先日、あるイベント主催者にこんなこと言われました。「このイベント、やればやるほど赤字なんすよ。」と。

そのイベントはそれなりの人が来ていて、はたから見れば成功しているように見えました。でも、内情は良くて収支トントン。大体は赤字。この発言をきいてあまりにも意外だった私は驚きのあまり鼻水が出てしまいました。

今回の記事は、スポーツイベントを別のイベントと組み合わせることで、イベント全体の“総合力”を最大化することで、収益性を高めたというお話です。

1. 今回ご紹介する事例:Volunteer of America Classicの全体像

まずは、メインとなるスポーツイベントとサブとなるイベントの全体像をご説明します。メインのスポーツイベントはVolunteer of America Classicというプロゴルフ大会です。それに付随するサブイベントは2つ。1つはWomen Leadership Summit by Versant Healthというビジネスサミット。もう1つはTHE TRIBUTE TRAIL 5K Presented by AT&Tというマラソン&ウォーキング大会です。

Volunteer of America Classicのイベント全体像
Volunteer of America Classicのイベント全体像

中心となるスポーツイベントであるVolunteer of America Classic。この大会はLPGA(Ladies Professional Golf Association:全米女子プロゴルフ協会)が管轄する大会です。大会が始まったのは2013年4月。2019年大会の覇者はアメリカのシャイアン・ナイト選手。日本からはあの横峯さくら選手などが出場している、メジャー大会の1つです。

そしてこのVolunteer of America Classicの冠スポンサーが、Volunteer of America(VOA)です。VOAは1896年に設立された米国最大のNPO団体の1つです。彼らは低所得者、退役軍人、知的障害者などを幅広く支援しており、支援する人の数は年間で150万人にものぼります。

(出典:Volunteer of America | Volunteer of America HP

次にサブイベントの説明です。まず1つ目のビジネスサミットについて。このサミットは「女性のリーダーシップ」をテーマとしたものでした。サミット名は「Women’s Leadership Summit presented by Versant Health」。サミットにはさまざまな業界の専門家や各方面で活躍する女性リーダーたちを迎えて開催されました。女性でLPGAの最高ブランド責任者であるRoberta Bowman氏もゲストスピーカーとして登壇しています。

このサミットの冠スポンサーは、アメリカ国内でアイケア製品を展開するVersant Health社。彼らはアメリカ国内で3,300万人以上の顧客を有するアメリカを代表するアイケアメーカーです。

(出典:Volunteer of America Classic | 公式Twitter

2つ目のサブイベントであるマラソン&ウォーキング大会について。イベント名は「THE TRIBUTE TRAIL 5K PRESENTED BY AT&T」。

Volunteer of America Classicは2018年からテキサス州のコロニー市にあるOld American Golf Clubで開催されています。このゴルフコースはルイスヴィル湖という景観の美しい湖に面したコースなのです。このイベントは一般参加者がこのコースをぐるっと回れるものです。

イベント名にも入っているAT&T社。これがこのイベントのスポンサーです。日本で言えばNTTやKDDI、ソフトバンクにあたるアメリカの通信大手です。

このようにVolunteer of America Classicを中心に、Women’s Leadership Summit presented by Versant Health、THE TRIBUTE TRAIL 5K PRESENTED BY AT&Tがサブイベントとして開催されたわけです。

2. このイベントの何が注目すべきポイントだったのか

ただ、サブイベントをやみくもにスポーツイベントにくっつければいいというものではありません。そのスポーツイベントが持つ「隠れた強み」に着目し、スポーツイベントと親和性の高いサブイベントを作ることがポイントです。今回の事例はそのポイントを上手く抑えています。

Volunteer of America Classicは女子プロゴルフトーナメントです。当然のことながら男性ではなく、女性の大会なわけです。だから女性のリーダーシップをテーマにしたビジネスサミットを自然な形で開催でき、イベントに拡張性を持たせることができます。

マラソン&ウォーキング大会についても同じように考えられます。ルイスヴィル湖はハイキングやサイクリングの人気スポットで、ビューティフルでアメイジングな景観が特徴です。だからこそOld American Golf Clubでマラソン&ウォーキング大会を開催することで拡張性が生まれます。ルイスヴィル湖をOld American Golf Clubの中から眺めることは、このクラブでプレーするゴルファーしかできないことです。これを一般参加者にも開放したのがこのイベントってわけです。

このようにそのスポーツイベントが持つ特徴や、隠れた強みをスポーツイベントとサブイベントの接着剤にして開催する。すると、スポーツイベントとサブイベントの間に相乗効果が生まれ、まるで「1つのイベントであるかのような一体感」を作り上げることができます。

Volunteer of America Classicのイベントとしての特徴
Volunteer of America Classicのイベントとしての特徴

3. 一体感を持ってイベントを組み合わせることの2つのメリット

さてさて、この“一体感”をもってスポーツイベントとサブイベントを作り上げること。それってイベント主催者にとってどんなメリットがあるのでしょうか。我々は2つのメリットがあると思ってます。

