いろいろあった2020年も終わりに近づいてきました。年末からお正月のスポーツといえば箱根駅伝や天皇杯決勝が思い浮かぶかもしれません。

そんな中、忘れてはならないのが大晦日に開幕する冬の全国高校サッカーです。将来の日本代表候補が約2週間にわたって熱い戦いを見せてくれます。そしてその人気はプロスポーツ並みです。前回大会の第98回全国高校サッカー選手権大会。静岡学園が青森山田を3-2で破り、優勝を決めた決勝の来場者数はなんと5万6,025人(出典:ゲキサカ | 第98回選手権決勝は観客数5万6025人で記録更新! さらに通算来場者数も大幅更新の33万6999人)

その12日前に行われた、ヴィッセル神戸vs鹿島アントラーズの天皇杯決勝。この観客数が5万7,597人だったので、その人気の高さがわかるかと思います。(出典:ESQUIRE | 2020年1月1日、サッカー天皇杯決勝 優勝はヴィッセル神戸にー 新たな国立競技場に5万7597人集まる)

このようにコンテンツとして高い魅力を誇る高校サッカー。そんな高校サッカーのユニフォームにスポンサー企業のロゴが入っているという事実はあまり知られていないかもしれません。

というわけで今回は高校のサッカーチームに企業スポンサーが増えてきた背景や、学生スポーツへのスポンサーならではのメリット、今後の展望について考えてみます。

なお今回の記事は、高校のサッカー部時代の練習のおかげで、シャトルラン恐怖症になったサセがお送りします。

1. 高校サッカーのスポンサー事情

まずは最近高校サッカー界にどんな変化が起きているのか、スポンサーシップという切り口でチェックしていきましょう。冒頭でお伝えした通り、近年は京都橘、國學院久我山、米子北、市立船橋などの強豪校に企業スポンサーがつきつつあります。下の写真にあるように高校サッカーのユニフォームに企業のロゴが掲載されたりしているのです。

でもこんなユニフォーム、高校サッカーがまあまあ好きな方でもあまり見覚えないんじゃないでしょうか?それもそのはず。インターハイや冬の高校サッカー選手権ではロゴ入りユニフォームがまだ認められていません。冒頭でお話した冬の高校サッカー選手権は高体連(全国高等学校体育連盟)が管轄しており、選手権での着用は認められていません。 (出典:Number Web | 公立校の市立船橋に胸スポンサー。部活の概念を高校サッカーが変革!)

この、企業ロゴ入りユニフォームの着用が認められている大会が「U-18サッカープレミアリーグ」なるものです。日本の16~18歳の才能あるサッカー選手が育成される場は主に2つあります。高校の部活と、Jリーグのユースチームです。この高校の部活とJリーグユースが垣根を超えて試合ができる環境を作るべく、2011年に設立されたのがこのプレミアリーグです。イングランドの本家プレミアリーグと似た方式で、強豪高校とJリーグユースが1年近くにわたってホームアンドアウェーで戦います。

色々なチームと対戦の機会が増え、選手としては嬉しい一方で大変なのが長距離移動の負担です。プレミアリーグはイースト・ウエストという2区分しかなく、東日本・西日本という範囲内で対戦相手のホームグラウンドまで出向いて試合を行うことになります。

例えば、強豪校として知られる青森山田高校は本州最北端から関東、東海、北陸まで行かなければなりません。アウェー戦のたびに、片道10時間移動が当たり前だそうです。(Number Web | 青森山田は毎試合バス移動10時間。プレミアイースト優勝はハングリー故?)

電車を使う高校は移動費が半端ではなく、年500万円以上かかってしまう高校もあるといいます。「プレミアリーグで公立校が戦うのは費用がかかりすぎて無理」との声もあるようです。強豪校ほど、普段の活動費用に加えてこのような出費もあり、学校や選手の家庭のお財布事情はなかなか厳しいというわけです。(Sportsnavi | 高校側から見るプレミアリーグの利点と改善点 流通経済大柏高校・本田裕一郎監督インタビュー)

そんな状況を打破すべく、日本の高校サッカー部で初めてスポンサーを募ったのが京都橘高校でした。監督は「スポンサーが付くことでサッカー部員の保護者の費用負担を軽減することができます。また社会とのつながりを感じながらサッカーに打ち込むことで、選手達が普段の行動にも自覚と責任を持てるようにもなる。」と語っています。

京都橘の先例を見て、同じように活動費負担に悩んでいた全国の強豪校がスポンサーを募るようになり、現在に至ります。プレミアリーグなどもチェックするコアな高校サッカーファンには、選手たちがロゴ入りユニフォームを着ているのがお馴染みの光景となりました。

2. 企業が高校サッカーのスポンサーになることで得られる特徴的なメリットとは?

