少し前に、金融資産1億円以上の富裕層&超富裕層って言われる世帯が増加中ってニュースを目にしました。これによると、2005年は126.7万世帯だったのが、2020年には132.7万世帯にまで増えたとのことです。約6万世帯の増加です。(出典:ITメディアビジネス | 資産1億円以上の富裕層、132万世帯に増加 2005年以降最多に

みなさんも感覚的におわかりかと思いますが、お金持ちをメインターゲットに商売されている企業は数多あります。高級外車メーカーとか高級ホテルチェーンとか。そしてこれらの企業がスポーツを使ってお金持ちにアプローチしているって事例はけっこうあります。

実はSPOVAでは毎日せっせと国内外のスポンサーアクティベーション事例を調査、ストックしています。だいたい2003年から直近まで約2万件以上の事例を社内データベースに溜め込んでいます。

我々はこのデータベースを使って、

「どんなスポンサーアクティベーションの効果が大きかったか?」

「海外のスポーツ先進国では企業がどのようなスポーツの使い方をしているか?」

「スポンサー企業の業種、スポーツ競技、地域といった分類ごとに、スポンサーの取組に特徴はあるのか?」

「A企業と、競合のB企業のスポンサー事例を比べると、SNSでの反響の違いはあるのか?」

などの分析を行っています。

今回はこのデータベースの中から、企業がスポーツを活用し富裕層にアプローチした事例を抜き出して紹介していきます。

なお、今回の記事は中東の某国出身の友人に、「今までもらったプレゼントで一番高いのってなに?」って聞いたら、「油田」って答えられた経験を持つサセがお送りします。

1. SPOVA DB(データベース)とはなんぞ?

富裕層ターゲット企業のスポンサー事例をご紹介する前にこのデータベースにちょろっと説明しておきます。

このデータベースの機能をカンタンに表現すると、「国内外のスポンサー事例を集約、分析したシステム」です。名付けて(仮)SPOVA DB(データベース)。現時点で、名前は仮称です。もしかしたら「名前だっせぇ」と思った方がいらっしゃるかと思います。繰り返します。名前は仮称です。

ところで、みなさんも過去にこんなこと思ったことないでしょうか。

「あの会社はどのチームにスポンサーして、どんなことやってんの?」

「海外の有名クラブはどんなスポンサー企業を獲得してんの?」

でも同時にこうも思ったのではないでしょうか。

「スポンサー事例を探して分析すんのだるいわぁ…」

我々のSPOVA DBはそんなアナタの作業をラクにするデータベースかな、と思います。

下の図はシステムのトップページです。上段には国内、下段には海外事例が並べられ、最新スポンサー事例を一覧で見ることができます。

そしてこの2万件以上の国内・海外事例を「企業・業界」「コンテンツホルダー(スポーツチーム・団体など)」視点で分析することができます。

要はこういうことです。企業・業界分析では、業界や企業別にスポンサーしているスポーツチームを見ることができます。企業・業界別にどのスポーツチーム・団体にスポンサーしているか?がわかります。

逆にコンテンツホルダー分析では競技種目とそのスポーツチーム別にスポンサーを見ることができます。競技・スポーツチーム・団体別にどんなスポンサーを獲得しているか?で事例を抽出できるってわけです。

加えて、事例の効果(SNS反響、売上・営業利益への影響)を起点に分析できるページもあったりします。

今回の記事では前者の「企業・業界分析」に絞ってご紹介します。

1-1. 企業・業界分析で何ができる?

繰り返しますが、企業・業界分析では企業・業界別にどのスポーツチーム・団体にスポンサーしているか?を見ることができます。企業・業界分析という文字の下にある「国内」ボタンをポチっとすると以下の画面に遷移します。

ここでは企業・業界別にスポンサー事例を絞ることができます。例えば企業で絞る場合はこんなかんじです↓。

例えばみんな大好きPUMAで絞ってみます。すると↓こんなふうに表示されます。PUMAが国内のどんなスポーツチームにスポンサーしているのか、が上段に。下段にはそれに紐づく事例が一覧で並ぶっちゅうわけですね。

企業よりももう少し大きい単位の業界で絞る場合はこんなかんじでフィルタリングできます。

例えば今をときめく情報・通信業で絞るとこんなかんじです↓。事例としてはDAZN、PayPay、LINEなどのスポンサー事例が表示されてますね。

1-2. 社会の注目度を表す興味スコア

下段に表示されるスポンサー事例ですが、表示される順番は日付が新しいものから、というわけではありません。表示順を決めるのは下段の右にある興味スコアなるものです。

これは各記事の発信元SNSアカウントが投稿した当該記事に対して、どれだけエンゲージメント(コメント、リツイート、いいね)があったか、で算出しています。各エンゲージメント指標はその重要度に応じ、統計学的に妥当と考えられる調整をしてスコア化しています。

ごちゃこちゃと難しく語りましたが、要は“どんだけSNS上で反響があったか”を測る指標ってわけです。正直なところ、スポンサー事例は山ほどあります。海外までその範囲を広げればその数は膨大なものになります。そしてその多くは世間からまったく注目されない事例だったりします。そういった事例を見るよりも、社会的な注目を集めた事例を上から表示できる。それが興味スコアってわけです。

ここまで説明したことと同じようなことが海外事例についてもできます。↓にあるように海外のスポンサー事例における企業(&業界)で絞り込むことができるってわけであります。

2. お金持ちを狙ってそうな企業はどの競技にスポンサーしている?

