あるお客さんと話している時に「アクティベーション事例の記事ってよく読むんですけど、結局誰にどんなメリットがある話なのかよく分かんないんですよね」と言われました。

確かにアクティベーションの事例集みたいなサイトはけっこうあります。しかし、それを構造化し、関わる組織やスポーツチーム・団体の関係性や、誰にどんなメリットがあったのかを分かりやすく説明したものはなかなかないような気がします。

というわけで国内外の「これだ!」という示唆深いスポンサーアクティベーション事例をピックアップします。そしてそれをコンサル的に分かりやすくビジネスモデル図で表現してみたいと思います。

今回の記事はその1発目となります。今後、ブラッシュアップを繰り返していく可能性もありますが、とりあえず1発目ということでマザーテレサのような眼差しでお読みいただければと思います。

それではまいります!

1. はじめに(アクティベーションモデル図の見方)

【参考】アクティベーションモデル図の見方まずはアクティベーションモデル図の説明となります。 こちらについては別記事でまとめていますので、こちらを参照いただければと思います。1分で読み終わります。

2.  グローバル金融機関HSBCはどうやってゴルフスポンサー利権を活用しているのか(アクティベーションモデル図を使って説明)

①HSBCの経営課題

みなさんもおそらく、いや必ず、そして絶対に1つは銀行口座を作ったことがあるかと思います。ちなみにその時のこと覚えてますか?

大学入学時でしょうか?就職したときでしょうか?その時ガッツリ比較して口座開設する銀行を選びましたか?例えば店舗/ATMや各種金融サービスなどを隅々まで比較して銀行を決めましたか?

おそらくほとんどの人はNoだと思います。小さい頃から馴染みがあったから、好きな女優がCMに出てたから、など地理的な利便性(ATMが近くにある)を除いては、「実用性」とは程遠い理由で銀行を選んだのではないでしょうか?

かくいう私も就職の決まった2008年春。あれは風の強い日でした。住んでいた千葉に店舗があった、という地理的利便性だけのゆる~い理由で緑の銀行に行って口座を開きました。

それもそのはず。銀行は金融商品をはじめ、様々な側面で他の銀行との差別化が難しいのです。それがゆえに一般客も「どこで開設してもいっしょでしょ」と思っています。

これは他の製品・サービスではなかなかありえません。車を買う時、宿泊先を決める時。人は約10程度のサイトを閲覧し、情報を集め、比較して、購入・申し込みに至ります。言わば実用的な視点で消費者は吟味、比較するわけです。

一方、銀行の口座開設では、消費者は実用性というよりもっとライトに、「イメージがいい」、「昔から知っている」などの理由で銀行を決める傾向が強いのです。

(出典:ねとらぼ調査隊 | ニュースでよく見る「銀行の看板が並んだ写真」はどこで撮影している?

この「差別化難しい」問題はどの銀行でも同じです。HSBCも「差別化が難しい。でもなるべく多くの人、特に預貯金をたくさんしてくれる人に口座開設をしてほしいなぁ」という経営課題をもっていました。また、近年オンラインバンキングが主流となり、電子マネーも普及し始めていることから、店舗がどんどん不要になっていきます。結果、、地理的な利便性さえも競争力ではなくなってきています。またこれは、個人口座だけでなく、法人口座においても同様で、預入金利や融資利率なども銀行間で有意な差は無いことから、たくさん借入をしてくれる企業、たくさん預貯金してくれる企業にメインバンクになってもらうのは一苦労です。

金融機関が富裕層を狙いたがるには理由があります。まずは銀行の運用原資を得たい。それ以外で言えば、節税対策をうたって金融商品を売ったり、資産運用を持ちかけたりと、お金にまつわるあれやこれやを売りつけられるのです。つまり金融機関にとって、富裕層は「1度で何度でもおいしい」顧客だったりします。

弊社の社長も、「法人口座もウチにすれば、送金手数料無料になりますよ」なんていって、銀行の営業さんから口説かれてます。

では「なんとか富裕層に口座開設してほしいなぁ」という課題を解決するために巨大グローバル金融機関であるHSBCはどうしたのでしょうか?

②経営課題解決のためにHSBCはどこに目をつけた?

そんなHSBCはゴルフに目をつけます。それはなぜか?

ゴルフをする人は社会的にそれなりの地位についており、お金持ってる人たちが多いからです。

下の表を見てください。株式会社ヴァリューズが実施した、サイト訪問者全体に占める『プチ富裕層』の割合(ターゲット含有率)を高い順にランキングしたものです。

見ていただくとわかるのですが、12位、13位、15位、16位と4つのゴルフ関連サイトがランクインしており、プチ富裕層のゴルフへの関心の高さが見てとれます。

みなさんの周りでもどうですか?ゴルフをされている方ってプチセレブリティかそれ以上の方ではないですか?

