ちょっと前に出した「スポーツチームと作る企業のCSR価値」で投資家たちに新しい価値観が生まれてきているって話をしました。それは「やっぱり利益の追求だけじゃなくて、環境とか社会問題に配慮した持続的な社会発展を目指している企業に投資しようぜ!」ってやつです。その価値観に沿った投資アプローチの一つがESG投資(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)です。そしてこのESG投資が世界ですくすく成長中ってこともお話しました。

前回記事は“社会価値は他にも算出手法があります”って匂わせて終了しました。それが「アウトカムで試算する」ってやつです。今回はある事例をピックアップし、この“アウトカム”で算出するってのをやってみたいと思います。

「いまさらかよ!」って言われそうですが、最近私はAmazon VideoでTBSの“ノーサイドゲーム”をイッキ見しました。スポーツの素晴らしさを再認識するとともに、いたく感動しました。各話の一番いいとこでかかる米津玄師の馬と鹿。その最初のフレーズ、“歪んで傷だらけの春~”がいまでも私の頭の中でこだましています。今回はそんな私(サセ)が執筆いたします。いこうぜアストロズ!

1. アウトカムってなんぞ?(アウトプットとの違い)

まずはじめにアウトカムってなんぞって話です。アウトカムはアウトプットによって作られるので、先にアウトプットの説明をしときます。アウトプットとは、いわば「活動と、その定量的な成果」です。例えば、“スポーツ教室を年に100回実施”だと、スポーツ教室=活動、年に100回実施=成果となります。“ゴミ拾いを100人で100時間実施”であれば、ゴミ拾い=活動、100人×100時間で1万時間=成果となります。

なお、インプットとはアウトプットを作るためのヒト・モノ(情報)・カネといった必要資源です。例えばスポーツ教室をするために必要な選手やチームスタッフといった人的資源。またそれらの持つノウハウ(情報)がこれにあたります。

そしてこのアウトプットによって生じた、社会的、環境的な変化のことをアウトカムといいます。例えば、プロ野球球団が年に100回、スポーツ教室を実施していたとします(=アウトプット)。そこにある少年野球チームが参加しました。このスポーツ教室によって、この少年野球チームが劇的に強くなり、ちびっこ野球大会で優勝した。これが、プロ野球球団が年に100回実施した野球教室(アウトプット)がもたらした社会的な変化です。

前回までは活動とその定量的な成果であるアウトプットで試算してきました。例えば、Bリーグの選手が子どもと数十時間、交流した。ではこれと同じだけの活動量をBリーグ選手が、バスケしていたらいくらだったか?ってな具合です。今回はアウトプットの結果、みなさんの回りに起きた社会的、環境的な変化はいくらの価値があったのか?という試算にチャレンジする記事なんです、はい。

2. フィーチャーする社会的な取り組み

前々回の記事は横浜Fマリノスのゴミ拾い活動。その次はBリーグの子どもたちとのふれあい活動。冒頭でノーサイドゲームの話をしたからラグビーか?と思ったアナタ。申し訳ありません。今回は野球です。むかし九州に住んでいた弊社社長が熱烈なファンという理由だけで、今回は福岡ソフトバンクホークスの環境保全活動にフォーカスしたいと思います。

ホークスの本拠地であるPayPayドーム。ご存じの方も多いかと思いますが、福岡ソフトバンクホークス(株)の親会社であるソフトバンク(株)は2012年に福岡ヤフージャパンドームを870億円で買収しました。(出典:毎日jp | ヤフードーム:ソフトバンクが870億円で買収) つまりソフトバンクホークスはチームと球場の一体運営をしている球団となります。そして2014年、PayPayドームの照明を全面LEDにして省エネ化を図りました。(出典:福岡ソフトバンクホークス|グラウンド照明の全面LED化について

(出典:グルコミ| 福岡 PayPayドーム)

3. 実際に計算してみた

ではでは実際に計算していきましょうかね。上記省エネ化の取り組みを、冒頭でご説明したアウトプット・アウトカムで整理すると、こんなかんじでしょうか。

それではここから実際の試算に入っていきますが、試算ステップの全体像を示しておきます。まず、ステップ1として、LED化によって削減された電力量を計算します。次にステップ2では、削減された消費電力量をCO2に換算します。ここではCO2排出係数ってのを使います。最期にステップ3では削減されたCO2をお金の価値に換算します。

