現在、日本では総合格闘技が大きな盛り上がりを見せています。一方、格闘技は格闘技でも、拳だけで戦うボクシングはと言うと、残念ながら国内での人気は下降気味と言えるかもしれません。

数多くの軽量級チャンピオンを輩出し、米国、メキシコと並ぶボクシング大国と言われた日本ですが、2000年ごろからその人気は落ち始め、TV放映は限定的となり、国内のプロボクサー数も04年をピークに減少を続けています(2020年6月時点で1,304人)(出典:BoxRec│「Boxing’s Official Record Keeper」

そこで今回の記事では、スポーツスポンサーに係るコンサルティングを生業としている身として&ボクシングの1ファンとしてボクシング人気復活の一助となればと思い、ボクシングの魅力と企業がボクシングにスポンサーするビジネスメリットについて書いていきたいと思います。

「社長がボクシングにスポンサーしろっていうけど、どうしたらいいかわからん」
「ボクシングジムからスポンサーお願いされてるけど、ビジネスメリットあるんけ?」

などと悩まれている企業のご担当者はご参考にしていただければ幸いです。もちろんジム関係者の方にも参考にして頂けることもあるかと思います。

なお今回の記事を執筆した私はEraのコンサル兼ライターのサセと申します。小学校から大学まではサッカー部でしたが、40歳を目前にそろそろボールを蹴るのではなく、ミットを殴ろうと最近ボクシングを始めたこともあり、今回の記事を担当させていただくことになりました。それではまいります!

1. ボクシングの4つの特徴

ボクシングへスポンサーすることのビジネスメリットを考える前に、まずボクシングというスポーツ、またそのスポンサー形態の特徴について整理しておきたいと思います。

「んなことわかっとるわ」とも言われそうですが、共通理解のためお付き合いください。

①強くて優しい、というイメージをまとっているスポーツ

これは当然のことですが、ボクシングは格闘技であり、拳を交えるスポーツです。「ボクシングのイメージってどんなんですか?」と路上アンケートを取った日には、おそらく「強い」、「戦う」などのイメージが上位にくるのではないでしょうか。

これに加え、最近の新しい傾向として、「優しい」、「健全」というイメージもまといつつあります。

人によっては「強い」というイメージを持つ反面、「不良上がりがするスポーツ」みたいな印象を持ってる人もいるかと思います。たしかに、学生時代はド不良だったけど更生し、世界チャンピオンになったというボクサーはけっこういらっしゃいます。あのマイクタイソンもかなりの問題児でしたがカス・ダマトに出会い、世界チャンピオンになった一人です。

でもこのイメージ、いまはけっこう変わりつつあるんです。

みなさんもご存知かもしれませんが、「強い」に加えて「優しい」「健全」なんていう、男の理想像を凝縮したようなボクサーたちが登場してきています。

例えば、引退された長谷川穂積選手、山中慎介選手。現役では村田諒太選手、井上尚弥選手など。彼らは「優しくて強いパパボクサー」として知られています。

長谷川穂積選手が勝利した後、リングの上でご自身の子供を抱きかかえて写真撮影したことや、井上尚弥選手がトランクスの中央部に息子の名前を入れて試合をする姿はこれまでボクサーが持たれてきた「ちと怖いよね」というイメージをガラリと変えました。

(出典:神戸新聞NEXT│「プレーバック平成あの日」)

そして、そのスポーツのイメージが変わると、一緒に変わるものがあります。ファン層です。この「優しくて強いパパボクサー」というイメージは、多くの女性ファンを取り込みつつあります。(参照:女性自身│「井上尚弥「強い父親」目指す意味“先輩パパ”長谷川穂積語る」)

もし機会があれば井上選手の試合後、「井上尚弥」でTwitter検索してみてください。「井上尚弥イケメン」、「井上尚弥かっこええ」など、多くの女性ユーザーのコメントがツイートされており、男性からしたらウラヤマ状態を見ることができます。

このように強くて、優しくて、健全なボクサーたちの登場によって、「強いだけじゃない」というイメージが広がりつつあり、それとともにファン層も大きく変わりだしています。

②ボクサーの成績次第では大きな露出が期待できるスポーツ

冒頭でも言いましたが、国内におけるボクシングのTV放映は2000年以前と比べると少なくなりつつあります。ただ米国、英国など、世界的にはいまだに根強い人気があり、ボクサーによってはその試合が世界中に放映されます。

みなさんは、井上選手が戦ったWBSSバンタム級決勝の視聴者数をご存知でしょうか?

