アメリカでは学生スポーツが興行として成り立つほど、絶大な人気があります。それが故に学生スポーツを活用したアクティベーション事例も数多くあります。

アメリカでは「インスタ映え」を忘れることのない数万人もの若者が、スポーツイベントに訪れワチャワチャしています。これだけで超効果的なマーケティングの場という匂いがしてきます。

今回は例のモデル図を使い、そんなアメリカ学生スポーツの事例を読み解いていきたいと思います。

なおこの記事は、DAZNに会員登録しようか迷い中のキムラがお送りいたします。

1. はじめに(アクティベーションモデル図の見方)

まずはアクティベーションモデル図の説明となります。

こちらについては別記事でまとめていますので、こちらを参照いただければと思います。1分で読み終わります。

2. 外食チェーンウェンディーズはどうやって若者のシェアを拡大しようとしたのか(アクティベーションモデル図を使って説明)

①ウェンディーズの経営課題

みなさん、好きなハンバーガーチェーンはありますか?やはり安定のビッグマックから離れられないマクドナルド派の方。オニオンフライ目当てで入店してしまうモスバーガー派の方。いやいや時代はインスタ映えというシェイクシャック派の方などなど、人によって好みは様々かと思います。

このように特色のあるブランドが競合する状況はアメリカでも同じです。ハンバーガーを含む外食チェーンのアメリカのポジションマップを見ると以下のように整理されます。

(出典:SlideShare | Mc donald’s ppt)

ハンバーガーに限って見てみると、言わずと知れた巨人マクドナルドやバーガーキングは右下にプロットされます。右下は低価格、商品の選択肢が多い区画です。

真ん中よりちょい左。少し高価格でメニューが限定的なポジションにウェンディーズがプロットされてます。今回の事例はこのウェンディーズが主人公です。

彼らはハンバーガーの中ではやや高価格帯のブランドです。ということは、低価格帯を好む学生客の取り込みには苦労していたと想像されます。

以下のデータを見ても、任意の1日にファストフードを食べる確率は20-39歳の若年層が高く、ファストフードビジネスにとって若年層の存在は決して軽視できません。

(出典:Restaurant Business | Here’s who eats fast food, according to the CDC)

若いうちにアクティブな顧客になってもらえば、歳をとってからも買ってもらえる可能性が高まりますしね。

そんなわけで、どうにかこうにかマクドナルド、バーガーキングから若者を獲得し、市場シェアを高めたい。ウェンディーズはそう思っていたと考えられます。

そんなウェンディーズが、具体的にどのような施策を立てて若者からの人気を拡大しようとしたのかをこれから見ていきましょう。

②経営課題解決のためにウェンディーズはどこに目をつけた?

ウェンディーズが若者にリーチする手段として狙いを定めたのがアメリカで大人気の学生アメフトです。アメリカの大学スポーツにおいて様々な競技がありますが、実は全大学トータルで黒字なのはアメフトと男子バスケのみです。特にアメフトが莫大な額を稼いで他競技の赤字を補填する構造になっているのです。アメフトだけで1億ドル(約100億円)の利益を出す大学もあります。(出典:小林至(2020)『スポーツの経済学』)

加えて選手たちは高校卒業後、直接NFL入りすることは禁じられています。つまり強豪大学のアメフト部は将来のNFLのスター候補ばかりなわけです。日本で言えば、甲子園のスター選手たちがもれなく進学して大学野球をしているようなもんです。そりゃ、注目度が高くなるわけです。

学生アメフトはもちろん学生からの人気も凄まじいものがあります。アメフト熱の高い大学で試合のある日なんかは5~10万人収容のスタジアムが満員になることは珍しくありません。今回の事例の舞台となるワシントン大学アメフト部の試合の様子をご覧ください。7万人収容の巨大なスタジアムがほぼ満員です。

(出典:University of Washington | UW Athletics named finalist for sustainability award)

そんなわけで、大学アメフトの試合は若者にブランドをアピールするには絶好の機会となるのです。

では、ウェンディーズはこのような場を使って何をどうアピールしようと考えたのでしょうか?

③ウェンディーズが得た権利は?

ウェンディーズはNCAA(全米大学体育協会)とスポンサー契約を結び、大学スポーツの試合会場でのプロモーション権を獲得しました。

ではこの獲得したプロモーション権を使って、ウェンディーズはどうやって学生たちを惚れこませたのでしょうか?

④得た権利をウェンディーズはどのように活用した?

