点では飲酒できませんが、数年以内にアルコールの消費者となります。そして、こういった若者たちと30代後半以降の人たちとでは“ビールの飲み方”に違いがあるようです。“ビールはキンキンに冷やしてグビグビ飲むもんだろ”と思ってる人もいるかと。でも最近の20代若者世代は違うんです。彼らのビールを飲むスタイルは“ちびちび、だらだら”なのです。そして、大手ビールメーカーが販売するビールと違い、クラフトビールは温度の変化で味の変化も楽しめるように作られてます。なので、若者のちびちび、だらだらスタイルにマッチするのです。(出典:ニュースイッチ | 若者は“ビール離れ”なのに「クラフトビール」が成長する理由)

まとめると、今後ラグビーのファン層になっていく可能性があるのはいまの13-19歳。彼らはビールを“ちびちび、だらだら”と飲む可能性が高い。なのでクラフトビールが彼らのスタイルによりマッチするはず、ってことですね。

2-2. ラグビーファンの特徴②:意外とキッズファンが多い

先ほど2019年W杯の日本戦で、13-19歳の視聴率がグイグイっと伸びたってことをお伝えしました。実は、13歳よりも下の年代の割合も大きいのがラグビーファンの特徴なんです。

↓はサッカーW杯などの国際大会と、2019年ラグビーW杯の視聴者層を比べたものです。これを見ると、ラグビーW杯では、4-12歳の視聴者割合が最も高くなっています。つまり、相対的に子供の視聴率が高いってことですね。

こんなラグビーのキッズ人気を象徴するかのように、ラグビースクールの数も増加傾向にあるようです。2019年ラグビーW杯の前後でスクール数を比べると1.34倍に増加しています。特に小学1年は1.43倍、幼児(3〜5歳)にいたっては1.69倍も増加しており、幼き子供たちに高い人気があるようです。

スクールに入会するきっかけにも変化が生じているようです。これまではラグビー経験者の父親が「うちの子にもラグビーを!」とスクールに連れてくるケースが多かったそうです。しかし今は、子どもたちが「自分、ラグビーやりたいっす」って言ったので入会させるって家族が多くなってきてるとのこと。(出典:RUGBY REPUBLiC | 東京都内でラグビーをプレーする幼児、小学生がW杯直前と比べて1・34倍に増加)

やはり、ラグビーにはキッズたちを夢中にさせる何かがあるようですね。

こんな現状を見ると、子供関連市場にいる企業にとってはラグビーチームにスポンサーしてキッズたちにリーチするってもアリですね。候補として、↓に子供関連商品・サービスを展開する業種を並べてみました。

  (出典:矢野経済研究所 | 子供市場総合マーケティング年鑑 より作成)

新リーグに参加する“ヤマハ発動機ジュビロ”というチームがあります。このチームなんかは、ラグビースクールも展開しています。こういったチームのスクール生は無料チケットなどが配られ、トップチームの試合を観戦します。ということはスタジアムにはスクール生という子供がいるわけです。ならば、子供関連市場の企業たちはジュビロにスポンサーし、この子供たちと親を狙って広告を出したり、イベントを打ったりってことが考えうるかと。

(出典:ヤマハ発動機ジュビロ(ラグビー) | ラグビースクール)

3. 競技の特徴から考えるラグビーのスポンサー候補

次はラグビーの競技特性に着目してみたいと思います。そしてファン特性と同様に、そこからどんな企業がスポンサーとして相性が良さそうか、をお話していこうと思います。

3-1. 競技の特徴①:メンタルやられがちなスポーツ

少し前に衝撃的な調査結果が公表されました。それはラグビートップリーグの選手を対象としたメンタルヘルスに関する調査結果です。これによると、回答者の32.3%が直近1カ月間に心理的ストレスを感じたことがある、と回答しています。また、4.8%はうつ・不安障害、5.2%は、重度のうつ・不安障害に相当する状態を経験していた、というのです。

さらには、海外のアスリートや日本の一般成人と比べても、日本のラグビー選手はメンタルに不調を抱える人が多いってことがわかっています。選手の中には、経済的な変化、試合に出られなかったなどの理由から、疲労感、睡眠障害などの問題を抱えていた人もいたようです。

ラグビーの選手って屈強な選手が多いため、なんとなくメンタルも強いイメージがあるかと思います。でもこういった心の不調を抱えながら、必死にプレーしているんですね。

ではこんな競技特性を考えた時に、パートナーシップを組む上で、どんな企業がラグビーと相性が良さそうでしょうか。

イギリスの事例を見てみると、Simplyhealthという企業がイングランドラグビー協会(RFU)とパートナーシップ契約を結んでいます。Simplyhealth社は主に法人に向けて、社員の健康&メンタル管理などのサービスを展開する企業です。

(出典:Simplyhealth | Trusted Healthcare Partner to England Rugby より作成)

彼らはイングランドラグビー協会と、“RugbySafe Programme”なるものを展開しています。これはSimplyhealth社とRFUが共同で開発したプログラムです。プログラムの内容としては、スポーツだけでなく日常生活にも転用可能な“心の整え方”テクニック集をまとめたようなものです。(出典:England Rugby | RFU PARTNERS)

(出典:Simplyhealth | MENTAL WELLBEING, KEEPING THE RUGBY COMMUNITY HEALTHY より作成)

