みなさん、どちらのご出身ですか?ワタシは千葉県の田舎出身でございます。そんな千葉県も2017年を境に人口が減少しており、今後もその傾向は続く見込みです。これは千葉県に限ったことでなく、日本全体でみても同様です。2029年には日本の人口は1億2千万人を下回ると予想されています。(出典:総務省|我が国の人口及び人口構成の推移)

なので、企業が売上を伸ばそうと思ったら日本国内の需要に期待するよりも、海外市場を狙ったほうが得策だったりします。だからみなさん、海外市場に進出するわけですね。

今回は、国内だけでなく海外にも進出したるでぇ!と海を渡り、うまいことスポーツを使って市場開拓に成功したお話です。主人公はあの森永製菓です。

この記事は、千葉県のど田舎でカブトムシ捕獲とザリガニ釣りに小学校人生を捧げたサセが担当いたします。

1. 森永製菓の悩み:海外進出って難しいわぁ…

先ほども書きましたが、今回の主人公は森永製菓です。その中でもハイチュウ海外展開のお話です。そうです。あのみんな大好きハイチュウです。日本人であれば誰もが必ず食べたことがあるのではないでしょうか。中にはハイチュウを食べすぎて歯の詰め物をもってかれたなんて人もいらっしゃるかと思います。

森永製菓は2008年にアメリカ子会社を設立し、ハイチュウを売り込もうとします。それは、国内市場の拡大があまり期待できる状況ではなかったからです。みなさんご存知の通り、2003-2008年ごろ、国内人口はほぼ横ばいでした。それと歩調を合わせるように、ハイチュウを含む国内の菓子生産金額もほぼ横ばい。お菓子の需要は「お菓子を買う人の数 x 1人の消費者がお菓子を食べる量」によって決まります。ただ、国民1人がお菓子を食べる量を急激に増やすなんてことはありえません。とすると、お菓子の消費量(≒生産量)は人口の増減に左右されます。そして、国内ではその人口が横ばいだったワケです。

2003年~2008年の日本の人口推移
(出典:全日本菓子協会(ANKA) |菓子統計資料、総務省|我が国の人口及び人口構成の推移 より作成)

こんな人口予測をみて、森永製菓は「国内市場アカンかも…」と思ったのではないでしょうか。そこで森永製菓は海外進出を目論みます。先に述べたように2008年にアメリカ子会社を設立し、エース商品であるハイチュウをアメリカに売り込もうとします。ちなみになんでアメリカだったかというと、アメリカのキャンディー市場は日本の5倍です。(出典:夢と希望と笑いと涙の英語塾|ハイチュウ、アメリカで人気商品に) お菓子の需要規模を決める人口はどうかというと…、2.90億人(2003年)→2.93億人(2004年)→2.96億人(2005年)→2.98億人(2006年)→3.01億人(2007年)→3.04億人(2008年)と順調に増加し続けていたのです。(出典:IMF |Country Data)

そんなこんなで森永は、“カ~モンベイベーアメリカ!”とDA PUMPばりにアメリカに進出します。ただ、現実はなかなか厳しかったようです。アメリカにおける2011年の売上は4億円、2012年は5億円、2013年は8億円と鳴かず飛ばずの状態でした。導入率/認知率でみても西海岸で少しだけ知られているお菓子、という状況だったようです。(出典:森永製菓|平成28年3月期 決算説明会)

アメリカでの州別ハイチュウ認知率
(出典:森永製菓|平成28年3月期 決算説明会 より作成)

森永製菓が運営する森永製菓のファンサイト、エンゼルPLUSでも森永はこう言っています。

(出典:エンゼルPLUS |Hi-CHEW in U.S.A Product Line up)

このように国内では知られた森永ですが、アメリカではその知名度のなさから販路拡大にかなり苦労したようです。

2. アメリカで苦戦する森永製菓に神風が吹いた

そんなアメリカ展開に苦戦していたハイチュウに神風が吹きます。そのきっかけとなったのが、MLBのボストンレッドソックスに所属する日本人メジャーリーガーの田澤純一選手でした。田澤選手は日本のプロ野球を経由せずにレッドソックスと契約した選手です。

メジャーリーガーは集中力を保つために試合中にガムを噛みますが、田澤選手はハイチュウを好んで食べていました。田澤選手のハイチュウを食べたチームメイトは言います。“ワオ!コレオイシーネ!”と。これは想像ですが、おそらくこんなかんじでレッドソックス内にハイチュウはうめぇぞと知られていきます。

チーム内でまたたく間に大人気となったハイチュウ。田澤選手は日系スーパーで大量に買い込んで、チームメイトに配っていたそうです。その後、チームから森永製菓アメリカ子会社にまとめ買いできないか、と打診があったようです。(出典:現代ビジネス|レッドソックス田澤が持ち込んだ「日本のお菓子」が大ブーム)

3. チャンスを掴んだ森永製菓。何をどうした?