報道によると、この試合、世界で5億世帯以上が視聴したと言われています。(参照:THE ANSWER│「井上尚弥、決勝は5億世帯が視聴予定 全世界50か国超で中継「大会を象徴する存在に」)

5億人じゃなくて5億世帯です。2016年のリオ・オリンピック開会式の視聴者数ですら、約3億5千人です。米国のPopulation Reference Bureauのデータによると2019年の世界の平均世帯人数は4.1人とのことなので、5億世帯 x 約4人で、ざっくり20億人があの試合を見た可能性があるということです。(参照:Population Reference Bureau│「Average Household Size」)

世界の人口は約77億人です。ということは、世界の人口の約25%、4人に1人が井上選手を “びよ~ん”とレフリーがブロックした瞬間を目撃したことになります。

もちろん井上選手は200年に一人の天才ボクサーと言われており、こういった選手が登場することは稀ですが、成績次第では試合放映されたときのインパクトはかなり大きいと言うことを知ってもらえればと思います。

③超絶ストイックな体調管理、メンタルコントロールが求められるスポーツ

ボクサーは他のスポーツ選手と同様にストイックに体調、メンタルをコントロールし試合に臨みます。

他のスポーツと格闘技で大きく違う点は、体重制限があるという点です。もし前日計量でリミットオーバーした場合はライセンスの無期限停止などの厳罰が待っています。

そこで、ボクサーたちは体重をリミット内に収めるために、減量生活をするのですが、これが相当きつい。

ボクサーたちはだいたい試合の1ヶ月ほど前から減量生活に入りますが、選手によってはガムを噛みその唾液を吐き出す、水は飲まずにうがいだけ、などの生活を強いられます。

唯一食べることの許されたレタスが、「俺を食べてよ」と話かけてきたという幻聴を聞いたというボクサーもいらっしゃいます。これが幻聴なのか、稲川淳二的な怪奇現象なのかはわかりませんが、ボクサーの減量生活がいかに辛いものかがわかるかと思います。

また、ボクシングというスポーツはメンタル面においても、高いレベルで自分自身のコントロールが必要なスポーツです。減量生活の中、「家系ラーメン食いてぇ」と思う自分や「KOされたらどうしよう」という、じわじわと心をむしばむような黒い感情に打ち克つ必要があります。

もちろん他のスポーツの選手もメンタルコントロールは求められますが、減量で栄養不足な上に、「大勢の前でKOされるかも…下手したら死ぬやん…」という自分の名誉や命に関わるようなプレッシャーに晒されることはないと思います。

ボクサーたちはこのように、心が折れ、挫けそうな自分を何度も律し、奮い立たせることで決戦の日を迎えているのです。

④イベントごとにスポンサーを探すスポーツ

最後に、スポンサー形態の特徴をあげておきます。

サッカーなどに企業がスポンサーする場合、チームと企業で「年間」で契約が結ばれるケースが大半です。もちろんワンショットのイベントのスポンサーもありますが、比較的少ないです。

一方ボクシングでは後援会などの形でジムや選手に年間でスポンサーする形もありますが、ワンショットのイベントにスポンサーするケースが多かったりします。つまり、ボクシングは、ジム全体というより試合ごと、もしくは選手ごとにスポンサーがつく、ということです。

チームの年間の興行スケジュール、開催場所がきっちり決まっているサッカー、野球とは違い、ボクシング興行はボクサーの成績や相手との交渉を経て、興行が決定されます。

つまり年の初め時点では、詳細な興行スケジュールは未定であり、ボクシングジムとボクサーは試合が決まったタイミングでスポンサー探しを始めることが多いのです。

2. 特徴から考えられるボクシングにスポンサーするメリット

ここまで読んでいただいて、いかがでしたでしょうか。

みなさんの「んなことわかっとるわ」よりも「へぇ~」や「ほぉ~」が多かったことを祈りつつ、企業がボクシングにスポンサーすることのメリットについて、考えていきたいと思います。

① 強くて優しいというイメージをまとっている、という特徴をスポンサーがメリットにするには?

これについては、そのイメージを使い、企業ブランドを強化できる、というメリットが挙げられるかと思います。

つまり、企業はスポンサーすることで、ボクシングやボクサーの持つ「強くて、優しい」というイメージを活用する権利を買い取ることができるのです。

例えば警備会社のALSOKやSECOMが自社のレスリング部や柔道部に所属する選手をCMで起用しているケースがあります。これはスポンサーではありませんが、レスリング選手や柔道選手を使うことで、「強くて、頼れる警備会社」というブランドイメージを強化し、社会に認知させようとしています。

空き巣もALSOKのシールが張ってある家を見たら、「ALSOK?吉田沙保里?…高速タックル食らうやん!」と連想し、窃盗に入ることを諦めるやもしれません。

(出典:ALSOK│「安心戦隊ALSOKアドバンス」秋篇」)

他にも自動車関連、不動産関連、保険関連など、夫婦やカップルへ購買を促す際に、男性にアピールしつつも女性側の支持も重要となる製品・サービスを扱う企業にとっては、女性人気が拡大しつつあるボクシングはブランディングの選択肢として検討の余地アリではないでしょうか。

② 大きな露出が期待できる、という特徴をスポンサーがメリットにするには?

