ちょっと前に公開した「【Jリーグ編】企業のCSRにスポーツチームは貢献するのか?」。この記事の中で、横浜Fマリノスの清掃活動の社会的価値をお金に換算してみました。

あの記事の公開後、何人かの方にご指摘をいただきました。

「スポーツチームが社会的価値を生んでることはわかったけど、企業のCSR価値との関係は?」

おっしゃるとおりでございます…。後からタイトルを変更したという経緯もあり、そこの説明が激ウスでございました。

というわけで今回の記事では前回同様、スポーツチームの社会的価値を試算します。加えて、スポーツチームの社会的価値はオーナーorスポンサー企業にどのようにメリットをもたらすのかについても追加で説明していこうと思います。

1. オーナーorスポンサー企業にメリットがもたらされる仕組み

「24時間、戦えますか」。これらは1989年から放送された某栄養ドリンクのCMコピーです。

戦後から1980年代ぐらいまで日本はとにかく経済成長を追い求めていました。人々は「リッチになろうぜ!」を合言葉に命を削って働きました。これは他国も同様です。海外の多くの国で「GDP爆上げしたるぜ!」みたいな時代を経験しています。

しかし最近では違う価値観が生まれつつあります。それは「やっぱり環境とか社会問題って大事だよね」という持続可能な社会の発展を重視した価値観です。

特に投資家の間では「目先の儲けも大事だけど、持続的成長のために社会貢献もしてる企業に投資しよ」という考えが広まりつつあります。

その1つが環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字をとったESG投資です。ざっくり言えば、投資家たちがこの3つに配慮している企業を重視・選別して行う投資のことです。          

いやいや、投資家たちの投資基準はなんだかんだで売上成長性とか利益率とかっしょ!って思ったあなた。私もそう思ってたんです。でも、現実はかなり違うみたいです。下のグラフは投資家たちの総運用資産に占めるESG資産の割合推移です。要は投資する資金のうち、ESG基準で投資されるお金はどれくらいか、の割合です。

これをみると、欧州、カナダ、オーストラリア・ニュージランドでは約半分かそれ以上の投資運用資産がESG投資に回されています。日本でも2016年から2018年にかけてその規模は6倍まで膨れ上がっています。このように世のため人のためなESG投資の規模は世界的にすくすくと成長中なわけです。

(出典:財務省 | ESG投資の動向と課題より作成)

このように、世界的なトレンドとして投資家たちがESGの要素を重視するようになっている。言い換えると、ESGスコア向上のための活動や発信にちゃんと取り組んでいる企業ほど、投資家たちから評価され企業価値が高まるということです。

2. 社会的価値をお金に換算する理由

企業がスポーツチームを所有orスポンサーすることは、当然ながらそのスポーツチームを支えることです。それはスポーツチームが生み出す社会的価値をともに作り上げることとイコールです。結果的に、きちんと発信すれば自社のCSR価値&企業価値を押し上げることになり、投資家たちの目に留まりやすくなります。

だからが故にスポーツチームの持つ社会的価値に気づき、その価値を定量的に明らかにすることが重要なのです。なんとなく良いコトしてる、では実態がわかりません。もう少し手触り感をもってその価値を把握し、CSR価値として認識し、社外へアピールしていくべきなのです。

そしてもう1点。お金に換算するということは判断基準を作ることになります。過去と比べてどうだったか、他の活動と比べてどうか、どのポイントに注力すべきか。お金に換算しておけば、活動を比較し、優先順位をつけ、必要に応じてPDCAを回せるようになります。

我々が掴みどころのない社会的価値の定量化にこだわっている理由はこういうことなのです。

以上が前回の記事でダダ漏れしてしまったポイントです。

というわけで前回同様、ここからはまたスポーツチームの社会活動事例を1つピックアップし試算していきます。

3. フィーチャーする社会的な取り組み

前回は横浜Fマリノスの清掃活動を試算してみました。そうくれば、次は、野球かバレーかラグビーか・・・

いま私の頭の中では「あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・?」という安西先生の声がこだましています。というわけで今回はBリーグの社会貢献活動についてお話していきます。

Bリーグの発足は2016年。国内では比較的新しいプロスポーツですが、1億円プレーヤーが誕生するなどアゲアゲなリーグです。そんなBリーグは世のため人のためな社会貢献活動に熱心なんです。

