地方創生、地域活性化…。こんな言葉を耳にするようになってから長い年月が経ちました。しかし、コロナ禍で東京からの転出人口が増えているとは言え、東京一極集中はなかなか歯止めがかかりません。
この東京一極集中はあらゆるところに飛び火します。例えば少子化。東京の人口が増える→保育園が足りない→待機児童が出る→(保育園に預けられないなら)子供を産まない親が増える、とか。
地方を創生し、経済圏を作って、人々が安心して暮らせる地域を作っていく。これは日本が乗り越えなければならない社会課題でもあるわけです。
今回の記事はこの地方創生というテーマにスポーツを使って真正面から取り組む企業のお話です。主人公はジャパネットたかた。舞台は長崎。
地方ビジネスって儲からないじゃん。スポーツを使って地方活性化なんてできんの?そう思われた方には必見の内容でございます。
なお、今回の記事は度重なるイノシシの出没に住民が困惑しつつあるスーパーど田舎出身のサセがお送りいたします。
目次
1. ジャパネットの進める長崎スタジアムシティプロジェクト
現在、国内でもスポーツを使って地方創生を掲げ、スタジアム開発をしているところがいくつかあります。その1つとして注目されるのがジャパネットたかたが進めている長崎スタジアムシティプロジェクトです。
ジャパネットと言えば髙田社長のハイトーンボイス。そしてこれをお読みのみなさんの頭の中には “じゃ~ぱねっとじゃぱねっと、ふーうっ!ふーうっ!”が頭に鳴り響いているのではないでしょうか。
そんなジャパネットですが2015年に創業者の髙田明氏から、長男の髙田旭人氏へ事業継承がなされています。ジャパネットといえば通販事業がメインかと思いがちですが、実はもう1つの事業があります。それがスポーツ・地域創生事業です。ジャパネットのHPを見ると、この2つの事業が並列で並べられています。
このスポーツ・地域創生事業の1つが長崎スタジアムシティプロジェクトなのです。ジャパネットは2017年3月にJ2のV・ファーレン長崎を100%子会社化することを発表しました。当時、V・ファーレンは約1億2000万円の赤字に陥り、給与の遅配などの問題を抱えていました。(日本経済新聞 | J2長崎、ジャパネット子会社となり再建へ)
そこへもともと長崎県平戸市で創業されたジャパネットが手を差し伸べたというわけです。いつか九州に移住したいと妄想するほど、福岡や長崎が大好きなワタシは、このニュースを見て「ジャパネット最高やで!」と狂喜乱舞したのを覚えています。
このプロジェクトはV・ファーレンのスタジアムを長崎市内に建設するって計画です。またスタジアムだけでなくホテル、会議室、アリーナ、商業施設、マンションなんかも併設される予定です。↓の写真は完成予定のイメージ図ですが、かなり大規模な開発がなされる雰囲気バリバリです。
2. 長崎へのメリット:長崎県にはどんないいことがある?
っとここまで、ふーうっ!ふーうっ!なジャパネットが長崎に大規模なスタジアムを開発中、ってことがおわかりいただけたかと思います。
ではなぜジャパネットがこんな大規模な開発を進めることにしたのか。開発期間は2018年から2024年開業までの6年間。総事業費は700億円とされています。 (JAPANET HOLDINGS Co.,Ltd. | 長崎スタジアムシティプロジェクト) この事業費はジャパネットの自己資金と銀行からの借り入れでまかなわれます。彼らの2019年の売上は約2,100億円なので、彼らにとって決して小さくない投資となります。(JAPANET HOLDINGS Co.,Ltd. | 売上推移)
2代目社長の旭人氏は今回の開発の目的について、「ジャパネットを育ててもらった地元への恩返しのため」と答えています。(日経ビジネス | 連勝サッカーJ1長崎、ジャパネット流で再生)
では長崎にとってどんなメリットがあるのでしょうか?
2-1. 人口の社会減少抑制につながる!
長崎県が抱える問題として“人口の流出”があげられます。人口の増減には2つの要因があります。1つは自然増減。これは出生児数ー死亡者数、で決まります。もう1つは社会増減なるものです。これは自治体への転入者数ー転出者数、で計算されます。要は引っ越して移住してくる人と、「ワシ、この自治体、去る」と出ていってしまう人の引き算です。(総務省統計局 | 人口推計 2019年(令和元年)10月1日現在 概要)
そして長崎県は人口あたりの社会減少率が全国1位なんです。「長崎くんち」やら映画「ペコロスの母に会いに行く」のラストで幻想的に描かれた「ランタン祭り」。長崎に移住してこんなイベントに参加したいなぁ、なんて妄想してるワタシからしたら信じられません。でも、残念ながら引っ越しで出ていく人が多く、入ってくる人が少ない県。それが長崎県なのです。
こういった大規模なスタジアムは地元民にとっては遊ぶ&買い物する場所となりえます。その結果、住民満足度の向上が期待できます。加えて、国内外からの観光客誘引も期待できます。地元民や観光客が集まるので、そんな人達をもてなすための雇用が生まれます。つまり、スタジアムが遊ぶ&買い物する&働く、などの場所となり人々が長崎に留まる理由となるのです。
2-2. 長崎のポテンシャルを最大化する!