それでは、高校サッカー部を支援することで企業にどんなビジネスメリットがあるのか。考えれば色々あるでしょうが、今回は特徴的なメリット2つについて、事例を交えて見ていくことにしましょう。

2-1. 特にその高校&地域に関わる人々に社会貢献意識をアピールでき、企業イメージが向上する

これは一番わかり易いメリットかと思います。高校スポーツでは、その競技が何であれ、若者ががむしゃらにプレーします。彼らは時にひたむきすぎるほどの全力プレーを見せてくれます。そしてその姿は人々に感動を与えます。当然ながら彼らは、給与をもらっていません。ただ純粋に3年という限られた時間の中で仲間とともに、一瞬一瞬を全力でプレーする若者の姿がある。それが高校スポーツなのです。

2018年8月、マイナビは船橋市立船橋高等学校(通称、市船)サッカー部のユニフォームスポンサーになりました。その際に市船は以下のようなコメントを発表しています。

このようにマイナビは市船でサッカーを頑張りたい生徒と保護者をサポートしている会社なのです。市船サッカー部のがむしゃら具合に感動した人が、「市船サッカー部いいチームやで!→おや?マイナビがサポートしてるんや→マイナビ素晴らしい会社やで!」となるわけです。

そして市船の身近な人であればあるほど、このポジティブなイメージをより強く抱くようになります。身近な人とは、保護者、現役生徒、OB/OG、船橋市の住民などです。彼らは市船が活動費捻出に苦労しているという事実をより手触り感を持って理解しています。市船の苦労を近くで見て、知っている人たちだからこそ、それに手を差し伸べたマイナビにはより強い社会貢献企業の印象を持ちます。「マイナビは市船を通じて青少年育成・地域貢献している企業やで!」と思うようになるのです。

印象レベル差のイメージ

2-2. 近い将来の生活&行動様式の変化とともに、消費行動を起こす(変える)顧客にアピールできる

みなさん、中学生から高校生になったとき、生活とか行動ってどう変わりましたか?おそらく電車に乗るようになった、遠くの友人と遊ぶようになった、などがあると思います。では高校から大学(専門学校)に入学する(した)ときはどうでしょうか?入学式用にスーツを買った、バイトを始めた、一人暮らしを始めた、などの変化が起こったのではないでしょうか。

このように、若い頃というのは、中学生→高校生→大学生(専門学校)→社会人、と社会的ステータスが数年単位で変わるのです。その度に生活&行動様式が変わります。同時にそれに必要なモノやサービスも早いサイクルで変化します。そして高校生→大学生の過程で、生活&行動が近い将来に大きく変わる若者にリーチできるのが高校スポーツ(サッカー)なのです。

学生のステータス変化による生活&行動変化と必要なモノ&サービス

例えば、紳士服のAOKIは国学院久我山高校サッカー部にスポンサーしています。人が人生で最初にスーツを購入するタイミングは大学へ入学するときか成人式のときですよね。この18-20歳前後の若者はスーツの購入ニーズが一気に高まるわけです。

だからAOKIはスーツの購入ニーズが卒業後すぐに高まる高校生にリーチするために高校サッカーにスポンサーするわけです。そして早い段階から“スーツを買うならAOKIでね”と刷り込むことができます。

上に紹介した市立船橋高校にスポンサーしたマイナビも同じように考えることができます。マイナビは若者をターゲットにしたサービスを数多く展開しています。例えば、マイナビ進学。これなんかは高校に入学し、数年後の進学先を考えるという若者の行動変化に合わせたサービスです。また大学生(専門学校生)になると、かなりの人がアルバイトという行動を起こします。そんな若者に使ってもらうマイナビバイト。そして大学3年生ぐらいから就活という行動変化を起こす学生のためのマイナビ。市船サッカー部という人気チームにスポンサーし、高校生のうちから認知を拡大することで、“マイナビ”ブランドを若者に刷り込むことができるのです。

こんな枠組みで考えてみると、いろんな業種、サービスが高校生スポーツにスポンサーするメリットが思いつきます。特に、高校生→大学生、の時期は生活&行動様式がガラリと変化します。例えば大学生になると一人暮らしを始める人が多く発生するので、引っ越しという行動が起きます。ならば引越し業者などが高校生スポーツにスポンサーするってのも考えられます。あとは一人暮らし用の家電、家具を売る量販店などもスポンサーメリットを得られると思います。あとはお部屋探しサイトなんかもアリですね。

このように高校スポーツへのスポンサーシップは、高校生から大学生になることで様々なモノ・サービスがもうすぐ必要になる人の集団にアピールできる、というメリットがあるのです。

3. アメリカの高校スポーツはどうなってる?