ステップ1. 削減された電力量を計算する

まず、福岡ドームの照明を全面LED化することにより、平均消費電力が58%削減されるそうです。(出典:福岡ソフトバンクホークス|グラウンド照明の全面LED化について 加えて、LED変換後の平均消費電力は579.886kWだったそうです。ということは、LED化前の消費電力は579.886kW/(1-0.58)=1380.631kW。つまり800.745kWがLED化によって削減された消費電力っちゅうわけです。

ちなみに、このkW(キロワット)とかkWh(キロワットアワー)。違いがよーわからなくないですか?簡単に言うと、kWは瞬間的な電気の強さや大きさを表しています。一方、kWhは1kWの大きさの電力を1時間消費したときの電力量を表しています。kWは強さや大きさ、kWhは量、ってことです。概念的には下の図のようになります。kWとかWは蛇口から出る水の強さ。kWhとかWhは蛇口から出る水を、出しっぱなしにし続けた結果、水槽に溜まった水の量です。

(出典:太陽生活 | kWとkWhは何が違うんでしょうか?

ということは、LED化によって削減された消費電力800.745kWに年間で照明が使われた時間をかければ、削減された電力量がわかるわけです。

ではこの“照明が使われた時間”をカウントしていきます。そのためにPayPayドームの稼働日を確認します。この稼働日、2つに分けられます。1つは野球の試合で使用する日。もう1つは試合以外のイベントで使用する日です。

まずは1つ目の野球の試合で使用する日は何日あるんでしょうか。ソフトバンクホークスのHPをチェキすると、2019年は、公式戦64試合(64日)、オープン戦10試合(10日)、クライマックスシリーズ3試合(3日)、日本シリーズ2試合(2日)で、総試合使用日数は79日となります。(出典:福岡ソフトバンクホークス|試合日程

次に、この試合日の1日あたりのドーム使用時間をざっくり計算してみます。試合前の練習等の使用時間を2時間。その後に開場から試合開始まで2時間。試合時間が3時間。試合終了から閉場までを1時間と仮定すると、ざっくり8時間になります。そうすると、試合日にLED照明がついている年間の総時間は、79日×8時間=632時間となります。なお、デーゲームでも屋根を閉めたまま試合することが多いらしいので、全ての試合で照明がついていることとします。

次に野球の試合以外のイベントについて。ざっと確認したところ野球の他にライブイベント、展示会などがあります。ライブイベントにはまずアーティスト1組の通常ライブがあります。“Mr.Childrenドームツアー in 福岡”みたいなやつです。他には音楽フェス、オールナイトライブがありました。ライブイベント&展示会のそれぞれの日数と照明稼働時間を計算すると、ざっと444時間になります。

それと忘れてはいけないのがイベントの準備と撤収の時間。2019年のPayPayドームで行われたイベント数は29ありました。なのでその前日と次の日の2日間でアルバイトを総動員し、準備と撤収が行われると仮定します。すると年間1,392時間が準備&撤収にかかっており、その間は照明がギンギラギンとついていると考えられます。

というわけで、野球の試合:632時間、ライブイベント&展示会:444時間、準備&撤収:1,392時間の合計2,468時間がPayPayドームで照明がついている時間と考えられます。

つまり、LED化によって削減された年間電力量は、

となります。

ステップ2. 削減されたCO2排出量を計算する

ここまでは、削減された電力量を計算しました。それでは次にこれをもとに削減されたCO2排出量を計算したいと思います。

世の中にはCO2排出係数なるものが存在します。これは電気を1kWh作るのに、どれだけのCO2を排出しているかを示す数値です。つまり、PayPayドームで削減された1,976,238 kWhにCO2排出係数をかければ、削減されたCO2排出量に換算できてしまうわけです。

なお、この排出係数、電力会社ごとに違います。例えばバンバン石炭を燃やして、モーレツにCO2を出しながら電力を作ってる電力会社の排出係数は高くなります。逆に太陽光だけで発電している電力会社の排出係数は0(ゼロ)になります。PayPayドームの契約電力会社は公表されていませんが、九州電力管内にあります。というわけで、九州電力のCO2排出係数0.000371 t-CO2/kWhを使って計算することにします。(出典:九州電力 | 2019年度のCO2排出係数について