ワシントン大学アメフト部のスタジアムはユニオンベイという湾に面しており、ボートが1つの交通手段となっています。自前のボートで来る人もいれば、ボートをチャーターして友達と乗り合いで来場する人もいるようです。

ウェンディーズはこの事実に目をつけます。ボートの係留所付近になんと水上特設店舗を設置しました。

まずは画像でご覧頂きましょう。

(出典:ASV | Wendy’s)

奥に映り込んでいるのがボートの係留場とスタジアムです。アメフトの試合がある日には100以上のボートが往来し、多くの人の目に触れます。テレビに映りこんだ日には「なんだあれ?」と注目を集めます。

しかし、ボートで来場する人が多い、という事実に目をつければこの施策はウェンディーズじゃなくてもできてしまう気がします。この店舗があるユニオンベイは厳密には試合会場ではないですし、公共の場と考えればマクドナルドやバーガーキングが同じことをしてもいいのかもしれません。

ただ、ウェンディーズ以外の外食チェーンがこのインスタ映えスポットを使うことはアンブッシュマーケティングとみなされる恐れがあります。

アンブッシュ(Ambush)とは“待ち伏せ”という意味です。あるイベントの公式スポンサーでは無い企業が、そのイベント関連の知的財産を無断使用、不正使用・不正流用し、自社のマーケティング活動を行うことを指します。(出典:ECのミカタ | オリンピック目前!EC事業者が注意すべきアンブッシュ・マーケティング)
要は、スポンサーしてないのにタダ乗りすることです。

今回で言えば、学生アメフトにスポンサー料を払っていない企業(他のバーガーチェーン)があたかも試合を協賛しているような印象を抱かせるマーケティング手法。これがアンブッシュマーケティングです。

これは日本でもアメリカでも法に触れる可能性があり、訴訟リスクをはらみます。(出典:Marquette Sports Law Review | Ambush Marketing: Is It Deceitful or a Probable Strategic Tactic in the Olympic Games?)

仮に訴訟にはならなくとも、「スポンサーじゃないのに試合会場の近くで宣伝してるんじゃないよ」とツッコミが入り評判の観点からも問題があるかもしれません。

そんなわけで、このユニオンベイというアメフトスタジアム付近のインスタ映えスポットを、ウェンディーズはやや独占的にマーケティングに活用することができるのです。

さて、水上店舗というくらいですから、消費者はボートでこの「ウェンディーズ島」に立ち寄ってバーガーやナゲットを購入することができます。こんなユニークな購買体験をしたことがある人はまずいませんし、なおさら学生が多いイベントですから盛り上がらないわけがないですよね。こんないい表情の写真が撮れてしまうのもうなずけます。

(出典:The Marketing Arm | Wendy’s always listens to their fans -No matter what.)

結果:どんな効果・結果が得られた?

このようなウェンディーズのアクティベーション事例ですが、どんな成果を挙げられたのかデータで見てみましょう。

インスタグラムではこのキャンペーンに関するストーリーが330万ビューを記録しました。 (出典:2020 Ex Awards Winners) 1地域の物理的には交通量も非常に限定的な場所にある特設店舗ですが、オンライン上での視認量は非常に多かったということです。

収益面も見てみましょう。今回取り上げたキャンペーンは2019年9月に実施されたのですが、2019年9-12月の米国全体における売上高は前年同期比5.7%増となり、2018年9-12月の前年同期比1.4%増の成長率を大きく上回りました(もちろんアメリカ全体の景気など要因は他にもあることは自明ですが)。(出典:Wendy’s | Quarterly Results)

数字に表れないところでも、「インスタで見たアレ、面白かったな」と若者からイメージが向上したことも想像できますね。普段はマック派のライアン君もインスタに触発されて今日はウェンディーズにしてみようと思ったことでしょう。

3. おわりに

今回はアメリカで大人気の学生スポーツの場を活かし、ウェンディーズが特徴的なサービス提供によって若者からのイメージ向上を狙ったという事例でした。

平常時であればこのような学生スポーツの場を活用したアクティベーションは非常に有効となるはずなのですが、何しろ今はコロナ禍の影響を考慮する必要があります。

アメリカの学生スポーツも危機に立たされており、かなりの数の部活動が廃止に追い込まれる可能性もあると言われています。

スポーツマーケティングに限った話ではないですが、これはWithコロナ時代に果たして通用するのか??と常に検討しなければならないのは我々も頭を悩ませるところです。

ともかく、With コロナの時代でも通用する事例であったり、今までになかった発想の最新の事例も今後どんどんご紹介していきたいと思います!