コロナ禍、なかなか収束しませんね。今年の夏はオリンピック開催で多くのインバウンド観光客が訪日し、日本各地でお祭り騒ぎになる想定でした。IOCは来年に東京オリンピックを開催すると言ってますが、まだまだ予断を許さない状況でございます。
しかしながら、最近は「Go To トラベル」や、「Go To イベント」など、政府主導の施策が続々と打ち出されてます。こういった施策によって観光消費やハレ消費といった非日常体験需要の回復が戻ってくることを願うばかりです。
今回は「Go To イベント」の対象ともなるスポーツイベントのお話です。遠方から人々を引きつけ、効果的に域内に経済波及効果をもたらした海外・国内の事例を紹介したいと思います。
過疎化が進む地方の自治体や、観光産業で働かれている企業の方々、地域活性化や地域創生の課題に取り組まれている企業や団体の方々には必見です!
なおこの記事は、全米オープンゴルフのテレビ観戦で睡眠リズムが絶賛崩壊中のキムラがお送りいたします。
目次
1. スポーツイベントは地域にどのくらいの人を集めるのか
そもそもスポーツイベントってどのくらいの人が集まるのでしょうか。日本のスポーツでいうと、2019年のプロ野球 セ・パ公式戦の平均入場者数は30,929人。(出典:NPB | 統計データ)2019シーズンのJ1リーグの平均入場者数は20,751人。(出典:Jリーグ | 年度別入場者数推移)
サッカーに絞って海外のリーグを見ると、2013-2018の過去5シーズンの平均は、ブンデスリーガ43,302人、プレミアリーグ36,675人、リーガ・エスパニョーラ27,381人、となります。(出典:ゲキサカ | Jクラブもトップ50入り!過去5シーズンでクラブ平均観客数ランキング1位は…)
このように、数万人規模の人を、シーズン中は毎週のようにスタジアムに集めることのできるのはスポーツ以外ではなかなかありえません。
今回の記事はスポーツで集客したこの数万人規模の人に周辺観光をしてもらう仕組みを提供したことで、地域活性化を実現した事例をご紹介します。
2. 海外事例:アメリカ ニューオーリンズ市のスポーツを軸とした地域経済の復興戦略とは
2-1. ニューオーリンズ市について
まずはアメリカのニューオーリンズ市の事例をご紹介します。ニューオーリンズ市はアメリカ南部のルイジアナ州に位置する都市です。歴史的にはフランスに支配されていた時期があり、アメリカには珍しいカトリックの大聖堂が観光名所になっていたりします。他にも歓楽街やカジノ、ジャズの街として知られるなど観光コンテンツがてんこ盛りな都市です。
温暖な気候もあってもともと多くの観光客が訪れる所ですが、スポーツによる集客も多くあります。中心部にあるメルセデス・ベンツ・スーパードームではスーパーボウルが7回も開催されています。(出典:Link-USA | メルセデスベンツ スーパードーム Mercedes-Benz Superdome)これは史上最多の開催回数であり、2024年もニューオーリンズ開催が決まっています。
ちなみに2013年にニューオーリンズで開催され、ハーフタイムショーにビヨンセが登場した第47回スーパーボウル。このときの入場者数は収容人数の約65,000人を超える71,024人でした。(出典:NFL | Super Bowl XLVII National Football League Game Summary)
しかも、このニューオーリンズ。招致しているのはスーパーボウルだけじゃないんです。よくばるぅ。大学スポーツのトーナメントやNBAのオールスターなど、大規模なスポーツイベントを数多く招致しています。そのたびに数万人の人が集結する都市。それがニューオーリンズなのです。日本で例えると甲子園もF1も天皇杯決勝も同じ都市でやるようなものかもしれません。ちなみに、ニューオーリンズといえば2005年のハリケーンカトリーナで深刻な被害を受けました。そこから街を復興させたのはこのスポーツツーリズムによる盛り上がりとも言われています。
2-2. スポーツの集客力を経済波及につなげるDMO
ニューオーリンズ市はこのスポーツで来訪する数万人もの人に目をつけます。スポーツ × 観光の相乗効果を生み出すべく、動き出しました。まずニューオーリンズ市はDMOを立ち上げました。DMOとはDestination Management/Marketing Organizationの略で、日本でも徐々に知られつつあります。
このDMO。日本語に訳すと、“観光地域づくり法人”なんて呼ばれ方をします。定義としては、
