前編はミクシィの歩みを時系列で紐解いてみたという記事でした。ミクシィという会社の浮き沈みや、スポーツ事業本格化に至るまでの経緯が分かる記事になっています。まだ読んでいないという方は、ぜひポチッとお願いします。

今回後編の記事では、SNSやスマホゲームで一時代を築いたミクシィがどのようにスポーツ事業を成長軌道に乗せていこうとしているのか、を考察していきます。

ミクシィが数あるプロスポーツチームの中からなぜ千葉ジェッツとFC東京を選び、どのように事業シナジーを創出しようとしているのか。なぜ公営競技に力を入れているのか。なぜミクシィのスポーツ事業はプロスポーツと公営競技という2軸を持っているのか。多くの疑問の点と点が線になっていく考察記事となっていますので、最後までお付き合いください!

考察ドラマが流行しているこのごろ。「真犯人フラグ」の考察にハマっているマルタがこの記事をお送りします。

1. ミクシィのスポーツ事業はなにをやってる?

ミクシィが展開するスポーツ事業は大きく「公営競技」と「プロスポーツ」の2種類に分けられます。

公営競技とは、競馬、競輪、競艇、オートレースの総称で、日本で認められている賭博(ベッティング)のことです。ミクシィはこの公営競技に関する事業を展開。競輪車券のインターネット投票サービスを運営する「チャリ・ロト」や競馬メディア「netkeiba」などのサービスがあります。

プロスポーツにおいては、Jリーグ所属のFC東京とBリーグ所属の千葉ジェッツふなばしの経営・運営が主な事業です。(出典:mixi Group  | サービス・グループ会社一覧2019年3月期 第4四半期及び通期 決算説明会資料

2. ミクシィが進めるスポーツベッティング参入のための土台作り

2-1. ミクシィスポーツ事業の展望

どうやらミクシィは、スポーツ事業の成長戦略としてスポーツベッティング事業への参入を見据えているようなのです。

現状日本においては、国際的に認識されるところのスポーツベッティングは賭博罪(刑法185条)が適用され違法となります。しかし、日本政府に施行を許可されているものとして公営競技があります。また、スポーツ振興くじの「TOTO」や「BIG」も法的に賭博でないとされ、施行を許可されています。(出典:Japan Sport Council:スポーツ振興投票の実施等に関する法律、西村あさひ法律事務所 | スポーツベッティング事業の米国の最新動向と日本におけるサービス展開の法的留意点

ミクシィは、今後の合法化に向けたスポーツベッティング市場への参入を目論んでいます。スポーツべティングの合法化が実現した暁には本命の民間事業者として業界をリードすることも見据え、着々と土台作りを進めているようなのです。

ミクシィが進める土台作りには大きく2つのアプローチがあると考えられます。

(A)スポーツベッティングを幅広く楽しんでもらう仕組みを作る

(B)スポーツベッティングを幅広く知ってもらう仕組みを作る

それぞれを詳しく見ていきましょう!

2-2. (A)スポーツベッティングを幅広く楽しんでもらう仕組みを作る

2-2-1.①公営競技に対するイメージを変える!

まずミクシィは、公営競技に対するイメージ改善に取り組みます。皆さんは、公営競技にどんな印象を持っていますか?年配の方、特に男性が嗜むもの。というイメージがあるのではないでしょうか。

ミクシィはこのイメージを変えようと様々な取り組みを実施しています。下の写真は、ミクシィと株式会社JPF(千葉JPFドーム所有者)ジョイントベンチャーである株式会社PIST6が、千葉市と共同運営を行っている競輪場の様子。ここでは、カラフルな照明、大音量でクラブミュージックを流す、ミラーボールが回るなど、ド派手な演出をすることで競輪のイメージを変えようとしています。若者女性にも来場してもらうためにこのような演出をしているようです。(出典:ミクシル | 競輪のリノベーションで、新しい価値を生み出す。『PIST6』の挑戦

(出典:ミクシル | 競輪のリノベーションで、新しい価値を生み出す。『PIST6』の挑戦

さらに、ミクシィが提供する公営競技関連の各サービスのCMキャラクターに若者から人気のタレントを起用しています。チャリ・LOTOのCMに、若手芸人の霜降り明星。TIPSATRのCMにEXILE白濱亜嵐関口メンディーなど。今をトキメク若いタレントを起用することで、公営競技に対するイメージを変えようとしているというのが伺えますね。

(出典:チャリ・LOTO、PR TIMES | 無料で365日遊べるケイリンアプリ「TIPSTAR」新TVCM NAOTOさん、白濱さん、メンディーさん、佐藤さんが「FANTASTICS from EXILE TRIBE」とパフォーマンスを披露! より作成)