2つ目は長崎の眠っている潜在能力を最大化するってことです。
スポーツビジネスジャパン2019で登壇した髙田社長はこうおっしゃっています。
ジャパネットにはもともと、
①いいものを見つけてきて、②自分たちで磨いて、③それを伝える、
という我々が大事にしている3ステップがあります。ですから、長崎という魅力的な街のいいところを見つけて、自分たちで磨いて、それを伝えていく。
(SOCCERKING | スポーツ・地域創生をやる理由…“長崎スタジアムシティプロジェクト”に懸けるジャパネット髙田氏の思い)
他の大手の通販サイトは品数こそ多いですが、乱暴な言い方をすれば商品をオンラインに置いているだけなのです。一方、ジャパネットが扱う商品の品数は少ないものの、そこには徹底的な商品を絞り込み&磨き込みがあります。そしてそれを消費者にわかりやすく伝えていく。これこそがジャパネットの強みなのです。(日経ビジネス | ジャパネットHD 脱・感性の事業継承)
確かに長崎という街まだまだ活性化の余地の残された地な気もします。ジャパネットにとって“磨きがい”のある場所ってことですね。
(公財)日本交通公社は「観光資源台帳」なるものを公表しています。これは全国に存在する観光資源を調べ、ランクを付けています。観光資源のランクは特A級資源、A級資源、B(特別地域観光資源)に分類されています。特A級資源は、わが国を代表する資源であり、世界に誇示しうるもの。A級資源は特A級に準じ、わが国を代表する資源であり、日本人の誇り、日本のアイデンティティを示すもの。B(特別地域観光資源)はその都道府県や市町村を代表する資源であるもの。((公財)日本交通公社 | 観光資源台帳)
国を代表するレベルの特A級とA級資源に絞って集計してみると長崎には11の観光資源があります。もちろん金閣寺なんかがある京都には遠く及びませんが、47都道府県でみれば12位になります。
一方、延べ宿泊者数でみると、26位に沈み込んでいます。もちろん宿泊者数は地理的条件(首都圏に近いかなど)にも影響されますが、もう少し順位が上がってもいいような気もします。少なくとも同じ九州の鹿児島県や大分県には観光資源の数では勝っているので、宿泊者数でも上回る余地は残されているように感じます。
長崎にはまだまだ関東などで知られていない名所&名物がたくさんあります。東京ではなかなかお目にかかれないカステラのフクサヤキューブなんてその最たる例です。味よし&見た目よしで、誰にあげても喜ばれます。こういった長崎の伸びしろとも言える隠れた名所&名産のポテンシャルがジャパネットの磨き込み&発信力で最大限に引き出されたら。ジャパネットのノウハウが入ることで長崎の地域活性化は一気に加速する気がします。
3. ジャパネットへのビジネスメリット
3-1. 通販事業にはどんなメリットがある?
