近年、SNSを活用したマーケティングキャンペーンは星の数ほど出てきていますよね。
スポーツ界においてもSNSを使ったスポーツマーケティング施策は多くみられます。
スポーツ × SNSは、「拡散性のあるコンテンツ × 拡散力のあるメディア」という絶大な効果を発揮するタッグです。今回はこの最強タッグの事例をご紹介していきたいと思います。
ぜひご自身が普段チェックするSNSを思い浮かべながら読んでみてください。
なおこの記事は、アメリカの球団でインターンしたこともあるメジャーリーグ大好きライター、キムラがお送りいたします。
目次
1. はじめに(アクティベーションモデル図の見方)
まずはアクティベーションモデル図の説明となります。
こちらについては別記事でまとめていますので、以下を参照いただければと思います。1分で読み終わります。
2. 飲料メーカーペプシコはどうやってスポーツドリンク市場のシェアを奪還しようとしたのか(アクティベーションモデル図を使って説明)
①ペプシコの経営課題
突然ですが、みなさんはポカリ派ですか?アクエリ派ですか?
私はなんとなくアクエリアスが毎回ゴルフのお供なのですが、日本全国では両雄の人気は拮抗しているようです (出典:TesTee Lab. | 【商品別市場調査第4弾】スポーツ飲料についての調査結果) 。
ところで、あなたはスポーツドリンクコーナーの前で、何を基準に買うものを選びますか?美味しさやカロリー、添加物の量を比較して自分の好みに合うものを買いますか?それともパッケージを見て直感で選びますか?
実は脳科学の世界ではブランド価値が味にも影響を与えるという有名な研究成果があります。2004年に発表されたこの研究では、被験者にコカ・コーラとペプシコーラを飲み比べてもらっています。その結果、「ブランド名を隠した状態」だと両者の味は同じに感じるのに対し、「ブランド名を見せた状態」だとコカ・コーラの方がおいしいと感じるという傾向が出たのです。(出典:きもちラボのブログ | 脳の中にあるブランドが味にも影響?コカ・コーラvs. ペプシコーラ)
つまり、「ポカリの方がおいしいから買っている」と思っているあなたも本当はアクエリアスとの味の違いはわかっていない可能性があります。単にCMイメージガールの影響でブランドに良いイメージを持っているだけってこともありうるわけです。
要は、スポドリのように中身の質での差別化が難しい商品は、ブランドイメージを向上させることが極めて重要ということですね。
今回の事例は、アメリカで最も有名なスポドリであるゲータレードのお話です。ゲータレードを現在販売しているのは奇しくもさっきも登場したペプシコ社です。
スポドリ市場で長年支配的な地位を築いている彼らですが、実は2010年代に少しシェアを減らしてしまいました。2000年には83%のシェアを確保していたものの、2013年時点では69.5%となっており、勢いに陰りが見られました。(出典:Bloomberg | Gotta Get That Gatorade, yahoo!finance | Gatorade’s Position in the Sports Beverage Market)
そこでペプシコはスポーツの力を借りてシェアを奪還する施策を実施します。
彼らが具体的にどんな取り組みを行ってゲータレードのブランドイメージを高め、シェア向上に結び付けようとしたのか。次章以降で考察していきます。
②経営課題解決のためにペプシコはどこに目をつけた?
話は遡りますが、ペプシコは2000年代初頭、当時ゲータレードを製造していたStokely Van Camp社を買収します。
Stokely社は1980年代からNFLとスポンサー契約を結んでおり、ゲータレードがNFLの公式ドリンクとなっていました。
NFLといえばスポーツ大国アメリカの中でも最も注目を集めるリーグです。つまりStokely社はマーケティング上の超ド級兵器を持っていたのです。そのStokely社を買ったぺプシコは超ド級兵器の使用権利も引き継いだことになります。
少し脱線しますが、アメフトがいかに圧倒的な人気を持つか、ご説明しましょう。
アメリカの4大プロスポーツといえばアメフト、野球、バスケ、アイスホッケーです。アメリカ人の中でお気に入りのスポーツとしてアメフトをあげる人の割合はバスケの3倍以上、野球の4倍以上の37%を占めています。まさに断トツ1番人気の競技なのです。(出典:GALLUP | Football Still Americans’ Favorite Sport to Watch)
日本人選手がたくさんいるMLBなんかと比べるとNFLは日本での注目度もそれほど高くなく、意外に思われる方も多いでしょう。
各リーグの年間チャンピオン決定戦で比較するとその差はさらに歴然とします。NFLのチャンピオン決定戦といえば有名なスーパーボウル。やはり断トツトップで視聴者数が多いです。アメリカ国内だけで日本の総人口と同じくらいの人数が視聴しており、スーパーボウルの放送における30秒のCM枠の値段は約5億円と言われます。試合がハーフタイムに入るとトイレに行く人が多すぎてその時間だけ水道使用量が異常値を記録するそうです。
やや話が逸れましたので話を戻すと、2016年、ペプシコはこのNFLの圧倒的な人気を有効に活用します。特にスポーツドリンクの主要な買い手である若者にリーチすることによって、失われたシェアの奪還を狙う策を講じます。(出典:Characteristics associated with consumption of sports and energy drinks among US adults: National Health Interview Survey, 2010)
ではそんな巨大なファン層をもつNFLにペプシコはどのようにして関わり、どんな権利を使ってアクティベーションをしたのでしょうか?
