リモートワークが定着しつつある今日この頃。みなさん、いかがお過ごしでしょうか。リモワってますでしょうか。

このリモワ。従業員の感染リスクを抑える点では効果があるのは間違いないと思います。ただ、チームビルディングの観点からすると、マイナス面もあるようです。それはリモワが続くと、従業員の会社への帰属意識、忠誠心が低下するリスクがあるらしいです。 (出典:博報堂コンサルティング | 「画面の向こう」で起きている“見えない従業員の意識変化” ~WITHコロナ時代における企業と従業員の新たな関係構築のありかた~)

確かに同じ空間にいると、チームメンバーのリアルを感じ取れます。あれ?調子悪そうだなとか、何か困ってるのかな、など。そして雑談を交えた声がけやサポートみたいな行動が生まれます。大丈夫?それ手伝おうか?みたいな。こういう些細な気遣いが人と人をつなぐ接着剤になり、組織を作っているのです。

ただ、リモワだとそういったことが難しくなります。すると従業員の心の中に生まれるのが孤独感、猜疑心などの黒い感情です。この黒い感情はモチベーションの低下を引き起こし、「会社、辞めたろかな」となるわけです。まさに心までソーシャルディスタンスをとってしまってる状態です。

今回はそんな企業のチームビルディングのために、スポーツを活用しようというお話でございます。これまでの記事はスポンサーシップが消費者や取引先にどんな効果があるのかというお話でした。今回は、それの社内向けバージョンになります。流れとしては、前半でスポンサーシップが人事課題解決につながる仕組みを紹介し、後半で実例を紹介します。

なおこの記事は、最近PC画面の見過ぎで3度の飯よりホットアイマスクが手放せないキムラがお送りいたします。

1. スポーツスポンサーシップで生産性を向上し、離職率を下げる

今回の記事はちょっとお堅く理論から入ってみたいと思います。私は計量経済学の書籍と英和辞典片手に必死で読みましたが、ごくごく簡潔に説明しますのでご安心ください。

取り上げるのはスポーツマーケティング・スポンサーシップの国際ジャーナルに掲載された、“Employees’ attitudes towards the sponsorship activity of their employer and links to their organisational citizenship behaviours”という論文です。ざっくり言うと企業がスポンサーシップ活動をしていることが従業員の態度にどう影響するのかを実証的に研究したものになります。

この研究ではオーストラリアの企業を対象に従業員アンケート調査を行い、その結果を分析しています。質問の詳細は省きますが、以下のようなことがわかりました。

まず注目したいポイントは②です。

組織市民行動とは、義務・報酬とは関係なく、企業の生産性向上に貢献しようとする従業員の行動のことです。具体例としては、病気で休んでいた人の仕事を自主的にやってあげる、職場に散らかったゴミを自主的に掃除するなどがあげられます。(出典:日本の人事部| 組織市民行動)

要するに、会社のために無償で何かをするという行動のことです。

この組織市民活動が起こる仕組みをもうちょい詳しく説明しときます。冒頭で帰属意識という言葉を使いました。これは従業員が企業の一員である、と自覚することです。この帰属しているという意識に加え、その組織に貢献したいという意識があります。これを従業員エンゲージメントと呼び、人事領域では帰属意識よりも重要視されつつあります。組織市民行動はこの従業員エンゲージメントが高まった結果と言えます。給料とか査定に関係ないのに、自社のために行動し、貢献しようとしているわけです。そこには自社に対する“LOVE”があるわけです。

そしてこの従業員エンゲージメント。高くなるほど、会社にとっていいことがあります。例えば従業員エンゲージメントの高い会社と低い会社を比べると、利益率、売上、顧客満足度などにおいて有意な差が見られるとのことです。