この共同プログラムによってSimplyhealth社はどんなメリットを得ているのでしょうか。具体的な検証データは公開されていませんが、メンタルダメージの大きいラグビー選手に改善プログラムを導入し、十分な効果が出ていた場合、それが何よりも強い営業の武器になりますよね。「実はうちの会社ってあのRFUと共同でプログラム作ってんすよ。それで○○%もメンタルヘルスの改善効果がみられましたわ(ドヤァ!)」って営業トークができます。

これを聞いた企業からすると、「あのメンタルを極限まで追い込まれるスポーツで効果が出たなら、うちの疲弊した社員にも効果があるはず(小声:これで離職率、休職率も下がって採用費とか浮いちゃうかも。社員の生産性も上がって売上も増えたりして)」ってなるわけです。

このように、従業員のメンタル改善関連のサービスなんかを提供している企業は、ラグビーチームと共同でプログラムなんかを作ってみる。

すると、メンタル消耗の激しいラグビーとともに作った実績は、強い営業の武器になるということですね。

3-2. 競技の特徴②:肉体的にもしんどいスポーツ

ラグビー観たことある人ならわかるかと思いますが、ラグビーは身体的にも負荷のかかるスポーツです。テーピングをぐるっぐるに巻いて、試合に望む選手も少なくありません。

怪我が多いってのはデータでも証明されています。↓は種目別の事故発生率を並べたものです。アメフトがぶっちぎりで1位なのは納得できるかと思いますが、ラグビーも3位に入っています。タックル、スクラム等のプレーで相手と接触するので事故が多いんですね。

サッカーと比べてみてもその差は明らかです。()内に1000PHとありますが、PHとはPlayer-Hourの略で、プレイヤー数に練習(試合)時間を掛けたものです。要は1,000時間でどのくらい外傷が発生するかっちゅうコトですね。サッカーは50.8件なのに対し、ラグビーは90.1。サッカーに比べて、倍近くの外傷が発生するってことです。

このようにラグビーというスポーツはケガが多いスポーツなんですね。実はこんな競技特性に着目して、ラグビーにスポンサーした事例があります。IT大手のIBMとオーストラリアのニューサウスウェールズ・ワラターズの事例です。

ワラターズは1882年創立の名門チームです。ニュージーランド・オーストラリア・南アフリカ共和国・アルゼンチンの4か国のチームで争われるスーパーラグビーに参戦しています。かつて日本代表の松島選手が所属していたり、DAIKINがスポンサーになったりと、日本人には馴染みのあるチームですね。

IBMはワラターズと契約し、自社のソリューションを使ってもらうことにします。そのソリューションとは“プレイヤーのケガを予測する分析システム”です。IBMはワラターズと協力して、選手のあらゆるデータを取得しました。例えば、体重などの基礎データやら過去のケガ歴などの健康データ、GPSによって計測した選手の走行距離なども取得しました。1選手につき100-250項目ものデータを取得し、分析したのです。

このシステムによりワラターズは選手の疲労度、ケガのリスクなんかを考慮し、トレーニングプログラムを組めるようになりました。この分析システムによりワラターズの成績も一気に上向きます。2013年シーズンは、18人の選手が24回ケガをし、リーグ成績も9位とぱっとしませんでした。しかし、この取組みを導入した2014年シーズンは、6人の選手が9回ケガをするにとどまりました。そして、チーム史上初めてスーパーラグビーのオーストラリアカンファレンスで優勝を果たしました。

この取組みによりIBMが得たメリットはどんなものでしょうか。それは“技術力の証明”ですね。「ケガはちょっとした不運だと思っていた」 元オーストラリア代表でワラターズに所属していたウィクリフ・パール選手はこんなふうに言っています。確かにケガって予測できないものって認識されていたと思うんです。しかし、IBMは持ち前の技術力をフル活用し、あらゆるデータを取得し、変数に置き換えることで、“運”と思われていたケガを予測することに成功しました。

この技術力の証明によって、他のスポーツでのケガ防止策として転用可能なことは容易に想像がつきます。また、多くの変数によって起こる出来事を事前に予測する、という技術が証明できているわけです。なので、スポーツ“以外”の、運と思われていた事象をより精緻に予測したい業界から引き合いがくるかもしれません。例えば、気象とか宇宙工学、土木工事関連、医療、など。

“ケガが多いスポーツ”って言うとネガティブに聞こえます。でも、自社の技術力や製品力でそんなネガティブ要素を改善することで社外にアピールしたい!って考える企業もいるわけです。このIBMのように。問題が頻発していたり、深刻であるほど、企業にとってはチャレンジングな取り組みになります。しかし、その分アピールの度合いも大きくなりますね。

4. おわりに

いかがでしたでしょうか。こうやって世界を見渡してみると、ラグビーファンの特性やら、競技の特性に着目して企業がスポンサーとして共存共栄の取組みを行っている事例がけっこうありますね。

日本のラグビー新リーグが発足し、独立&プロ化へ少しづつ舵を切るチームが増えてくるかもしれません。そんな中、新たなスポンサー獲得に動き出すチームもいらっしゃるかと。そして、プロ野球、Jリーグ、Bリーグには興味なかったけど、ラグビーならスポンサーとして応援しつつ事業メリットも生み出したいって思う企業さんも出てくると思います。

今後も企業とラグビーチームがともにメリットを作り出せるよう、我々も情報発信を続けていこうと思います。日本にラグビーのある暮らしが根付くことを願いながら。

スポーツスポンサーシップに関するお悩みのある企業様、スポーツ関連団体様は良ければご相談に乗らせて頂きますので、お気軽に↓からお問い合わせ下さい。お待ちしております。