いきなりですが、専業主婦のみなさんには本当に頭が下がります。うちの母親も専業主婦で朝から晩まで家族のために家事をしていました。そんな母親の姿を見て、「お金をもらってるわけでもないのにあれこれしてくれてありがたいな」と感謝の念を抱いた高3の夏。

このようにお給料などをもらってなくとも、家族や社会のために活動されている方はたくさんいます。こういった頑張りに価値がない、と思う方はいらっしゃらないと思います。でもじゃあいくらの価値があるのか?と言われても「年間いくらの価値がある」と言うのは難しい。でも絶対に(x100)価値はある。

これと同じことがスポーツチーム・団体でもあります。スポーツチーム・団体にはチケットや物販売上というお金で表現できる価値があります。それとは別に、彼らは地域の名前を発信したり、青少年の健全育成のために活動したりと、公益性の高い社会貢献活動を行っています。でもそれがどれだけ価値のあることか分かり辛い。じゃあどうすれば分かりやすく価値を測れるのか?

今回の記事はスポーツチーム・団体の持つ社会的価値をお金に換算して評価する。そんなことについて考えてみたいと思います。

1. スポーツの持つ価値

みなさん、スポーツの持つ価値って考えたことありますか?例えば、チケットやグッズ販売で表される経済的な価値。他には看板やユニフォーム看板のような広告的な価値。はたまた人々に希望と勇気を与える心理的価値なんかもあります。

弊社と日本政策投資銀行、あずさ監査法人は2020年3月に「スポーツの価値算定モデル調査」というレポートを出しました。この中で我々はスポーツの価値を3つ定義しました。

※「スポーツの価値算定モデル調査」レポートはこちらからダウンロードできます

1つ目はチケット収入や物販などによる財務価値。要は「おいくらお金を稼いでるか」という財務諸表に表れるもの。

2つ目はスポーツチーム・団体の持つブランド力にもとづく潜在的財務価値。チームとの協業により、潜在的に地域やスポンサーの認知向上や販促に寄与する可能性のあるもの。

3つ目は地域や他産業などのステークホルダーにもたらされる社会的価値。もちろん財務指標では表現できませんが、地域の人々に喜びをもたらしたり、誇りになったりする公益性の高い価値です。

(出典:日本政策投資銀行|「スポーツの価値算定モデル調査~地域社会の持続可能な成長をもたらす、スポーツチームの価値の可視化~」を発行

1つ目の財務価値はズルせず会計処理してさえあれば計算できます。その道の方にお願いしたらちょちょいと計算してくれます。2つ目の潜在的財務価値も測定方法はものにより変わりますが、露出量を計測し、広告単価をかけ合わせたりすれば計算可能です。

問題は3つ目の社会的価値。これについてはなかなか計算が難しいのが現状です。スポーツチーム・団体は、ファンやスポンサーをつなげたり、病気に苦しむ人を勇気づけたりします。こういった公益性の高い社会貢献活動などは誰もがその価値を認めるところかと思います。しかし、定量的に評価するのが難しいがゆえにないがしろにされている。それが社会的価値なのです。

スポーツチーム・団体の社会的価値といっても様々あります。上で紹介したレポートでは、地域に「あつめる」、地域を「つなげる」、地域を「そだてる」という3つで整理しています。

地域に「あつめる」は、文字通りファンや新規住民をその地域に集めることです。私の友人もお気に入りのサッカーチームがあるという理由で、私に何も言わず東京から長野県に引っ越してしまいました。これなんかも、そのチームが地域に人々を引きつけるという社会的価値になります。

地域を「つなげる」は地域の人、お店、ファン同志の結束を強め、所属意識を高めることです。例えば、広島東洋カープのある広島市。2016年に25年ぶりのリーグ優勝を果たしたときは、広島市内が「カープを応援する」という思いのもと、ちょっとした一体感に包まれました。

最後に地域を「そだてる」。これはスポーツチームがあることでその地域があらゆる面で「良くなる」ことです。例えば青少年がスポーツに打ち込む→非行に走らない→犯罪発生率が下がる→治安が良くなる、など。

今回の記事では地域を「そだてる」における具体例に絞って、その価値を試算してみようと思います。

※3つの社会的価値についてもっと詳しく知りたい方はこちらからレポートをご参照下さい

2. フィーチャーする社会的な取り組み

スポーツチーム・団体が地域を「そだてる」価値を作る活動にもいろいろあります。例えば選手や監督が小学校に行き、スポーツの技術や楽しさを教える。スタジアムが避難拠点となり、地域の防災機能を備える。これらはあらゆるスポーツチーム・団体が取り組んでいます。

どのスポーツチーム・団体の活動を取り上げようかなぁ。2週間ほど悩みました。結果、去年のJリーグ覇者という理由だけで今回は横浜Fマリノスの活動にフォーカスを当てます。

横浜Fマリノスは、Jリーグ10クラブ、Bリーグ1チーム、プロ野球1球団が実施している清掃活動LEADS TO THE OCEAN 〜海につづくプロジェクト〜(以下、LTO)に参加しています。この活動は環境の面から地域をそだてる(良くする)活動と言えます。

LTOでは、各チームはそれぞれ試合前に一般の参加者を募り、ゴミ拾いをします。今回の記事では横浜Fマリノスの2018-2019シーズンのLTO活動について試算していきます。

(出典:横浜Fマリノス|活動履歴

3. どうやって計算する?