ミクシィが既存の公営競技のイメージを変えようとしているのは、既存サービスのユーザー拡大はさることながら、スポーツベッティング解禁に向けての準備も兼ねていると考えられます。

もしこのまま、「公営競技=年配の方、特に男性が楽しむもの」というイメージが払拭できなければ、スポーツベッティングが解禁されたとしても、同様のイメージになってしまう可能性があります。となれば、スポーツベッティングの顧客層の幅がかなり狭まってしまうでしょう。

ミクシィはより幅広い人にスポーツベッティングをしてもらうため、まずは既存の公営競技のイメージを変えようとしているのだと思われます。

2-2-2. ②公営競技を”誰でも簡単に楽しくできるもの”に

次に、ミクシィが提供するTIPSTARという競輪・オートレースの投票プラットフォームについてです。

実はちょっと前から、公営競技にはオンラインで投票できるサイトがありました。しかし、それはあくまでレースの情報とお金のやり取りをするためだけのもの。ただ単に、顧客が現地に行かずとも投票券を購入できるようになったというだけです。

しかし、TIPSTARはそうした従来のオンライン投票サイトとは違い、誰でも簡単に楽しく投票ができるサービスを生み出しました。

2-2-2-1. 誰かと一緒にワイワイしながら楽しめる

公営競技の競技場といえば、新聞や雑誌を片手に黙々と予想をしている人々が頭に浮かびませんか?みんなでワイワイ楽しむというより、各々1人で楽しむというような人が多いイメージがあると思います。

下の写真は実際の競馬場ですが、皆さん紙を片手に各々の時間を過ごしている様子が伺えます。(もちろん写真はコロナ渦ということもありますが。)

(出典:ウマフリ | 久しぶりの“競馬のため”の早起き~競馬の良さを再認識した1日

TIPSTARは、1人ではなく誰かと公営競技を楽しむための機能があります。1つは、マルチプレイ機能。1グループ最大4人で同じレースにベットすることができます。TIPSTARを持っている友達はもちろん、持っていない人も新たに招待することもでき、様々な友達とあれこれ言いながら楽しむことができます。

もう1つは、365日行われている動画の生配信。TIPSTARでは、モデルや芸人などのタレントが”TIPSTAR”として3人1グループになり、レースを予想・ベッティングしている様子を生配信しています。この配信はテレビなどで放送される予想番組とは違い、タレントが素でレースを楽しんでいる様子をずーっと流しています。まるで、タレント達と同じ空間で一緒にレースを楽しんでいるかのような体験ができるのです。(出典:TIPSTAR | 遊び方

(出典:TIPSTAR

配信はレースとレースの合間の時間にも流れており、視聴者をレースから離れさせないような設計になっています。ちなみにワタシが見た時には、レースの合間中に「お刺身はご飯に合わない」という話を永遠にしていました。

2-2-2-2予想が簡単

「ギャンブルを全くやったことがないから、どれにどう賭ければいいのかわからない…」という方も多いかと思います。特にミクシィが新たにリーチを図っていると思われる若者女性に多いのではないでしょうか。TIPSTARは、このようなギャンブル初心者の人たちも楽しめる機能を有しています。

その機能は「のっかりベッティング」というものです。これはその名の通り、誰かが購入した車券の種類・枚数と同じものをコピーして購入できるというもの。便乗ベッティングができちゃうわけです。先程紹介した通称TIPSATRと呼ばれるタレントが生配信中に購入した車券にのっかることもできますし、一般ユーザーが公開したものにも乗っかれちゃいます。

(出典:TIPSTAR遊び方 より作成)

公営競技そのものをやったことがない人、他の公営競技はやったことがあるが競輪は初めて、という人にとってすごく助かる機能ですよね。車券を公開している人の勝数も公開されているので、予想が上手い人に便乗できちゃいます。知識や経験がなくても簡単に賭けられちゃう。知識がないからチャレンジできないという人のハードルを一気に下げていますね~。

2-2-3. ソシャゲー感覚で楽しめる

TIPSATRには、モンストのようなソシャゲー要素があります。それは、ガチャです。モンストでは強キャラを手に入れるためにガチャを引き、多くの人が課金しまくったとかしてないとか…社会的物議をかもしたとかしてないとか…