森永はこれをハイチュウの販路拡大のチャンスと見ます。森永はまずハイチュウをレッドソックスにサンプル提供した後、2014年に正式なスポンサーシップ契約を結びます。

具体的にはまずホームスタジアムのフェンウェイ・パーク内でのロゴ掲出です。加えて、森永はスタジアム周辺でハイチュウを無料配布する権利を得ました。

(出典:Fenway Sports Management (FSM) |Fenway Sports Management case study)

実はそれまでも森永は学校などでハイチュウの無料配布をしていました。ただ、なかなか大きな成果に結びついていなかった。スタジアムにおける無料配布は学校での無料配布と決定的に異なる点があります。それはレッドソックスという権威・地元民からの信頼の傘のもと、効率的に大量の人にリーチできる、ことです。

学校などへ無料配布はどうしたって散発的になります。アメリカは国土が広いため、学校間の距離がめちゃ遠かったりします。そしてMorinagaというブランドは定着していない。するとせっかく学校まで行っても、“What?Morinaga?シラネーヨ”と門前払いされる可能性大です。無料配布を受けた子どもたちも“What?Morinaga?タベタクナイネ”と少しためらうと思います。例えるなら、日本人が謎の東南アジア製のお菓子を突然渡されたかんじでしょうか。

しかしスタジアムにおける無料配布はレッドソックスという権威にくっついて、一定の信頼のもとに多くの人にリーチできます。スポーツチームは当然ながらファンを抱えており、そのファンとの間に信頼関係を構築しています。スタジアムの無料配布はファンの心理的バリアを一気に下げることができるのです。レッドソックス公認のお菓子なら試してみようか、って。

しかも1度にリーチできるファン数も学校での無料配布に比べるとはるかに多くなります。レッドソックスはMLBの中でもかなりの人気チームで2019年の観客動員数は30チーム中7位です。年間の総観客動員数は2,924,627人で、1試合平均にすると36,106人にもなります。このように心理的バリアが下がった多くのファンにリーチできるのが、スタジアムにおける無料配布なんです。

実はこの無料配布。ファンだけでなく、レッドソックスの選手と相手チームの選手にも行われました。レッドソックスと相手チームのロッカールームに、ご自由にお取りくださいのハイチュウが置かれたのです。すると、レッドソックスだけでなく他のチームの選手もハイチュウの虜になっていきました。実際に2014年には、“ヤンキースが日本のキャンディに病みつきになってるで”なんて記事も書かれているほどです。

スタジアムへの来場者(1次露出)は数万人レベルですが、このような新聞記事のPV数(2次露出)は数百万レベルです。そして新聞記事や関連情報がWebやSNSに次々と出回ると(3次露出)、一気に全米に認知が広まります。そして、そのお菓子に興味を持つ潜在顧客が増え、スーパーや小売店も来店者の目の付きやすい棚に商品を置いてくれるようになります。実際に今まで門前払いだったスーパーや小売店が興味を持ち出し、ハイチュウの売出しを検討し始めたそうです。(出典:Fenway Sports Management (FSM) |Fenway Sports Management case study)

スポーツマーケティングによる露出拡大イメージ
スポーツマーケティングによる露出拡大イメージ

このようにスポーツチームと何かをすることは、そのチームの権威・信頼を借りれるってことです。その権威によって“どこの馬の骨かもわからん”という心理的バリアを下げることができます。そして、影響力のある選手たちの興味を引くことにより、そこにメディアバリューが生まれます。結果的に、物理的に接触できる人数を大きく上回る人数の潜在消費者の関心を引くことができるようになります。

4. 認知度&売上の急拡大。新たな海外市場への参入

このレッドソックスへのスポンサーシップ施策をきっかけにアメリカ内でのハイチュウの認知度も爆上がりしました。アメリカに進出した2008年当時、ハイチュウは西海岸でちょっとだけ知られるマイナーお菓子でした。しかし今では西海岸、東海岸、南部を中心にかなりメジャーなお菓子になっています。