では、ジャパネットにとってはどんなビジネスメリットがあるのでしょうか。まずは既存事業である通販事業へのメリットについてです。
通販事業の市場は絶賛成長中です。(公社)日本通信販売協会によると、国内の通信販売市場の売上高は2010年で46,700億円でしたが、2019年時点では88,500億円、とのことです。((公社)日本通信販売協会 | 売上高調査(統計))
この10年で倍になってるということですね。そして、この市場には超大手の楽天やAmazonがいたり、各社が作ったECサイトなんかもいたりして競争がかなり激しい市場なのです。
みなさんご存知、今はデジタル化社会です。人々はスマホを片手にSNSに夢中になっています。このスマホとSNSによって、地理的・時間的な制約はほぼなく、人々はいつでも・どこでも、グローバルにつながれるようになりました。そして人々は購買などの判断基準に横(他の消費者)の情報を重視するようになりました。某グルメサイトの口コミ見てお店を決めるとか。
こんな時代では企業と消費者の関係も変わりつつあります。これまでの企業のマーケティングは、企業が消費者に向けて一方的に情報を流す、というスタイルでした。でも、今は違います。企業もこの消費者同士の横の関係に入り込むような存在であることが求められるようになりました。例えば“映え~”なサムシングを作って、SNSで企業のことを話題にしてもらうとかですね。
ただ、いくらデジタル時代だからといってオンラインだけを重視すればいいというわけではありません。オンライン時代だからこそ、オフラインでの消費者とのコミュニケーションが重要な顧客接点になるのです。企業はオンラインを使いつつも、オフラインコミュニケーションも交えて顧客との接点を増やしていく。こんなオンラインとオフラインを統合したマーケティング手法をマーケティング4.0なんていい方をします。
これまでジャパネットはラジオ、テレビ、カタログを通じて顧客とコミュニケーションをとってきました。いわば、オンラインを含む、“非”物理な接触だったわけです。でもこのスタジアムを作ることによって、お客さんとのオフラインでの接点を増やすことができます。また、この接点から得られる情報はオンラインとはユニークなデータです。そのため、顧客の間にジャパネットがより深く入り込むヒントを得る場所になりうるのです。
実際に彼らはジャパネットのお客さんを対象とした豪華クルーズ船ツアーなんかを始めています。これなんかも顧客と直接接点を持つことを1つの目的とした策なのかぁ、とも思ったりします。
ちなみにマーケティング4.0については、それまでの1.0、2.0、3.0も含めてこちらの記事で解説します。ぜひポチッと。
3-2. スタジアムシティプロジェクト単体ではどう?
ではスタジアムシティプロジェクト単体で見た場合はどうでしょうか。
要は、700億円の投資をかけたものの、儲かるのか?って話です。
投資リターン向上のメカニズム
では、もう少し具体的にどのようなメカニズムで地方での巨額設備投資に対する成功が成し遂げられるのか、について考えてみます。
冒頭でも少しふれましたが、このスタジアムは複合スタジアムとなる予定です。サッカースタジアムの他にバスケの試合やイベントを開催できるアリーナが作られます。その他には駐車場、ホテル、オフィス、商業施設、マンションなんかも併設されます。
要は“いつでも、誰でも”利用するスタジアムを目指しているってことです。これまで日本では競技・イベント使用のみを目的としたスタジアムが多かったのが現状です。サッカーの試合がある日はわんさか人がいるけど、試合やイベントのない日は閑古鳥が鳴いてる、なんてスタジアムも珍しくありませんでした。
しかし複合型にすることで平日にショッピングをする人がいる、会議室を使うビジネスマンがいる、ランチをする主婦がいる。こんな状態になるわけです。試合日には観戦者が早く来て、遅く帰るようになります。要はスタジアムに来る人の数と時間が増えることによって、多様な収益源が生まれ、投資利回りの向上に近づくというわけです。
複合型スタジアムの開発ステップと成功事例
ただ、このスタジアムの複合化というアイデア自体はそこまで新しいものでもありません。2011年に出されたUEFAのレポートではModern stadiums need to identify other means of generating revenue on a daily basis(現代のスタジアムは(試合がある日以外で)日銭を稼げるような手段を実装すべし)なんて言われています。(UEFA | UEFA GUIDE TO QUALITY STADIUMS)
2010年代初めには海外では普通に提唱されていたスタジアムの複合化。このスタイルはいまやスタジアム開発の世界的なトレンドになりつつあります。(Athletic Business | Mixed-Use Districts Become a Trend in Stadium Development)
でも、建物やらアクティビティを漫然と集積させればいいってものでもないのです。KPMGのスポーツアドバイザリーチームは「スポーツスタジアムを成功させるための計画」というレポートを出しています。 彼らのレポートを見ると、スタジアム開発はまず初めに「ビジョンの検討」からスタートします。
このレポートによるとビジョンとは、「スタジアム建設によって何を実現したいのか」になります。この何を実現したいのか、が決まると、それを実現するために何が必要なのか?いくらお金がかかるのか?の検討が始まります。そしてそれらが事業計画として取りまとめられ、それを実現するためのデザインや設計に落ちていくのです。(The STADIUM HUB | 「事業計画を実現するためのデザインや設計であって、その逆はありえない」~ファイサーブ・フォーラムGMが語る成功の秘訣)
“とりあえず著名な建築家にデザイン依頼してカッケェ建物作る。儲けはあとから考えればいいっしょ”。といった開発プロセスで検討し、失敗した事例が日本でも少なくない気がします。
ではここで、明確なビジョンを練り上げ、開発を成功させた事例を1つご紹介しておきます。
それはNBAミルウォーキー・バックスが本拠地とする“ファイサーヴ・フォーラム”という複合施設です。この施設は2019年のForbesが発表した最も成功したスタジアムTop9にも選ばれています。 (Forbes | Top 9 Stadium Innovations Of 2019 And What That Means For 2020)
ファイサーヴ・フォーラムは地理的条件も長崎スタジアムシティに近いものがあります。この施設はミシガン湖にほど近いところに建設されました。長崎スタジアムシティも長崎港に注ぐ浦上川のすぐ脇に建設中です。また近くに巨大都市があるという点でも似ています。ファイサーヴ・フォーラムのあるミルウォーキーは、約140キロ離れたところにシカゴがあります。長崎近くの巨大都市といえば福岡ですが、長崎-福岡もだいたい140キロです。
ではではファイサーヴ・フォーラムはどんなビジョンを作って、この開発を成功させたのでしょうか。
Forbesの記事で、ミルウォーキー・バックス社長のPeter Feiginさんはこんなふうに言ってます。
“How do we really build this with the objective of this
being a really healthy neighborhood?