2-1. 富裕層をメインターゲットにした企業20社

ここまででSPOVA DB(データベース)について「ほぅ。こんなシステムあるんか」とご感心いただければ本望でございます。

ではではここから富裕層を狙った企業がどのようにスポーツを活用してるのかっちゅう話です。弊社のデータベースに格納されている企業のうち、「明らかに高級やん」って思う企業20社ワタシ目線でピックアップしてみました。それが↓となります。

もちろん人によって高級ブランドの定義は異なるかと思います。一般人が“高級ブランドやん”ってものでも、アラブの石油王からしたら“普段着やろ”ってのもあるかと思います。ここでは極めて属人的ではありますが、ワタシが思う高級ブランド企業20社にスコープを絞りたいと思います。

2-2. 富裕層をメインターゲットにした企業がスポンサーしているスポーツは?

ではではこの20社はどんなスポーツを使ってスポンサー施策を打っているのでしょうか。SPOVA DBから2010-2020年にこの20社が講じたスポンサー施策を抜き出してみました。それをスポーツ種類ごとに分類したのが↓のグラフです。やはりテニスゴルフが上位2つを占めてますね。打たれている施策が5つあったら、そのうちの2つはテニスかゴルフってかんじです。続いてバスケサッカーモータースポーツが続きます。

3. お金持ちを狙ったスポンサー施策ってどんなんがあるの?

3-1. 富裕層を狙った施策の全体像

ここからは具体的にいくつかの興味深い事例をいくつかピックアップしてご紹介していきます。

事例をご紹介する前に、各企業が実施した施策の全体像を整理しておきます。富裕層を狙った施策は大きく2つに分類できます。

1つは「A. 既存の顧客との関係強化を図った施策」

もう1つは「B. 新規顧客獲得を狙った施策」です。

3-2. A. 既存の顧客との関係強化を図った施策

ではまず1つ目のA. 既存の顧客との関係強化を図った施策をご紹介します。これはざっくりいうと、「富裕層のみなさん!ずっとアクティブなうちのお客様でいてください!」というメッセージが込められた施策です。

事例①:MarriottとManchester Unitedの取組み

まずはMarriott BonvoyManchester Unitedの事例です。

Marriott BonvoyはアメリカのMarriott Internationalというホテルチェーンが展開する会員制プログラムです。会員になれば、会員割引価格で宿泊ができたり、ポイントに応じて様々な特典がもらえます。(出典PR TIMES | 新たな名称となって生まれ変わったマリオットの旅行プログラム、『Marriott Bonvoy』がいよいよスタート

そんなMarriottとパートナーシップを締結したのが、Manchester United。プレミアリーグの超名門クラブです。

MarriottはマンUと提携し、貯めたポイントに応じて会員に特別体験を提供することにしました。この特別体験、本当に特別なんです。例えば、会場に到着した選手の出迎え、スタジアムアナウンサー体験、選手の着替えの準備を手伝うなど。一般の人ではなかなかできない代物です。こんな特別体験を提供することで、一生懸命ポイントを貯め込んでくれた会員メンバーとの関係強化を図ったわけです。(出典hospitality net | Marriott Bonvoy Brings Once-In-A-Lifetime Manchester United Experiences to Asia Pacific

3-3. B. 新規顧客獲得を狙った施策

続いて2つ目の新規顧客獲得を狙った施策です。これは「富裕層のみなさん!うちの商品・サービスの新たなお客様になってください」ってメッセージが込められた施策です。

事例②:Mercedes-BenzとOrland Magic(NBAチーム)の取組み

2つ目の事例は、ドイツの自動車メーカーMercedes-Benz(メルセデスベンツ)とNBA所属のOrland Magicというチームの施策です。

メルセデスベンツは2010年から3年契約でOrland Magicのホームアリーナ内のある施設のネーミングライツをゲットしました。題して「The Mercedes-Benz Star Lounge」。下の写真を見て分かるように、高級感あふれる空間の真ん中にバーがあり、リッチな気分で試合前後の時間を過ごせるようになっています。さらに、このラウンジからしか見られない選手の入退場や敵チームの様子が見られるようになっています。

このMercedes-Benz Star LoungeはOrland Magicのプレミアムチケット保有者のみが入れるようになっていて、ベンツ車も展示されているようです。フロリダのバスケ好き富裕層達がふと興味を抱いてしまう仕掛けですね。(出典:westorlandonews | Mercedes-Benz Sponsors Premium Seating at Amway Center

(出典:KyleStack.com | NBA Season-Ticket Holder Features

これらの施策に共通する特徴をシンプルに表すと「特別感」とか「セレブ感」みたいな言葉で表現できそうです。要は特別な体験とか、特別な空間を用意して「アナタは特別な人」感を演出するんですね。そして人々の自尊心みたいなものをくすぐるのです。

3-4. お金持ちを引きつける“特別感”以外の要素とは?