①相互送客による集客力の向上

まず1つ目のメリットです。これは、イベントを組み合わせることで相互送客が起こり、各イベントの潜在的な客数が増えるということです。

例えば、Volunteer of America Classicを取材しにきた新聞記者が、ついでにビジネスサミットも取材をする。ビジネスサミットに参加したビジネスマンが、ウォーキング大会にも参加する。こんなふうにビジターが複数イベントに参加するという相乗効果が生まれます。また、女性活躍支援などのSDGs要素の高いイベントへの参加者はVOAの活動にも共感性が高いはずです。ということは、VOAへの新たな資金提供者になってくれる可能性もグッと高まります。

イベント間の相互送客イメージ
イベント間の相互送客イメージ

また、ビジネスサミットやマラソン&ウォーキング大会は単体で社会的な注目を集めることはなかなか難しいと思います。例えばビジネスサミットなんかはそのテーマに関心がある人には興味深いサミットです。ただ、それだけを目的に遠方から参加する人は限られた人だけです。

マラソン&ウォーキング大会も同じです。ボストン・マラソンや東京マラソンなら単体でも注目度があり、人も集まります。ただ、レクリエーション的なトレイルイベントでは地元の参加者は見込めますが、遠方からの参加者を見込むことは難しい。しかし、Volunteer of America Classicという巨大なイベントにくっつけ、ルイスヴィル湖というビューティフルな景観のある湖でやる。そのことで一気に集客力が増すわけです。

スポーツイベントは比較的高い集客力を持っています。2018年のVolunteer of America Classicの来訪者は49,995人。(出典:Highland Market Research, LLC | 2018 Volunteers of America LPGA Texas Classic

日本のスポーツだと、2019年のプロ野球 セ・パ公式戦の平均入場者数は30,929人(出典:NPB | 統計データ) 2019シーズンのJ1リーグの平均入場者数は20,751人

このような数万人規模の観客を集めることのできるスポーツイベントとサブイベントをくっつける。すると、それぞれのイベントやスポンサーが単体ではリーチできない顧客に対して接点を持てるようになるってわけです。結果的に、それぞれのイベント&イベントスポンサーがより多くの人の目に触れるようになりイベント間で“持ちつ持たれつ”の関係が出来上がります。

②スポンサーメリットの設計を踏まえた収益性の向上

2つ目のメリットは「収益性が向上する」ことです。

1つ目のメリットにあるように客数が増える。ということは当然ながらイベント参加者のチケット収入の増加が見込めます。

加えて、潜在的なスポンサーコンテンツが増えるので、スポンサー収入の増加による収益性の向上が狙えます。それによって、大型イベントの開催に要する大きなコストの回収原資が増えるのです。さらに、イベントごとの運営リソースはシェアード化されるはずなので、それによるコスト低減も見込めます。よって、収益性が高まるのです。

イベントの収益性向上イメージ
イベントの収益性向上イメージ

もちろん、スポンサーコンテンツが増えたから自動的にスポンサー収入が増えるわけではありません。スポンサー企業にはスポンサー金と同等ビジネスメリットを返す必要があります。

今回の例で言えば、NPOであるVOAの経営課題は活動原資である寄付金を集めることが主な目的であったと考えられます。イベント主催者は、VOAにゴルフファンやビジネスサミット参加者に多く含まれる、所得と寄付意識の高い層にリーチできることをアピールしたと考えられます。

Versant Health社に対しても同じです。ビジネスサミットを通じて、“女性活躍支援に積極的な会社”というブランディングや、SDGsへの貢献を発信できる。これにより、株主へのアカウンタビリティ向上等のメリットを提示したと考えられます。

AT&T社は、本社がテキサス州ダラスにある地元企業です。今回のスポンサーを通じ、地域への貢献をアピールし、採用・離職率の改善や、サミット参加企業への法人営業機会獲得等のメリットを提示したと考えられます。

4. おわりに

いかがでしたでしょうか。こんなふうにイベントをコンビネーションで開催する。するとスポーツイベント単体では取り込めなかった人たちにリーチできるようになる。結果、入場料が増えたり、スポンサー金が増えたりして、収益性がUpするわけでございます。

今回の事例ではビジネスサミットとマラソン&ウォーキング大会がサブイベントでした。ただ、スポーツイベントに組み合わせることのできるサブイベントはたくさんあります。例えば、グルメイベントを開催し、スポーツを観に来た人をグルメでもてなす。子供向けのスポーツ大会であれば、教育コンテンツを軸としたサブイベントを開催するなんてのもアリかと思います。女性の多いスポーツイベントであれば、美容やらダイエットなんかも面白そうです。

イベントの収益性に悩まれている主催者の方がいらっしゃいましたら、そのスポーツイベントの強みはなんぞ?多くのビジターとスポンサーをゲットできるサブイベントとは?と頭を捻ってみてはいかがでしょうか?弊社Eraではそんな相談も受け付けていますので、超絶フランクにお問い合わせいただければ、これ幸いです。