TIPSTAR内には、「TIPマネー」と「TIPメダル」という2種類の通貨があります。TIPマネーはその名の通りほぼお金のようなもので、単位は円です。このTIPマネーは現実世界と同じ価値で取引されます。TIPマネーで購入した車券が的中すれば、払い戻しを銀行振込で受け取ることができます。(出典:TIPSTAR SUPPORT PAGE | サービス内通貨・ポイント

一方、TIPメダルはログインボーナスやミッションをクリアすることなどで、ゲーム中で無料配布されます。TIPメダルでベットし、見事的中すると、「ガチャポイント」なるものをGETできます。この「ガチャポイント」を貯めると、ガチャを引くことができるのです。ここがTIPSTARが持つソシャゲー要素ってわけです。ガチャは一度ハマると沼なようで、TISTARでガチャを引くために競輪予想をしている人もいるみたいです。

↓は参考までに実際のガチャの様子です。

そしてガチャが当たると何がもらえるかというと、ナント現金と同等の価値を持つTIPマネーを獲得できます。そしてそのTIPマネーで賭けた車券が的中すると現金で払い戻しを受け取ることができます。無課金で現金を手にすることができる可能性があるってわけなんです。もちろんそんなに簡単に当たるものではないようですが、ガチャ引くだけで現金がもらえちゃうかも!ということで専業主婦や、ポイ活をしている人たちの間でブームになっているとか。(出典:フモフモコラム | ミクシィがひっそり始めた競輪投票サイト「TIPSTAR」が思いがけず画期的だったので、コロナ禍の新課金手段としてご紹介しますの巻。 アプリマーケティング研究所 | 地方の主婦が「ながらギャンブル」ソシャゲと競輪の融合風サービス「TIPSTAR」が主婦に広がる理由や楽しさをユーザーに聞く

ミクシィは、1人ではなくみんなと楽しむ機能や簡単にレース予想ができる機能、ソシャゲー要素を含めることで、誰でも簡単に楽しく公営競技ができる方法を作りました。これも、より幅広い人に楽しんでもらえるようにという、今後のスポーツベッティング解禁も見据えた準備の1つではないでしょうか。

2-2-3. ③みんなで集まってスポーツベッティングを楽しむ場所をつくる

ミクシィが進めるスポーツベッティング参入のための土台作りは、自社サービス内だけではなく、他業種とも協力して進めています。ミクシィは英国風パブをチェーン展開する「HUB」と業務提携を締結。ミクシィ社長の木村氏によると、この業務提携の目的は2つあります。

1つは、スポーツ観戦ができる飲食店を検索するサービス「Fansta!」との連携。HUBはスポーツのパブリックビューイングを得意とし、全国に100以上の店舗を持っています。そこに「Fansta!」を導入させるためってわけです。

実はミクシィには、この2つ目の目的の先に見据える目標があります。それは、HUB×ミクシィの業務提携によって作ったソーシャルな場で、公営競技&スポーツベッティングを楽しむカルチャーを作ること。コロナが明けたら、HUBでお酒を飲みながら競輪などの公営競技を観たりする世界を目指したいそうです。そう遠くない未来ですね~。(そう信じたいですね…。)(出典:News Picks | 【社長激白】ミクシィがHUBと組む「本当の目的」

2つ目は、ソーシャルな場を提供すること。全く知らない人と一緒に「おお~っ」と声を上げたりしながら一緒にコンテンツを消費することのできる場所を作りたかったそうです。

実際にミクシィ社長の木村氏は、この業務提携のゴールについて

「Fansta」を送客ツールとして活用しながら、全国100店舗以上あるHUBも含めて、スポーツベッティング(スポーツを対象にした賭け事)ができるカルチャー醸成をする。” (出典:News Picks | 【社長激白】ミクシィがHUBと組む「本当の目的」

と言っています。つまりミクシィがHUBとの業務提携で最終的に目指しているのは、スポーツベッティング(※この記事でいう公営競技&スポーツベッティング)ができるカルチャーをつくること。そのためにHUBと協業して着々と土台作りをしてるってわけですねぇ。

ここまでで、ミクシィが進めているスポーツベッティング参入のための土台作りとして①公営競技に対するイメージを変える!、②公営競技を”誰でも簡単に楽しくできるもの”に、③みんなで集まってスポーツベッティングを楽しむ場所をつくる、を紹介しました。①~③を実施し、公営競技を楽しむ人を増やしたり楽しむ場所を作ったりして、裾野を広げようとしているって話でした。実は、①~③の施策の狙いはそれだけではなさそうなんです。