③ペプシコが得た権利は?
そもそもStokely社がNFLのスポンサーになったのは1980年代です。その当初から獲得していたのはNFLへのスポーツドリンクの独占提供権で、今でもNFLの公式ドリンクはゲータレードです。テレビ中継を見ると、選手達が“Gatorade”の書かれたタンクから水分補給をする姿が何度も映されます。これだけでも大変な露出効果があることは想像できますね。
実はこの「公式ドリンクであること」が思わぬ副産物を生みました。地区優勝やスーパーボウルの勝利など、お祝いのタイミングで大量のゲータレードを選手たちがヘッドコーチの頭にぶっかけます。この行為はゲータレードシャワーと言われ、NFLの風物詩と化したのです。日本でいうと、プロ野球のビールかけのようなものでしょうか。
上の画像を見ると「ヘッドコーチの服がベットベトになりそうだな」と思いつつも、タンクの大きさやドリンクの色もあいまって見た目のインパクトは抜群です。
④得た権利をペプシコはどのように活用した?
ペプシコは、スポーツドリンクの独占提供権によって大きな露出効果を得ていました。しかし、ここで注目すべきはそこではありません。これだけだとスポンサーフィーを払って露出してもらう、という古典的な事例になってしまいます。
注目したいポイントは、スポーツドリンクの独占提供権に副産物として付いてきたゲータレードシャワーを最大限に活用した点です。
では具体的にどうしたのでしょうか?
前半にお話ししたように、若年層にリーチしてシェアを奪還したくてたまらなかったペプシコ。そこで、アメリカの若者に大人気のSNSであるSnapchatに目をつけます。Snapchatは登録した個人やグループに向けて画像/動画を投稿するSNSアプリです。豊富なARステッカーやスタンプが用意されており、若者たちはこれらで画像/動画をFunnyに加工し、友人間でゲラゲラ笑い合うのです。
そうです。ペプシコはこのSnapchatとゲータレードシャワーをかけ合わせて、若者にバズらせる仕掛けをつくりました。
Snapchat上にゲータレードシャワーバージョンのアニメーションフィルターを用意し、自撮り動画を加工できるようにしました。まるで自分がゲータレードシャワーを食らっているかのようなショートムービーを作れるようにしたのです。
結果:どんな効果・結果が得られた?
このアニメーションフィルターのリリース後にゲータレードの売り上げがどのくらい伸びたのかは公表されていません。しかし多くのアメフト好きの若者が、スポドリの陳列棚の前で「アレ面白かったよな」とSnapchatを思い出し、ゲータレードに手を伸ばしたのではないでしょうか。
認知という意味でも、このキャンペーンは絶大な効果を生み出しました。スーパーボウル前後の期間限定モノにも関わらず約1億6000万件のインプレッションがあり、若年層からの認知を飛躍的に高めました。なんとスーパーボウルのテレビ視聴者数(約1億1500万人)を上回る値を叩き出しています。 (出典:DIGIDAY | Gatorade’s Super Bowl Snapchat filter got 160 million impressions, HelloGiggles | Um, kind of obsessed with Gatorade’s Super Bowl Snapchat lens)
加えて、ゲータレードの直近のシェアは72%となっており、2013年時点の69.5%と比較するとシェアを一定奪還したと言えそうです。もちろんこのキャンペーンだけが要因ではないでしょうが、一定の役割を果たしたのではないでしょうか。(出典:CNBC | Gatorade is a Super Bowl icon, but at stores, sports drinks are fighting for growth)
スーパーボウルというキラーコンテンツの時期に合わせてSnapchatと組み、面白いフィルターを作成してバズらせる。時期・組む相手・企画内容が綺麗にハマった、「うま~い」アクティベーションではないでしょうか。
3. おわりに
今回はNFLの公式ドリンクという強力なポジションを長年確保していたペプシコが、SNSでのキャンペーンを打ち爆発的な認知拡大に成功したという事例でした。
スーパーボウルの視聴率は35~40%くらいなので、日本でいうと紅白歌合戦くらいの注目度ということになります。単純にアクティベーションの効果の大きさという意味では、人口の違いもありスーパーボウル並みの効果を出せるスポーツイベントは日本では数少ないかと思います。
ただ、NFLにスポンサーするには投資額もかなりかかりますから、投資収益率(ROI)でいえば同程度の効果が生み出せる機会が日本にもあるはずです。
私たちは投資収益率を可能な限り高めるようなアクティベーションを日々提案しています。今回のようにSNSの拡散力を効果的に活用したアクティベーション事例は他にもあり、今後も例の図式を使ってご紹介していきたいと思います!