近隣住民の健康的な生活を実現するためにはどうやってこの施設を開発すべきか?
(Forbes | Top 9 Stadium Innovations Of 2019 And What That Means For 2020)
要は近隣住民の健康的な生活の実現が1つの開発ビジョンってことのようです。ファイサーヴ・フォーラムにもショッピングエリア、居住施設等などが併設されています。これに加えて、大学や医療機関があり、トレーニングセンターも設置されています。これらの大学や医療機関は、地域住民に健康トレーニングプログラムを提供していたりするのです。(Tarzan | スタジアムと「街」の最新事情|世界スポーツ見聞録 vol.18)
ファイサーヴ・フォーラムはWisconcin Center Districtという行政機関が所有し、ミルウォーキー・バックスが経営しています。このミルウォーキー・バックスの売上・営業利益(EBITDA)をみてみると2019から2020年にかけて急激に増えています。この爆増には2018年8月に開業したファイサーヴ・フォーラムが一定貢献しているのではないかと考えられます。
ファイサーヴ・フォーラムの場合は近くにはMarquette大学があったりと、“健康”をテーマに開発する土壌が整っていました。“来る人や住民にどんな価値を提供するのか” これはそれぞれの街の歴史、既にある施設、地理的条件などを加味して決められるモノです。長崎の場合も何が強みで、何に伸びしろがあるのか。そんなことが検討されながら開発は進められているのだと思います。
KPMGによれば、ビジョンが策定されたあとは実現可能性の調査、に入っていきます。例えばホテル需要予測なんかがなされます。これは、どんな人が、何人泊まりに来るのか。何部屋作るのがホテルの稼働率&収益を最大化するのか。こんなことが検討されだします。長崎スタジアムシティでは世界で不動産アドバイザリーサービスを展開するJLLさんが体制に入っています。(JAPANET HOLDINGS Co.,Ltd. | 長崎スタジアムシティプロジェクト) このへんの予測なんかはおそらくJLLさんを中心になされていると思われます。
4. テクノロジー&データを活用したオープンイノベーション
最後に少しだけ、こんなんあったら面白いかも、と思うようなアイデアをご紹介しておきます。
長崎スタジアムシティはジャパネット主導で開発されます。要は民間で行われるものってことです。冒頭にも言いましたが、700億円の全事業費はジャパネットの自己資金と銀行借入でまかないます。グループ会社でスポーツ・地域創生事業を担う(株)リージョナルクリエーション長崎が戦略・企画、現場の運用まで担当します。
これまで日本では行政が作った施設を指定管理者制度などを通じて、民間に運営委託するケースが目立ちました。ただ、これだと、公的施設である性質上あれこれ制約が多く、民間がやりたいように運営できないって場合が多かったのです。結果、なかなかスタジアムの収益性が上がらないってことになりがちです。
ただ長崎スタジアムシティはジャパネットの民設民営です。というわけでジャパネットの思うように設備投資ができます。
そこでテクノロジーをうまく導入・活用できるとさらにスタジアムの価値が上がるかなぁと思ったりします。このへんはもちろん長崎スタジアムシティプロジェクトでも既に検討が進められているようです。
日経新聞のインタビューで髙田社長も「アリーナは年間200~250日稼働させ、30試合あるバスケットのアウェー試合では2千人が食事をしながらライブ映像を楽しめるようにするなど、生観戦に依存せずマネタイズしたい。ライブビューイングやAR(拡張現実)など、最新技術をどんどん取り入れられるのが(民設民営の)強みだ」とおっしゃっています。
それとキャッシュレスも推進しているようです。長崎スタジアムシティの2024年開業を見据え、長崎キャッシュレスプロジェクトなるものが始動されています。これはキャッシュレス化がまだまだ進んでいない長崎で、長崎スタジアムシティが率先してキャッシュレスを導入することで、キャッシュレス比率を高めるという意義があります。またキャッシュレスが進んでいる海外からのお客さんの利便性向上ってのもメリットとしてあげられるかと思います。
ではではスタジアムにテクノロジーを導入するメリットってなんでしょうか?