↓の絵は公営競技にいいイメージを持っていなかった人が①~③の施策によって、公営競技にアクティブになっていくまでの心理状況の変遷を表しています。

ミクシィは闇雲に公営競技人口を増やそうとするのでなく、人々が公営競技を自然と楽しめるような仕組みを戦略的に作っているのです。ひいては、スポーツベッティングが合法化された際にも自然に手を付けてもらえるように。

2-3. (B)スポーツベッティングを幅広く知ってもらう仕組みを作る

スポーツベッティング合法化実現を見据え、着々と準備を進めるミクシィ。ここからは、ミクシィのスポーツ事業「公営競技」領域だけでなく、「プロスポーツ」領域も準備に巻き込んでいきます。

ミクシィスポーツ事業の「プロスポーツ」領域における現在のメインは、「千葉ジェッツふなばし」と「FC東京」の経営・運営です。

2-3-1. 千葉ジェッツふなばしと公営競技

まずは、Bリーグ所属の千葉ジェッツふなばし。千葉ジェッツふなばしのホームタウンは千葉県船橋市です。(出典:CHIBAJETS FUNABASHI | ホームタウンふなばし

この船橋市には、中央競馬の中山競馬場と地方競馬の船橋競馬場の2つの公営競技場があります。これは全国を見てもかなり珍しく、中央競馬と地方競馬の両方の競馬場が存在するのは全国で唯一船橋市だけなんだそうです。船橋市はギャンブルの街なんて呼ばれたりしています。(出典:JRA | 競馬場、Rakuten競馬 | 地方競馬場一覧

実は千葉ジェッツは新アリーナ建設を予定しており、その建設予定地が船橋市のJR京葉線南船橋駅近くだと発表されました。この新アリーナ建設予定地から船橋競馬場までは徒歩で約10分、中山競馬場までは車で約20分の距離にあります。新アリーナは2つの競馬場からアクセスの良い場所に建設される予定なのです。(出典:CHIBAJETS FUNABASHI | 収容客数1万人規模のホームアリーナ「(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)」2024年春開業(予定)のお知らせ))

さらに最近ミクシィは、この新アリーナ建設予定地からアクセスの良い場所にある競輪場のネーミングライツ権を獲得し、TIPSTAR DOME CHIBAと名付けています。全国に数ある競輪場の中からわざわざ千葉ジェッツのホームアリーナ付近にある競輪場を選んだんですね。(出典:産経新聞 | ミクシィが命名権「ティップスター ドーム チバ」

(出典:建設通信新聞 | 【夢のアリーナプロジェクト】Bリーグ「千葉ジェッツふなばし」南船橋に新アリーナ検討中、千葉日報 | 南船橋に「アリーナ」建設 ジェッツ新本拠地 4階建て、24年春完成予定 JRA | 中山競馬場 アクセス・営業時間案内、船橋ケイバ | アクセス、PIT6 | アクセス より作成)

2-3-2. FC東京と公営競技

続いて、FC東京。FC東京のホームスタジアムは、東京都調布市にある味の素スタジアムです。(出典:味の素スタジアム | アクセス

実はFC東京のホームスタジアムから、競馬、競艇、競輪の競技場へは全て車でたったの約10分で行けちゃう距離にあります。味の素スタジアム周辺は、公営競技密集地域なのです。

(出典:味の素スタジアム | アクセス、東京オヴァール京王閣 | 交通アクセス、JRA | 東京競馬場 アクセス・営業時間案内、BOAT RACE多摩川 | アクセスマップ より作成)

多数あるサッカーチームからFC東京を子会社化するに至ったのは、この好立地が故と考えられます。

千葉ジェッツの新ホームアリーナ付近とFC東京のスタジアム付近はともに公営競技の競技場が集結しており、ギャンブルファンとスポーツファンが集まる場所。ギャンブルファンはスポーツチームのことが、スポーツファンはギャンブルのことが嫌でも目に入る環境が作りやすいでしょう。互いのファン層が行きかうには絶好の環境だといえます。

3. おわりに

いかがでしたでしょうか。ミクシィスポーツ事業のゴールは、スポーツベッティング事業の成功であり、そのゴールに向けて着々と事を進めているってお話でした。

実際に、ミクシィは自民党政策調査会の会議でスポーツギャンブル解禁を要望しています。スポーツベッティング合法化に向けて、既に政府に働きかけているのですね。(出典:SAKISIRU | 政府・与党内でスポーツギャンブル本格解禁の動き #1 あの和製SNS企業も推進

スポーツベッティング解禁後に中心的なポジションを獲得することを見据え、スポーツ事業を展開しているミクシィ。これからのミクシィがスポーツベッティング市場参入に向けてどんな一手を打ってくるのか楽しみですね。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。