観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと、だそうです。(出典:JTB総研 | DMO)
要は、観光資源を戦略的に利活用し、観光に根ざした地域づくりを先導する組織ってことでしょうかね。
ニューオーリンズ市は、観光局やスポーツ局、マーケティング公社などが連合してDMOを形成したようです(上の図と少し異なるのは、欧米で生まれた概念に観光庁が解釈を加えたものだからかもしれません)。
この半官半民の組織からなるニューオーリンズのDMO。スポーツイベントを観光消費につなげることでさらなる税収獲得→スポーツ関連インフラの充実→さらなるイベント誘致、という好循環を生み出すことを目標としました。
2-3. ニューオーリンズ市DMOの地域経済活性化の取り組みと成果
ニューオーリンズ市DMOは、スポーツ目的で来訪した観客を、スポーツ施設周辺を周遊してもらうために各種都市整備に着手しました。州から委託を受けてスポーツ施設等の管理を行っていたSMG社のDougさんらの話によれば、まずはインフラへの投資です。例えばハリケーンで甚大な被害を受けたホテルはリノベーションされ、スーパードームを含む繁華街から徒歩圏内に2万室分のホテルを整備しました。ホテルに滞在するスポーツファンは「バスケのために来てみたけど、この観光地は歩けるしちょっと行ってみようか?」となるわけです。(出典:LSU Digital Commons | Where the good times roll: New Orleans as a destination for sports event tourism)
次にサービスの向上です。「お・も・て・な・し」というやつですね。DMOはサービス業の従業員をトレーニングし、単なるスポーツの開催地ではなく観光地としてのクオリティの高さをアピールしました。旅行先でホテルマンや案内所の人などの対応がいいとその観光地の印象自体よくなりますよね。
さらに、ニューオーリンズで開催されるスポーツイベントの中継番組でCMを打ち、観光地としての魅力をアピールしました。ニューオーリンズとの接点がスポーツしかなかった人も、CMによってニューオーリンズに実際行ってみようかなという気になるわけです。(出典:LSU Digital Commons | Where the good times roll: New Orleans as a destination for sports event tourism)
加えてニューオーリンズ市は、観光産業の活性化を行政が後押ししています。市は観光関連企業に対して特別税控除を実施しており、その規模はなんと市の年間予算の約30%!(2015年実績)。その結果、わずか40万弱の人口の都市に約980万人もの観光客が年間で訪れ、約70億ドル(約8千億円)もの観光消費を生み出しています(2015年実績)。(出典:NOLA.com | The $165 million question: How best to invest New Orleans’ tourism tax revenue?)
このような努力を重ねた結果ニューオーリンズのスポーツツーリズムはハリケーンの爪痕から復活を遂げ、2013年にはスポーツツーリズム全米一の称号を獲得しました。(出典:ニューオーリンズ市HP | NEW ORLEANS RECOGNIZED AS NORTH AMERICA’S LEADING SPORTS TOURISM DESTINATION)
ニューオーリンズ観光局のKellyさんは「スポーツイベントは自治体に多くの収入をもたらすだけでなく、大規模スポーツイベントのために交通等のインフラが整備されると地元住民にとっても居住利便性においてメリットが大きい」と語っています。スポーツが地域の経済発展にも居住地としての発展にも貢献するというわけですね。(出典:LSU Digital Commons | Where the good times roll: New Orleans as a destination for sports event tourism)
3. 国内事例①:一般社団法人アントラーズホームタウンDMOによる地方創生
日本国内でDMOを設けている事例としては鹿嶋市が鹿島アントラーズと組んで設置した“アントラーズホームタウンDMO”があります。鹿島アントラーズが位置する茨城県の海沿い、「鹿行地域」では人口減少、少子高齢化など全国の地方と似たような課題を抱えていました。