すると削減されたCO2排出量は、

となります。

ステップ3. 削減されたCO2排出量の価値を計算する   

では最後のステップとして、この削減された733トンのCO2排出量を金額換算します。日本には削減されたCO2排出量に値段をつけて、取引できるようにした仕組みがあります。これはJ-クレジットと呼ばれるもので、経済産業省、環境省、農林水産省が運営しています。要は削減されたCO2排出量を環境価値として値付けしているわけです。

例えばどこかの施設が省エネ機器を導入して、CO2排出量を減らした。また、どこかの誰かが木をたくさん植えて、CO2吸収量を増やした。こんな排出削減量や吸収量を国がクレジットとして認証します。省エネ機器を導入した人&木をたくさん植えた人をJ-クレジット創出者といいます。この創出者は認証されたクレジットを売ってお金に変えることができるんです。逆に、J-クレジット購入者は自分たちの活動で、必ず発生してしまうCO2を、購入したクレジットで埋め合わせることができたりします。

(出典:J-クレジット制度|J-クレジット制度について

今回のPayPayドームの照明LED化も同じです。LEDという省エネ機器を導入→消費電力量が減る→CO2排出量が減る、という流れです。なので、この削減されたCO2排出量がJ-クレジット制度で取引されたとしたら、おいくら万円だったのか、で試算してみたいと思います。

J-クレジット制度の中の排出削減量の取引価格は時期によって変動します。今回は第4~8回の取引の平均落札価格:1,424.8円/tを使いたいと思います。(第1~3回は再エネと省エネの取引価格をまぜこんで平均値を出している。第9回は取引ナシ)(出典:J-クレジット | 入札販売

すると、

となります。

しかもソフトバンクホークスはLED化を2014年に実施しています。1,044,641円は1年間の価値なので、これを例えば5年分にするとざっくり500万円ほどの社会的価値(≒環境価値)を生んでいることになるのです。

4. 【注意】アウトカムをどこで測るか

なお、今回は照明をLEDに取り替える(アウトプット)→CO2排出量が削減された(アウトカム)という流れでした。そしてこの削減されたCO2排出量というアウトカムを金額換算しました。ただ、このアウトカムには“続き”があります。

例えば、CO2排出量が減る → 温暖化が抑止される → 気温が必要以上に上がらないことで、人々の生活が維持される、など。1つのアウトカムが生まれたら、必ず別のアウトカムが生まれ、連鎖しているはずです。

そしてどこの時点のアウトカムを測るかで当然、社会的価値の大きさも変わってきます。今回はアウトプットの次に生まれる、初期アウトカムの価値を算出しました。でも、温暖化が抑止されたおかげで生活が豊かになった、って人が世界中いることがわかったとします。こんな人たちの喜びを定量化したら、それはそれは大きな価値になります。

「じゃあ長期のアウトカムで換算したほうがいいじゃん」と思ったアナタ。私もそう思います。ただ、長期になればなるほどアウトカム to アウトカムの因果関係を把握することが激むずになります。CO2排出量削減なんて、その最たる例です。たとえどこかの施設や国がCO2を削減したとしても、それが別の国の温暖化抑制にどの程度貢献したなんてわかりゃしません。なので、時間が先になる&範囲が広くなるほど、アウトカム間の関係性を示すことは難しくなるのです。

5. おわりに

いかがでしたでしょうか。アウトプットという活動の成果ではなく、社会における変化というアウトカムで換算するやり方がおわかりいただけたら幸いです。

ただ、最後にも書きましたがアウトカムで測るってかなり大変です。まず、「何を持って変化したとみなすか」という問題があります。CO2排出量なんかは上のようすれば算出できます。ただ、人々の心の中が変化したとか、コミュニティの帰属意識が高まった、などを定量化するのは激むずです。それと、上にも述べましたが、アウトカム to アウトカムの因果関係を明らかにすること。これもなかなかの難易度です。

弊社Eraではこのへんのアウトカムベースでの算出についても日々研究を重ねています。もしディスカッションしたい、協業したいなどのお問い合わせがあればいつでもご連絡待ってます。