でもそりゃそうなんです。ゴルフを始めるにはまず10万ぐらいするクラブセットを揃えなければなりません。その他、ゴルフウェア、シューズ、手袋なども必要です。場所にもよりますが、休日にラウンドするのであれば1万5千円程度は必要になってきます。

このように、「ゴルフをするってことは、プチセレブリティかそれ以上の人」というフィルタリングができるわけです。HSBCはこの点に目をつけました。

(出典:マナミナ | 【2019年版】「プチ富裕層」を集客しているサイト・アプリランキング

ではHSBCはどこにスポンサーし、どんな権利をもらってアクティベーションをしたのでしょうか?

③HSBCが得た権利は?

HSBCはもともとFuture Falconsという少年少女向けのゴルフスクールを運営していました。

そしてPGA(Professional Golfers’ Association)ツアーにスポンサーすることにし、アブダビで開催されたPGAツアーの冠権を獲得しました。HSBC Abu Dhabi HSBC Championship presented by EGAです。

この冠権に加え、Future Falconsの生徒たちを大会に合わせて招待するスクールトリップの開催権も獲得します。

(出典:HSBC Future Falcons Facebook

では、HSBCは獲得したスクールトリップ開催権を使って、どのようにターゲット顧客にアプローチしていったのでしょうか?

④得た権利をHSBCはどのように活用した?

HSBCのうまいポイントはスクールトリップを開催し、ターゲット顧客(親)の子供をおもてなしすることで、子供と親のHSBCへの印象をポジティブなものにし、深い関係性を築いたことです。

下の写真は実際のスクールトリップの様子です。プロゴルファーを交えたイベント、VR体験、工作など、子供が喜びそうなイベントがてんこ盛りです。子供たちが狂喜乱舞する様子が目に浮かびます。

HSBCのロゴ入りTシャツを着て、楽しそうにする子供たちの様子を見た親たちの心情はどうだったでしょうか?おそらく楽しむ我が子を見て、それこそマザーテレサのような笑みを浮かべるとともに、HSBCに対してかなり好印象を抱いたことと思います。

このように、HSBCは子供へのおもてなしを通じてターゲット顧客である富裕層への心理的な訴求を図ったのです。

スクールトリップの様子

(出典:HSBC Future Falcons Facebook

結果:どんな効果・結果が得られた?  

どのくらいの新規口座開設が得られたのかはもちろん公表されていませんが、子供とその親たちがHSBCに対して好印象を持ち、強く記憶に残したことは明らかかと思います。

冒頭で、人は実用的な理由よりも“昔から知っている”などの理由から口座開設する銀行を選ぶ傾向が強いと言いました。

HSBCがスクールトリップ中に口座開設や金融サービスの申込みを促すような販促活動を実施したかはわかりません。しかし、スクールトリップに参加した子供たちの親の中では、他の銀行ではなくHSBCで口座開設する意欲が高まったことは間違いないと思います。

「口座を作って得られるサービスに大した違いないよね。ならうちのボブとキャサリンを楽しませてくれたHSBCで口座開設しよ」みたいに。

またこれは同様に参加した子供たちにも言えるはずです。子供たちが口座開設をする年齢になった時、このスクールトリップのことを思い出すはずです。「子供の頃楽しませてくれたから」という理由でHSBCを選ぶ可能性は十分にあります。

おわりに

当然のことながら子供たちのスポーツ人気は高いものがあります。そしてそのスポーツのプロ選手や競技場は彼らにとっての憧れです。好きなスポーツを、大好きなプロ選手とともに憧れの場所で楽しむ、ということは子供にとって特別な体験になります。

そしてこれまた当然ですが、親は子供の喜ぶ顔が見たいのです。今回の事例は、スポーツで子供を喜ばせ、それによって親の心情をポジティブなものに変えた上で接触をする、という事例でした。

今後もこのような「うまいねぇ~」と唸るような事例をバンバン図式化していきたいと思いますので、お付き合いのほどよろしくお願いします。

また、「このアクティベーション事例みたいな上手いスポンサーシップのやり方うちでも一緒に考えてくれへん?」みたいなご要望があればご連絡ください。どこまでご期待に添えるかわかりませんが、できるだけがんばります。

さらにさらに、副業兼業、アルバイトで一緒にこういう分析してみたい、記事書いてみたい~という人がいましたらいつでもウェルカムなので連絡ください。