Bリーグはリーグをあげて“B.LEAGUE Hope”という社会貢献活動に取り組んでいます。(出典:B.LEAGUE Hope | B.LEAGUE Hope

実はこれ、NBAの社会貢献活動であるNBA Caresをモデルにしたものなんです。Bリーグの立ち上げメンバーだった葦原一正氏がNBAを視察後、すぐに着手したのがB.LEAGUE Hopeだったそうです。(出典:葦原一正 | 稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである)

“B.LEAGUE Hope”の活動背景は以下のように説明されています。

“(中略)「Social Innovationの実現」を目指し、ステークホルダーとともにさまざまな社会的責任活動を「B.LEAGUE Hope」と称し、推進していきます。”

要は、社会の色んな人と手を取り合って、社会課題を解決していこうぜ!という活動です。

今回は、B.HOPE ACTION #22として報告されている”長期療養を必要とするこどもの退院復学支援TEAMMATESプロジェクト(以下、TEAMMATES事業)”をフィーチャリングしてみたいと思います。

(出典:B.LEAGUE HOPE|活動報告

B.LEAGUE Hopeによると、TEAMMATES事業とは、

長期療養を必要とする子どもがチームの一員として入団し、練習参加や試合会場でのスタッフサポート等、チーム活動に定期的に参加しチームメンバーとの関係構築を目指します。チームとの繋がりを創出することで、こどもとそのご家族の生活の質が向上することに貢献していくことを目的にした事業です。”

だそうです。 (出典:B.LEAGUE Hope | 世界初となる長期療養を必要とするこどもの復学支援プロジェクトを始動

つまり、長期療養が必要な子どもたちに、チームとの関わりを持ってもらい、再び社会参加する希望(Hope)を持ってもらう活動です。(この1文を書いたら素晴らしすぎる活動で泣けてきました。)

4. スポーツの持つ社会的価値

三井寿に「バスケがしたいです…」と号泣させた安西先生なみに、私の涙腺を崩壊しかけたTEAMMATES事業。その価値はどうやって定量的に把握することができるでしょうか。

まずはスポーツチームの持つ社会的価値とは何かを定義しておきます。前回記事でも紹介しましたが、弊社と日本政策投資銀行、あずさ監査法人は2020年3月に「スポーツの価値算定モデル調査」というレポートを出しました。この中で我々はスポーツの持つ社会的価値を3つ定義しました。

※「スポーツの価値算定モデル調査」レポートはこちらからダウンロードできます

地域に「あつめる」、地域を「つなげる」、地域を「そだてる」という3つでございます。

地域に「あつめる」は、文字通りファンや新規住民をその地域に集める価値。地域を「つなげる」は地域の人、お店、ファン同志の結束を強め、所属意識を高める価値。地域を「そだてる」は、スポーツチームがあることでその地域の環境・安全・青少年育成などの面で住民が地域に安心して住めるようにする価値。例えば青少年がスポーツに打ち込む→非行に走らない→犯罪発生率が下がる→安心して住める街になる、など。

5. どうやって計算する?

ここからはこの社会的価値をお金の価値に換算していきます。前回の記事で内閣府経済社会総合研究所の「無償労働の貨幣評価」というレポートを紹介しました。このレポートでは“Unpaid Work”(無償労働)(≒社会貢献活動)をお金へ換算する3つの手法を取り上げています。(出典:内閣府経済社会総合研究所 |無償労働の貨幣評価

※こちらの詳細については前回記事の第3章「3. どうやって計算する?」を参照下さい

TEAMMATES事業では、長期療養が必要な子どもたちがBリーグの選手たちと直接ふれあいます。この、憧れのBリーグ選手との交流が子どもたちの心模様をポジティブなものに変えるのです。そのへんを歩いている知らないおじさんと交流しても、子どもたちは「そもそも誰よこの人?」と思うだけで心理的ベネフィットはないでしょう。

先に紹介した葦原一正氏も、

“スター選手たちの一言には、一般の人たちとの一言とは比べ物にならないほどの影響力がある”とおっしゃっています。(出典:葦原一正 | 稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである)

つまり、Bリーグ選手だからこそ成り立つ活動なわけです。ということは、“他の誰か”のコストを代替して計算する手法(RC-S法、RC-G法)ではなく、”直接的”なコストを基に計算する機会費用法(OC法)を用いるのが最適と考えられます。