まずその1つが観客の観戦体験を上げることができるってことです。お客さんの観戦体験を上げる要素は“利便性を上げること(負を減らす)”と“感動体験を作ること(正を増やす)”に大別されます。キャッシュレスは飲食店に並ぶお客さんの待ち時間を減らすなど、利便性を高めるテクノロジーです。コロナ禍によって求められる非接触って意味でも利便性向上のためのテクノロジーです。ライブビューイングやAR(拡張現実)なんかはお客さんの興奮とか感動を誘発します。その結果、前述のマーケティング4.0の効果や、消費単価・再訪率の増加などのメリットが考えられます。
それともう1つテクノロジーを使うことでデータを取得できるってことです。顧客の購買&移動データなんかはテクノロジーによっては取得することができます。それを分析し、講じた施策に対してPDCAを回し、改善がはかれます。
そして、データ自体が新たなビジネスを作るタネとなります。これについて具体例をもって簡単に説明しておきます。2015年、MLBの超人気チームドジャースはDodgers Acceleratorなるものを立ち上げました。アクセラレータープログラムってのは、ベンチャー企業が成長拡大に向けた大規模資金調達にたどり着くまでを支援することを目的としたプログラムです。
ドジャースはDodgers Acceleratorを通じて、スポーツ・エンタメ分野のベンチャー企業を募集しました。その中から提案内容が優れていた10社を選びました。そしてドジャースは彼らにあらゆるものを提供します。その1つが“データ”です。例えば彼らはベンチャー企業にスタジアムにおける飲食販売のPOS(Point Of Sales)データを開示しました。(出典:DIAMOND online | 米ドジャースが球団の全データを「投資対象」として開示する理由) これは購入された商品・時間・店舗・点数・値段などがリアルタイムに集積されたデータです。
スポーツチームが分析や新たなサービスを開発しないのであれば、POSデータ自体になんの価値もありません。しかし、サービスアイデアと技術力のあるベンチャー企業にとっては宝の山だったりします。
ジャパネットはV・ファーレンというチーム、スタジアムシティという複合施設を持っています。チームもスタジアムも所有・運営している数少ない存在です。選手のパフォーマンスや成績に関するデータ、スタジアムや附帯施設に蓄積される観客の行動や購入データ。テクノロジーを使ってこんな連続性を持ったユニークなデータを取得しまくり、場合によっては外部に開示して協業を模索していく。そしてイノベーションを創り出す協業の場としてスタジアムの会議室をラボにする。そんなことができたら長崎スタジアムシティは唯一無二の価値を生み出す、面白い場所になるかもなぁ、と妄想する次第です。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか。ジャパネットは700億円というリスクを取り、長崎の経済活性化と自らの成長をかけたプロジェクトを推進しています。
日本では地方ビジネスは“儲からない”ってよく聞きます。だから民間が参入することは少なく、行政主導でした。要は民間が参入するには“合理的”ではないんです。
しかし、髙田社長は堀江貴文氏との対談の中で、こんなことをおっしゃっています。
合理的ではないけど正しいだろうと思うことを愚直にやるのが
父の代からのジャパネット流
(Youtube | 【堀江貴文】テレビ通販はオワコンか? ジャパネットたかた社長が登場)
地方創生は民間でやるにはまだまだ合理的ではないのかもしれません。しかしスポーツを軸にする。スタジアムを複合化する。そんなアイデアを使って成功している事例が海外では生まれつつあります。
「地域創生を民間がやることは合理的だよ。ジャパネトがスポーツを使って成功したじゃん」。長崎スタジアムシティが、国内におけるスタジアム開発の1つの道筋になり、人々がこんなことを言うようになる日が来ることを切に願います。是非、“地方創生”&“儲け”の2つを成し遂げる、日本発の複合型スタジアム開発の光となってほしいと思います。
もし“海外でこんな課題をスタジアム開発で解決した事例ないの?”みたいなお悩みがあれば是非ご相談いただければと思います。
こんな事例を日々、集めてたりするのでもしかしたらお力になれるかもしれません。 ワタシが長崎に移住し、多くの人が行き交うスタジアムシティの売店で売り子のバイトなんかができる未来を妄想しつつ、この記事を終わります。