中でも注目したいのが、離職率です。従業員エンゲージメントが高い会社ほど離職率は低くなります。Corporate Leadership Councilが実施したグローバル5万人を対象にした研究によると、エンゲージメントが高い上位約10%の層と、下位約10%の層の1年以内の離職率の差は87%。つまり、従業員エンゲージメントUp≒会社に対するLOVEがアゲアゲ→離職率低下ってことです。そりゃそうですよね。会社LOVEの人間はなかなか辞めるなんて言わないと思います。

(出典:CEB | Driving Performance and Retention Through Employee Engagement/Corporate Executive Board)

で、冒頭の①の“自分の会社のスポンサーシップに良いイメージを持つ従業員は、そんな会社に所属していることを誇りに思う傾向にある”に戻ります。

従業員が、自社が行うスポンサーシップにいいイメージを持つ。そんな従業員はその会社に所属していることを誇りに思う。そして組織市民行動を起こす(≒従業員エンゲージメントの高まり)ことにより、会社全体の生産性が高まる。それに加えて離職率も下がる、って流れなんです。逆を言えば、スポンサーシップの意義や目的が正しく伝わらず、「なんであんなチームにスポンサーしてんだよ!」という従業員が多ければ、会社の生産性や離職率低減の機会を大きく損失している可能性があるのです。

2. スポーツスポンサーシップで生産性や離職率を改善させるための2つのポイント

ではでは、ここからは従業員に自社のスポンサーシップに良いイメージを持ってもらうにはどうしたらいいのか。この点について考えていきたいと思います。

従業員に自社のスポンサーシップに良いイメージを持ってもらう。そのためには2つのポイントがあると思います。1つ目は”スポンサーシップの内容、意義、狙い“について従業員に知ってもらうこと。人は知らないことやわからないことを恐れたり、批判したりする生き物です。今までなんとなく気に食わなかった人と話してみたら、意外といいやつやん!って思った経験は誰にでもあるかと思います。でも、その人やモノに対して、正しく理解すると恐れや批判する心が中和されます。なので、まずは知ってもらうことが大事なのです。

2つ目はスポンサーすることのメリットを従業員に感じてもらうようにすることです。自分にとってのメリットがあれば、誰でも良いイメージを持ちます。

2-1. 従業員にスポンサーシップの内容・意義・狙いを知ってもらう:コカ・コーラの事例

オリンピックのスポンサーを長年務めていることで知られるコカ・コーラ。獲得権利を様々な形で活用する、スポンサーシップの優等生であることは言うまでもありません。

(出典:コカ・コーラ | 「コカ・コーラ」東京2020オリンピック デザインボトル3種 3月9日(月)から期間限定発売)

そんなコカ・コーラも、スポンサーシップの社内向け効果を重視しています。2021年に開催予定の東京オリンピックについては、オリンピックを題材にした従業員向けのモチベーション映像を社内で配信しているそうです。コカコーラはなぜスポンサーしているのか、オリンピックにどのように貢献しているのか。従業員はそんなことを知ることができ、モチベーションが上がったのではないでしょうか。

実際にこの取り組みは成果に表れています。日本コカ・コーラで東京2020年オリンピック ゼネラルマネジャーを務める高橋オリバー氏によると、この2年で退職者の数が激減したと言います。まさに従業員に、スポンサーすることの意味を知ってもらい離職者の低減に結びつけた事例ですね。 (出典:日経クロステック | スポンサーシップとは? コカ・コーラが説く本当の意義)

2-2. 従業員にスポンサーシップのメリットを感じてもらう①:リコーの事例

次は従業員に感じてもらう、Don’t think, just feelな事例です。本社を日本に構えるリコーのヨーロッパ法人では、スポンサーシップで得られた権利の一部を従業員にわかりやすく還元しています。

リコーヨーロッパはテニスのATPツアーのスポンサーとなっています。ATPとはAssociation of Tennis Professionalsの略で、グランドスラムを目指す選手たちが参加する世界男子テニスツアーです。リコーヨロッパは、社内の営業成績コンテストの賞品としてこのATPツアーの試合チケットを配布しています。