これについては、国内外において自社、および自社の製品・サービスを多くの人に露出できる、というメリットが挙げられるかと思います。

井上尚弥選手の次戦はラスベガスで開催されると言われており、もしそうなれば大きな露出が期待できます。露出が大きいということはその分、認知する消費者の数も増え、売上アップにもつながります。

(出典:GUNZE│「BODY WILD」)

下の図は公開されている情報をもとに作成したものですが、井上選手をイメージキャラクターに起用したグンゼ社のメンズ下着「BODY WILD AIRZ(ボディワイルド エアーズ)」の売上推移と井上選手の戦績をプロットしたものです。

(参照:GUNZE│「ニュース」により弊社作成)

もちろんこれが全て井上選手の起用に起因するものとは言えませんが、累積の売上枚数は順調に増加おり、2019年10月から2020年2月までの月間売上枚数は加速して増加しています。あの “びよ~ん”があったWBSS決勝を観戦した20億人の一部が商品購入をしたことも一つの要因と思われます。

③ 体調管理、メンタルコントロールのノウハウが蓄積されている、という特徴をスポンサーがメリットにするには?

上述したように、ボクサーたちの経験する減量生活は過酷です。きっと私なら1日で「焼肉食べたい」と言いながら、隠れて食べログを開くと思います。

この特徴については、きつい減量の中で、感じたことや気づいたことを商品開発に活かす、というメリットがあるのではないでしょうか。

極限状態の中でボクサーが得た感覚は濃度が濃く、一般の人へのユーザーヒアリングとは違った気づきを与えてくれるはずです。

イメージで言うと登山家にスポンサーするアウトドアメーカーが近いかもしれません。彼らはエベレストなどデスゾーンがある山に登頂する登山家にスポンサーし、露出を得るとともに、登山中に気づいた点をヒアリングし商品開発につなげています。

これと似たようなことがボクサーへのスポンサーでも可能だと思います。例えば、ダイエット商品メーカー、サプリメーカー、スポーツメーカー、外食企業などは、ボクサーにスポンサーし、共同で新たな商品、例えば「太らないボクサー飯」、「豆腐メンタルでも挫折しないダイエットプログラム」などの商品開発を進めることも考えられます。

また、メンタル面のコントロールについても、ボクサーのノウハウは活きてくると思います。例えば研修企業などは、「プレゼンでも緊張しないためのメンタルコントロール術」、「トラブル発生時のメンタルの整え方」などを、ボクサーの経験をもとに教育パッケージとすることができるかと思います。

スポンサーしたボクサーに社員研修の一環として、講話をしてもらうという使い方もあります。社会人であれば誰しもが、「この仕事向いてないかもな」、「もう辞めたい…」などと心が折れることがあるかと思います。

極限状態をくぐり抜けてきたボクサーの口から発せられる、どのように自分を奮い立たせてきたのかという鋼メンタルエピソードは、交渉やプレゼンというリングに立つビジネスマンにとっては大いに参考になるのではないでしょうか。

④ イベントごとにスポンサーを探す、という特徴をスポンサーがメリットにするには?

これについては、比較的手軽にスポンサーし、反響を確かめられる、というメリットが挙げられると思います。

ワンショットのイベントにスポンサーできるということは、野球やサッカーのような年間契約のスポーツに比べればだいぶ手軽です。まずは1つの試合にスポンサーし、顧客・取引先からの反響、HPへの訪問数、問い合わせの増減、SNSへの露出、売上への影響等を検証し、次のアクションを判断することができます。

取得できる権利もかなり少額なものからあり、スポンサーしやくなっています。もちろんこれはボクサーの知名度、興行の規模にもよりますが、トランクス広告、グローブ広告、エプロンボード、ロープテープ、コーナーカバーなどが用意されており、値段も数十万円のものからあります。

3. P.S.(この記事は終わりですがボクシングは不滅です)

ボクシングは単なる殴り合いではなく、自分に打ち勝った人間の見せる、戦うことの美しさを見ることのできるスポーツです。

気が狂うほどの減量とKOされる恐怖心を乗り越えたボクサーたちがリングで見せてくれる戦いには目頭を熱くさせられます。

2000年10月に行われたWBA世界ライト級タイトルマッチにおける畑山隆則選手と坂本博之選手の壮絶な打ち合い、2016年9月に現役最後の試合で長谷川穂積選手が9Rに見せてくれた魂の12秒間などはその最たる例です。

今回はボクシングに特化した記事となりましたが、弊社EraではUFCなどの海外の総合格闘技のスポンサー状況なども継続的にウォッチしています。

引き続き、ボクシングを含めた格闘技が盛り上がりにも貢献できるよう、スポーツスポンサーのビジネスとしてのメリットに注目した情報の発信をしていければと思います。

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