20社の事例を注意深く見てみたら、特別感とは別の要素を盛り込んだ事例も見つかりました。

実はお金持ちって2つのタイプに分類できるようです。そしてそれぞれ違った価値観を持っているようです。日本政府観光局(JNTO)の分類によれば富裕層旅行者はClassic LuxuryModern Luxuryの2種類に分類できます。スポーツ観戦もちょっとした小旅行なのでこの分類を参考にしたいと思います。

この分類によればClassic Luxuryとよばれる人々は年齢層ちょっと高めの富裕層たちです。彼らは富とか権力に興味を示し、リッチであることを周囲に誇示したい富裕層です。上に書いた特別感を織り交ぜた施策なんかはこういった人たちにはウケが良い施策ですね。「ほれほれ。俺はこんな特別空間に招待されたんや。すごいやろ」と自慢できるわけなので。

(出典:日本政府観光局 | 富裕旅行市場に向けた取組について

もう1つの富裕層がModern Luxuryと呼ばれる人たちです。この人達は比較的年齢が若く、文化、エコ、サステナビリティ、ボランティアとかに強い興味を示します。贅沢よりも、社会性の高いモノに重きを置くんですね。そしてこのModern Luxuryが重要視する社会性という要素を盛り込んだ企画が20社の施策の中に散見されます。

では社会性を盛り込んだ施策はどんなものがあるのか見ていきましょう。

事例③:JPMorgan ChaseとTampa Bay Times Forum を拠点とするスポーツチームの取組み

ご紹介したいのはJPMorgan Chaseというアメリカに本社を置く銀行が行った施策です。

JPMorganは2013年に2つのスポーツチームとパートナーシップを締結しました。1つはNHLTampa Bay Lightning。もう1つがアリーナフットボールチームのTampa Bay Stormです。この2チームはアメリカ・フロリダ州のTampa Bay Times Forumを本拠地にしていました。ちなみに、アリーナフットボールというのはアメフトの室内バージョンのことを指すそうです。

(出典:SPECTRUM NEWS | Palat’s OT goal lifts Lightning over Bruins 4-3 in Game 2、Tampa Bay Times | New faces dot the Storm roster for opener、より作成)

JPMorganはこのパートナーシップで”オフィシャルクレジットカードパートナー”、”金融サービスパートナー”、”ATM提供パートナー”、”コミュニティーパートナー”を務めました。ここで注目するのは、”コミュニティーパートナー”です。

コミュニティーパートナーとしてJPMorganはTampa Bayエリアの地域活性化プロジェクトをサポートしました。具体的には、アイスホッケーリンク整備のボランティア支援、地元学生チームへの用具提供、地元大学のスポーツ関連学部への支援などを行ったそうです。

2013年に開始されたこのパートナーシップは現在も続いています。しかし、アリーナフットボールのチームは2017年に解散、Tampa Bay Times Forumは改名しAMALIE Arenaとなりました。よって現在、JPMorganAMALIE ArenaTampa Bay Lightningとパートナーシップを結んでいます。先ほど紹介した地元エリアをサポートする”コミュニティーパートナー”の活動も継続されています。

具体的にいま現在行われているアクティベーションを1つ紹介します。JPMorgan Chaseはアリーナ・チーム・地元の団体と協力し、試合会場で食料品の寄付を募るキャンペーンを行っています。寄付したファンには、試合観戦チケットか特別デザインのTシャツが提供されたそうです。(出典:NHL | Lightning, Chase team up for fresh produce drive

4. おわりに

いかがでしたでしょうか。お金持ちにアプローチするには、特別感&社会性の2つの要素が求められるってことがわかりいただければ幸いです。

1つ目の「アナタは特別よ」感の演出はわかりやすいですよね。お金持ちが高級外車や腕時計をするってのは、自分のステータスを誇示したい、という欲求の表れという側面もあるかと思います。もちろん純粋に「俺はベンツの排気音が好きなんや」という機能面でメルセデスを購入している人もいるかと思います。ただ、日本政府観光局(JNTO)の分類に従えば、Classic Luxuryは他者や社会的評価を気にするわけです。ならば、そこを「特別感」をもって満たしてあげるってのはすごく合理的な策ですね。

2つ目の社会性については、ワタシも記事を書いていて「なるほどなぁ」と思った次第です。確かにお金持ちってある意味、“上がっちゃった人”なんですよね。そういう人って、世のため人のためな生き方をする人って多い気がします。例えばFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏も財団を設立し難病医療を支援したりしています。これなんかも彼の溢れる社会性が具現化したってことだと思います。

今後も、冒頭で説明したSPOVAデータベースの中から良きな事例があればドンドン記事化していきたいと思います。またまだまだβ版ですが、もしこのデータベースで「こんな事例ない?」「こんな分析できない?」などご興味あればお気軽にお問い合わせいただければと思います。