認知度の拡大とともに、売上もかなりの勢いで拡大していきます。スポンサー契約を結んだ2014年から2015年にかけては8億円→19億円、と倍以上に増加しています。その後も順調に売上を伸ばし、2021年には72億円にまで成長する見込みです。いまでは森永製菓のキャンディー部門売上全体の20%以上を占めるほどです。

ハイチュウのアメリカ売上推移
  (出典:森永製菓|2020年3月期決算説明会より作成)

しかも、ハイチュウ取扱店は日系ではなく、米系の小売店が大半を占めています。実際にウォルマートやウォルグリーンズがハイチュウを店舗に置いています。2016年時点でアメリカにはウォルマートの店舗が4,574ありました。そのうちの約8割に当たる約3,700店舗がハイチュウを売り出しました。ウォルグリーンズにいたっても8,175店舗のうち、こちらも約8割に当たる約6,500店舗が売り出したとのことです。2008年時点では門前払いだったのに。おそるべしMLBの権威。(出典:statista |Total number of Walmart U.S. stores in the United States from 2012 to 2020, by typeWalgreens’ number of stores in the U.S. 2005-2020、森永製菓|平成28年3月期 決算説明会

その後、イケイケのハイチュウは同じような手法でニュージーランドの市場開拓にも着手します。ハイチュウは2011年からニュージーランドでの販売を開始し、2015年にオークランド・シティFCスポンサー契約を締結します。オークランド・シティFCはFIFAクラブワールドカップにも出場している名門クラブです。ニュージーランドといえばラグビーやろって思ったアナタ。ワタシもそう思いました。しかし、ニュージーランド人の元Jリーガー、ケイン選手によれば、ニュージーランドで子どもたちに一番人気のスポーツはサッカーだそうです。(出典:Soccer Digest |「NZで子どもに一番人気のあるスポーツはサッカーです」元Jリーガーが明かしたラグビーを選ばなかったワケと日本への想い)

そして2015年にスポンサードをして以来、出荷量が3倍になり売り上げは200%アップとかなりイケイケになったようです。(出典:Livedoor News |森永「ハイチュウ」は何故オークランド? 本社に聞いてみた)

5. おわりに(海外展開をお考えの方々へ)

いかがでしたでしょうか。今回は地域のスポーツチームという権威・信頼を活用して、海外市場を開拓するってお話でした。もちろん商品そのものがショボかったり、顧客のニーズを無視したりしてはダメです。森永もアメリカに多いヒスパニック系の人々の好みに合わせ、マンゴー味ハイチュウなんかを市場に投下しています。またアメリカ人はパーティーしがち、という特性を考慮して1Kgパックのハイチュウを販売しています。(※1粒1Kgではありません)
また、ハイチュウの噛みごたえは森永の独自製法である砂糖の結晶化技術によるものだそうです。

商品を売るにあたっては、開発・製造段階でこのような絶え間ない努力が必要なのはご想像の通りかと思います。ただ、どんなに商品に磨きをかけても、売れねぇ!ってときは、その地域の人々からの信頼が足りていないことが原因かもしれません。そんなときは誰もが知るスポーツチームという権威・信頼を使ってブランディングする。そしてステークホルダーたちの心理的バリアを下げるってのも一案かと思います。

特に、日本においては国内人口の減少が国家的な課題となっており、国内需要の今後の増加は恐らく見込めない。そうなると企業の生き残りをかけて海外進出し、新たな需要を切り開いていかねばなりません。

そのような時に、今回の事例のようにスポーツ・スポンサーシップというマーケティング手法は適切に行えば、とても強力な武器になります。

今後もこのようなことでお悩みの方々に少しでもお役に立てるよう、スポーツスポンサーシップを活用して海外進出に成功した事例を引き続き調査・研究していきたいと思います。TwitterやFacebookなどのフォローどうぞよろしくお願いいたします。

また、「うちの商品・サービスの場合、どの国のどのスポーツチームとコラボすればいいんだろ」「どんなコラボ施策を打てばいいんだ」などお困りの方いらっしゃいましたら、何かお役に立てるかもしれませんので、お話お聞かせ頂けると幸いです。お気軽にお問い合わせ下さい!