横浜FマリノスのLTOの社会的価値を試算する前に計算手法を紹介しておきます。(ドラえもん風に)“価値はあるけど測れない~”な活動はどうやって計算できるのでしょうか。

内閣府経済社会総合研究所が「無償労働の貨幣評価」というレポートを公表しています。ナイス内閣府。

このレポートは家事、介護・看護等の無償の家事活動、家計のボランティアを “Unpaid Work”(無償労働)とし、お金への3つの換算手法を取り上げています。(出典:内閣府経済社会総合研究所 |無償労働の貨幣評価

まず1つ目は機会費用法(Opportunity Cost method:以下、OC法)。2つ目は代替費用法スペシャリストアプローチ(Replacement Cost method, Specialist approach:以下、RC-S法)。3つ目は代替費用法ジェネラリストアプローチ(Replacement Cost method, Generalist approach:以下、RC-G法)。

ざっくり説明します。まずはOC法。これは本業で時給1000円だった人が、2時間ボランティアをした場合、その価値は2000円でした、とするものです。要は、当人が本来稼ぐはずだった時給で計算します。

2つ目のRC-S法。これは「その道のスペシャリスト」が同じことをしたらどのくらいの価値があるか、というものです。例えば被災地の片付け。ボランティアが10時間片付けをした。ではこれを土木関係のプロにお願いしたらいくら必要だったのか、というものです。要は専門家が代替したときの時給で計算します。

3つ目のRC-G法。これはその道のスペシャリストではなく、一般人がボランティアした場合いくら必要だったのか、で計算するものです。つまり、一般の人が代替したときの時給で計算します。

これら3つの手法は、そのケースによって最適なものを選んだり、3つを使って試算額の幅を持たせたりします。

横浜FマリノスのLTO活動は清掃活動です。地域のゴミを集めるという活動は本来、行政が実施するものです。そこを横浜Fマリノスが求心力を持ってボランティアを集め、代替していると考えることができます。

つまり、横浜市が清掃職員という専門職を雇って実施する行政コストの一部を代替しているのです。というわけで、ここではRC-S法(代替費用法スペシャリストアプローチ)を用いて計算します。

4. 実際に計算してみた

RC-S法で横浜FマリノスのLTO活動を算出する場合、以下のような式になります。

横浜FマリノスのLTO活動の社会的価値=

①参加者1人の活動時間 x ②延べ参加人数 x ③専門家の時給

ここからは少しだけ前提条件を置きながら、①、②、③を定義していきます。

まずは①の参加者1人の活動時間。LTOは概ね試合前の3時間、参加者の受付をしているので、実活動時間はひとり2時間とします。次に②の延べ参加人数。2018年はLTOを17回実施し、452人が参加しています。(出典:横浜Fマリノス | LEADS TO THE OCEAN横浜Fマリノス活動履歴

最後に③の専門家の時給。これについては管轄である横浜市清掃職員の時給を用いたいと思います。

まず、横浜市職員の給与データをみると、平成30年度の横浜市清掃職員の年収は約664万円だそうです。(出典:横浜市 | 平成30年度横浜市の給与・定員管理等について

単純にこれを年間の労働時間で割れば時給が出ますね。

横浜市の規程を見ると、1日の就業時間は8時間となっています。(出典:横浜市 | 横浜市一般職職員の勤務時間に関する規程

もちろんこれに残業もあると思います。また有給も取得しているはずなのでこのへんも加味しておきます。

横浜市職員は、月8.6時間の残業、年15日の有給休暇取得となっており、清掃職員も同様であると考えられます。(出典:マイナビ | 横浜市役所。加えて、2018年度(平成30年度)は、土日祝日と年末年始休暇が合わせて121日あります。

以上のことから年間労働時間を計算すると、まず勤務日数が、365日-121日-15日=229日です。

ここから、残業時間を加えた年間の労働時間を計算すると、(229日 x 8時間) + (12ケ月 x 8.6時間)=1,935.2時間。これが2018年の清掃職員も含む横浜市職員の年間の労働時間となります。

というわけで、664万円 ÷ 1,935.2時間=約3,400円。これが横浜市清掃職員の時給ということになります。

つまりつまり、まとめるとこんな試算結果になります。

大雑把な点はありますが、専門家に頼んだら、これだけかかるということです。なかなかの金額ではないでしょうか?

5. おわりに

今回は、横浜F・マリノスの数ある社会貢献活動の中から、1つだけピックアップして社会的価値を試算しました。それだけでも3ケタ万円になります。社会貢献活動というものは尊いものであり、必ず価値があります。しかし財務的な価値に換算できないがゆえに軽んじられてしまうものです。

このようにお金に置き換えて定量的に表現することで、なんとなく良さそう、ではなく「これだけ価値があるんです」と言えるようになる。そして、これをベースにスポンサー企業、自治体などのステークホルダーとスポーツチームの間で、“より実態のある”対話が生まれるのです。すべてはそこから始まります。

というわけでスポカチ.jpでは、他のスポーツ、別のテーマの社会的価値の試算についても記事をあげていきます。

スポーツチーム・団体、リーグは地域や社会にとって経済的な価値を生みます。それと同時に人々の生活や心に彩りを加えてくれる社会的な存在です。

弊社はそんなスポーツチームが持つ社会性や公益性を明らかにしていきたいと思っています。もし「うちのチームの社会的価値ってどのくらい?」みたいなご相談がありましたらウェルカムでございます。またスポンサー企業様で「スポンサーしているチームの社会的価値どのくらい?会社のCSR価値の一部にしたいんやけど」みたいなご相談も絶賛受付中です。