中にはロンドン(2021年からはトリノ)で行われるATPファイナルズのVIPチケットを懸けたコンテストもあるようです。(出典:Sports Business Journal | Employee benefits – Companies use sports sponsorships to motivate employees and recognize their accomplishments)

ちなみにこのATPファイナルズ、まじでかっこいいです。この雰囲気を体験できた社員のモチベは爆上がりのストップ高だったハズ。また、他の社員も「仕事で結果を出せばこれに行けるかも!」と思い、退職するという選択肢は消え失せるのではないでしょうか。

(出典:YouTube | BARCLAYS ATP WORLD TOUR FINALS: MATCH HOSPITALITY PROMO 2016)

2-3. 従業員にスポンサーシップのメリットを感じてもらう②:NTTデータの事例

Jリーグの大宮アルディージャのオフィシャルスポンサーとなっているNTTデータ。彼らも福利厚生の1つとして社内向けのアクティベーションに力を入れています。

具体的には社員応援ツアーを企画し、社員の一体感醸成に努めています。中には家族で観戦に来る従業員もおり、「社員のモチベーション向上に貢献している」と担当者は語ってらっしゃいます。(出典:早稲田大学大学院修士論文 | B2B 企業のスポーツ協賛が「社名認知度」および「就職意向度」に与える影響について)

ここからは少しだけ私の妄想劇にお付き合いください。家族がアルディージャファンのNTTデータ社員Aさんがいたとします。Aさんは毎日、忙しく働いているため、平日の家族サービスはできないでいました。ただ、休日に会社が用意してくれるアルディージャの応援ツアーに家族で参加しており、子供の喜ぶ顔と共に家族関係は円満です。会社のおかげで家庭環境が良好であると感じるAさんは、エンゲージメントが高まり、ますます仕事に邁進するのでした。

我ながら雑なフィクションでした。ただ、スポンサーシップがこういった形で従業員のエンゲージメントを高めたケースはけっこうあるのではないでしょうか。

(出典:大宮アルディージャ | 7/1・横浜FM戦 スクール生限定ホームゲームイベント実施レポート)

3. スポーツスポンサーシップで離職率を下げることのコストメリット

ちなみに、スポーツスポンサーシップで離職率を下げること。これってコストの面でもけっこうメリットがあるんです。例えば平均年収700万円、社員数1,000人の会社があったとします。この会社の離職率は全国平均の11%とします。(出典:厚生労働省 | 平成30年雇用動向調査結果の概況)

この会社は毎年約100人が辞めていき、それを埋め合わせるために100人採用しているわけです。転職エージェントにお願いして、中途採用をする場合、エージェントによりますが採用した人の年収の20%程度は手数料として発生します。(出典:中途採用サクセス| 上司を説得できる「適正な採用コスト」の考え方とは?) そうなると、年間で約2.3億円の採用コストがかかっているという計算になります。

もちろん、スポーツスポンサーシップですべての従業員のエンゲージメントを爆上げすることは難しいと思います。しかし数千万円のスポンサー金で離職率を下げ、2.3億円もの採用コストを半分でも削減できるとしたら…けっこうお得かも!と思うのではないでしょうか。採用コストに加えて、研修コストや退職手続きに係る業務コストなど含めれば実はもっと削減効果は大きいです。

4. おわりに

今回はスポーツの力で従業員エンゲージメントを高め、生産性を向上し、離職率を下げるというテーマでお送りしてきました。

まずは、従業員に自社のスポンサーシップについて知ってもらうこと、そしてメリットを感じてもらうこと。この2つのポイントが重要なのです。それができれば従業員エンゲージメントを高め、組織市民行動を引き出し、生産性の向上と離職率の低減に繋がりうるのです。

コロナ禍を機に従業員の心が会社から離れていると感じるならば、スポーツを使って従業員の結束を強める。そんなことを考えてみるのもいいかもしれません。

今回もお付き合い頂きありがとうございました!