そこで鹿島アントラーズの集客力に着目し、サッカーをフックに地域に人を呼び込もうとDMOが設立されます。
このアントラーズホームタウンDMO。あれこれとおもしろい企画を立ち上げています。
例えば、遠方からの観戦客のアクセスを改善するため、成田空港からのバス路線を開設しました。また、アクセスの悪さを逆手に取ってなんとヘリコプターで移動するVIPプランまで作ってしまいました。
また、鹿嶋市にほど近い神栖市は芝ピッチのサッカー場が多く、合宿には最高な環境です。成田に近いことや鹿島ユース、筑波大などとのマッチメイクもできることをウリとしており、今後さまざまなスポーツイベントを企画することで、団体の受け入れに注力していく方針だそうです。
他にも農業を体験してもらうアグリツーリズムの取り組みや、鹿島神宮を絡めたプランを打ち出しています。サッカーで集客→鹿行エリア観光という効果を狙っているようです。(出典:トラベルボイス | Jリーグ屈指の鹿島アントラーズがDMOを立ち上げた理由とは? その背景と自走に向けた仕掛け、コロナ禍の今を聞いてきた)
その結果、設立初年の2018年度の鹿行地域における総宿泊数は、約2,000泊増加しています。(出典:経産省 | 日本版DMO形成・確立計画)
4. 国内事例②:松本山雅ジャーニーによる地方創生
DMOではありませんが、長野県松本市で行われている似たような取り組みも紹介しときます。松本山雅FCは、遠方からくる観客から、「駅前のホテルがすぐ埋まってしまい不便」との声があがっており、1つの課題となっていました。(出典:マイナビニュース | 「プロスポーツがもたらす地域の可能性」松本山雅FCとquodの新たな挑戦が始動) 一方で、松本市では観光資源が有効に活用、発信されていないという課題を持っていました。
そこで松本山雅FCと事業PRパートナーであるquod,LLC社は「アウェイサポーターをもてなすため」の1泊2日のオリジナルツアーである松本山雅ジャーニーを実施しました。この企画は、アウェイから来た観客に、松本を知ってもらい、その魅力に触れてもらうことを目的とした取り組みです。アウェイサポーターは、農場BBQ、星空観察など松本の自然をフル活用した企画を楽しむことができます。
企画の実施には地元住民が協力しています。そのおかげもあって、ガイドブックにはない松本の魅力を体験できるプログラムになっています。
5. 日本において地方創生がなぜ必要か、スポーツがどう役立つのか
先月、けっこう衝撃的なニュースが発表されました。それは日本の人口が前年から50万5046人減少というものです。この50万人という数字。江東区の人口とほぼ同等です。つまり毎年、江東区1つ分が日本から消滅していってるってことです。しかもこの減少傾向は11年連続で継続中だそうです。(出典:日本経済新聞 | 人口減最大、50万人 11年連続減 外国人最多286万人)
このように我が国では、人口が減りまくっています。しかも人口は首都圏に一極集中している。するとモロにダメージを食らうのは地方なわけです。だから声高に「地方創生しないとやばいYo!」と叫ばれているのです。
地域活性化を考える場合、着目すべき2種類の人口があります。それは定住人口と交流人口です。1つ目の定住人口はその地域に住んでいる人口。交流人口は地域外から観光などで訪れる人口。
定住人口を増やすことは一朝一夕ではいきません。何より国全体で人口が減っている中で、ある自治体が定住人口を増やすのは容易ではありません。なので、交流人口を増やすことで定住人口の減少による経済的な損失を補填するという道も考えうるわけです。そしてスポーツはこの交流人口を生み出す装置なのであります。
6. おわりに
今回はスポーツ目的で集まった人に地域を周遊してもらい、観光にも活力をもたらそうとした事例をご紹介しました。スポーツは定期的に人を集客することのできる力を持っています。繰り返しになりますが、(ホーム&アウェー方式であれば)シーズン中毎週のように数千~数万の人を集めることのできるのはスポーツ以外だとなかなかありえません。
先の自民党総裁選の論戦をみても明らかなように、地方創生は日本の最大の課題と言っても過言ではありません。その中でスポーツをきっかけに交流人口を増やすだけでなく、経済波及効果を戦略的に最大化しようという発想はまだ浸透しておらず、まだまだ機会損失となっている需要はありそうです。もし相談に乗ってほしい、一緒に考えてほしいといったご要望があればお気軽にお問い合わせ頂けると嬉しいです!