まだまだ日本ではあまり知られていない高校スポーツへのスポンサーシップ。“教育にビジネスを持ち込むな”という声があるのも事実です。

ではスポーツ大国、アメリカではこのへんはどうなっているのでしょうか。実はアメリカでは公立校含め、高校の運動部にスポンサーがつくのはわりと一般的なことです。日本よりも高校と地域が密な関係にあり、高校の試合には地域住民が多数訪れることもあります。なので、地域住民をターゲットとするビジネスであれば広告の掲出は有効な手段となります。

学校側もスポンサー集めに熱心です。アスレチックディレクターという役職を置いてその担当者が企業と交渉を進めます。いかに運動部の活動が素晴らしいか、スポンサーにとってどのようなメリットがあるのかなどを具体的な数字で説明します。このようにビジネスメリットを定性的&定量的に説明する。そして運動部の活動資金を集めることで、経済的に恵まれない生徒も自由に活動できる仕組みを学校全体で作っているのです。 (出典:THE ANSWER | 公立校の運動部にスポンサー 米国の部活で確立された「入場券とスポンサービジネス」)

このような取り組みはアマチュアリズムうんぬんの議論にもなりそうなもので、反対する方もいらっしゃるかと思われます。しかし、こういった活動のおかげで、学校側は資金を心配することなく生徒たちに思いっきり活動させることができます。企業は高校スポーツをマーケティングに活用でき、学校と企業は共存共栄の関係になるのです。もしかしたらアメリカからたびたび、とんでもないアスリートが誕生するのも、こういった環境づくりが関係しているのかもしれないですね。

4. おわりに(高校スポーツにビジネスを持ち込むなんてケシカラン!という方へ)

今回は高校サッカー開幕直前SPということで記事を書いてみました。“ふーりーむくなよー、ふりむくなよー”。ワタシの頭の中では高校サッカーのテーマソングがエンドレスで脳内再生されています。

ご紹介した高校スポーツへのスポンサーはアメリカなどと比べると日本はまだまだ発展途上と言えそうです。教育の場である部活にビジネスが交わっていく。そんな現実に抵抗がある方もいらっしゃるかと思います。

しかし、これは日本のスポーツを強くする一助にもなるのかなぁ、とも思ったりもします。2018年に厚労省が実施した国民生活基礎調査によると、日本における子どもの貧困率(17歳以下)は13.5%だったそうです。日本では7人に1人の子供が貧困状態に置かれているのです。(出典:厚生労働省 | 2019年国民生活基礎調査)  日本の0-19歳の人口は約2千万人なので、数にすると約280万人にもなります。

そして、内閣府の調査によると、貧困家庭にいる子供は非貧困家庭の子供と比べて、以下のような傾向があるとしています。

(出典:内閣府 | 子供の貧困実態調査に関する研究 報告書 より作成)

このように、貧困状態の子供たちは経済的な理由から部活、習い事、スポーツをしない(できない)という傾向があるのです。きっと本当はやってみたかったのに、家庭の事情や親を気遣って諦めた子供たちもいるでしょう。もしかしたらその中には、とんでもない才能を持った子がいたかもしれません。

企業が高校スポーツをスポンサーすることで、経済的理由でスポーツを諦める子供が少しでも減ったのなら。そう考えると、企業が高校スポーツに入っていくことはもう少し検討されてもいいのかな、と思います。道のりは長いでしょうが、高校スポーツと企業が手を携えて成長していくという新しい形。今回ピックアップした事例は、そんな未来への第一歩となるようなケースなのかもしれません。

今回の記事を読んで、高校スポーツにスポンサーすることのメリットが少しでもご理解いただければ幸いです。また高校スポーツを使って先駆的な取り組みを検討したい、という方がいらしたら、お役に立てるかもしれませんのでぜひお気軽にご連絡いただければと思います。

これからも「そんなところにスポンサーして、ビジネスメリットが作れるのか!!」と思うような、知られざる事例を紹介して参ります。次回記事もどうぞお楽しみに!