6. 実際に計算してみた

OC法でBリーグのTEAMMATES活動を算出する場合、以下のような式になります。

BリーグのTEAMMATES活動の社会的価値=

①Bリーグ側の人数 x ②延べ活動時間 x ③Bリーグの時給

ここからは少しだけ前提条件を置きながら、①、②、③を定義していきます。

まずは①のBリーグ側の人数。様々な立場の人が関わっていると思われますが、内容からして、選手が中心であることは明らかです。Bリーグにおいて、リーグ登録が10〜13名+特別指定選手2名、試合エントリーが10〜12名ですので、ここでは分かりやすく10名参加と仮定しましょう。また、1つはチアリーダーのみの活動もありますが、こちらも活動の様子から同様に10名参加と仮定します。(出典:B.LEAGUE HOPE|活動報告

次に②の延べ活動時間ですが、1回活動時間が30分〜2時間となっているので平均1時間と仮定します。(出典:TEAMMATES入団プログラム|よくあるご質問

活動回数は、大阪エヴェッサ11回、レバンガ北海道12回、横浜ビー・コルセアーズ チアリーダーズB-ROSE 10回、合わせて33回です。(出典:B.LEAGUE HOPE|活動報告

つまり延べ活動時間は、大阪エヴェッサ1×11=11時間、レバンガ北海道1×12=12時間、横浜ビー・コルセアーズ チアリーダーズB-ROSE 1×10=10時間となります。

最後に③のBリーグの時給です。まず、2018-19シーズンの選手の平均基本報酬は約1,610万円だそうです。(出典:Bリーグ | クラブ決算概要(2018-19シーズン)単純にこれを年間の労働時間で割れば時給が出ますね(細かくは基本報酬以外にも出場給や勝利給といったインセンティブもありますが、今回は省略します)。

しかーし、プロスポーツ選手の労働時間の統計データはありません。

そのため、Bリーグ選手のインタビュー記事から、試合のある1日の就業時間を10.5時間としました。(出典:SPREAD |プロバスケ選手の一日の過ごし方

また、シーズン(10-4月)、オフシーズン(5月)、自主トレ期間&プレシーズン(6-9月)の練習のみの就業時間は7.5時間/日とし、休みは週1日としました。(出典:キャリアガーデン |バスケットボール選手の1日

試合数はシーズン中60試合、ポストシーズンは考慮しないことにします。(出典:BASKET COUNT |2018-2019シーズン

以上を考慮して年間労働時間を計算すると、

つまり、Bリーグ選手の時給は、1,610万円 ÷ 2,325時間 = 6,925円となります。

また、横浜ビー・コルセアーズ チアリーダーズB-ROSEはチアリーディング活動となりますので、ここは、チアリーダーの時給を考えます。賃金構造基本統計調査では、チアリーダーの職業区分でデータがありません。そこで、日給1万5000円、拘束時間10時間とありますので、時給1,500円と考えることにします。(出典:キャリアガーデン |チアリーダーの仕事

これをまとめますと、こんな試算結果になります。

大雑把な点はありますが、本社会的活動を機会費用法で定量化するとこれだけの数値になります。

7. 【重要】おわりに

今回の試算結果について、みなさんは多いと思われたでしょうか、少ないと思われたでしょうか?

少ないと思われた方も多いのではないでしょうか?

実はこの社会的価値の定量化については、どの時間軸で評価するかによっても結果が変わってきます。前回や今回の試算は「どれくらいの人たちがどれくらいの労力をかけたのか」で算出しています。言い換えると、人が労力を投じた時点の換算手法です。

実は人が労力を投じた結果、「何がどれくらい変わったのか」という結果で換算する手法もあります。人が投じた労力をアウトプット、人が投じた労力の結果をアウトカム、と呼んだりします。

例えば今回のケースをアウトカムベースで換算するのであれば、TEAMMATES事業に参加した子どもたちの心がポジティブになった。その結果、社会に出て力強く生きることができ、TEAMMATES事業に参加できなかった子どもよりも生涯収入が増えた。この差分をTEAMMATES事業のアウトカムとしてお金に換算することも可能です。するとアウトプットで換算するよりも価値が高くなる可能性があります。

それならとっととアウトカムで算出してみんかい!という声が聞こえてきました。というわけで、次回はこのアウトカムベースの試算に挑戦してみようと思います。

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