いつだったか、あるお客さんが子犬のような眼差しでこうおっしゃいました。「スポーツスポンサーの話が上層部から降りてきたんですけど、何をどう進めればいいんですかね?」

聞けば、社長が決めてきたスポンサーシップ案件をどのように実のあるものにしていくのか考えろ、と命じられたそうです。急に降ってきた案件に担当者はうろたえていらっしゃいました。

企業内で新規スポーツスポンサーシップ案件の検討を開始するパターンは2つあります。1つは、社長や役員が決めてきて、担当者に任せるトップダウン型。もう1つは現場レベルでスポーツチーム・団体と話が進むボトムアップ型。

今回は“上司が振って、担当者が検討する”トップダウン型に絞って、スポーツスポンサーシップ領域で得てきた知見、経営コンサルタントとして長年数々のアクションプランを作成してきた経験から、「何を、どう進めるべきなのか」について考えてみたいと思います。

1. スポンサー開始までの流れ

まずはトップダウンできまったスポーツスポンサーシップの大まかな流れを説明しておきます。トップダウン型は、当然ながら社長や役員がそのスポーツチーム・団体のトップと話し合って決まります。その決定を受け、担当者レベルでアクティベーション施策やその効果について検討がなされます。

トップダウンでのスポンサーシップ契約の流れ
トップダウンでのスポンサーシップ契約の流れ

実際、日本ではこのトップダウン型でスポンサーシップが決まるケースはかなり多いです。(ここからは小声で)ただ、ぶっちゃけて言うとあまり好ましいスタイルとは言えません。スポーツスポンサーシップは経営課題に対する一施策でしかありません。経営上、“~をしたい”とか“~をすべき”という課題があり、それに対する打ち手であるのです。だから課題が先にあって、いくつかの施策オプションを検討した結果、スポンサーシップにたどり着く、というのが自然な流れです。スポーツスポンサーシップは経営課題に対する施策を、スポーツチームを使って実行する。その対価としてスポンサーフィーを払う。この流れ&等価交換が本来のあるべき姿です。

スポンサー企業とスポーツ団体の関係図
スポンサー企業とスポーツ団体の関係図

もちろん、役員層が経営課題を隅々まで理解し、それへの最適解としてスポンサーシップを選択したのであれば問題ありません。ただ、スポーツチームにお願いされたから、昔からの縁だから、でスポンサーを決めてしまうと経営課題からかけ離れてしまう可能性があります。

しかし、上から降ってきたものは仕方がない。というわけで、“神々の取り決め”である①スポンサー話が発生する、は所与の条件とし、②検討する、③承認される、にフォーカスを当てて書いていきます。

2. ②検討する、における4つの検討ステップ

スポンサー話をいきなり上位者から振られてしまったアナタ。そんなアナタにスポーツチームとビジネスとしてのwin-winな関係を築くために、先ず「何を、どう進めるべきなのか」を説明していこうと思います。

結論としては以下4つについて調査・検討することがアクションプランになります。

1. 私(自社は)は、2. 彼ら(スポーツチーム・団体)と、3. 何ができるのか。

そして4. その結果はどうなりそうなのか?

「1.私は」、は自社の課題について。「2.彼らと」、はスポーツチーム・団体の特徴について。「3.何ができるのか」、はスポーツチーム・団体にスポンサーし、どんな企画ができるのか。最期の「4.その結果どうなりそうなのか?」、はその企画を実施した結果、自社にどんなリターンがあるのか。

スポンサーシップ検討の流れ
スポンサーシップ検討の流れ

それでは順を追って説明していきます。

2-1. 私は(自社は)、の検討

このパートは自社を知ることが目的です。上で述べたようにスポーツスポンサーシップは経営課題に対する一施策です。まずは経営課題ありき、ということです。なので、ここでは自社の課題や向かっている方向について知るための作業をしていきます。企業が大きくなればなるほど、一部門の一担当者が会社全体の課題を知ることは難しくなります。私も大企業にいた時、社長の名前を7年間、間違って覚えていました。サトシをアキラって…。これと同じように、担当者が全社や他部門の課題を知ることはなかなか難しかったりします。

加えて、自社独自の強みについても整理しておきましょう。思いを巡らすと色々あるハズです。歴史がある、ブランド認知度が高い、といった抽象的なもの。商品開発力、資材調達力が高い、といった実務レベルのもの。

こんな自社の強み・課題について、全社会議などで説明を受けた記憶はあるけどあんまり覚えていないアナタ。そんなアナタに参照してほしいのが、「中期経営計画(中計)」や「アニュアルレポート」です。特に中計は自社の現状とありたい姿を明らかにし、3~5年後のありたい姿になるために会社を上げて取り組むべき課題や強みについてまとめています。中計は社長をはじめ、全役員が承認して公表されたものです。会社がどの方向に向かい、何を強み・課題としているのか。それを社内、社外に宣言したものとなります。この中で取り上げられている強み・課題をピックアップする。そして、その強みを利用しながら、スポーツスポンサーシップで課題を解決する、とすれば役員会等でも通りやすくなります。

現状とありたい姿のギャップが課題
現状とありたい姿のギャップが課題

中計で書かれる全社的な強み・課題は時として抽象度が高く、施策レベルに落とすのが難しかったりします。その場合は、同期入社や仲良しこよし社員とのネットワークなどを活用して、情報を吸い上げることです。これらの情報も踏まえると、より具体的で現場感のある課題と紐づけて説明がしやすくなりますし、実行の段階でも現場に受け入れられやすくなります。

2-2. 彼らと(スポーツチーム・団体と)、の検討

次に彼ら≒スポーツチーム・団体、について調べ上げます。相手を知るパートです。まずはそのチームの基礎的な情報を集めます。例えば創立時期、本拠地など。基礎情報に加え、強みやプラス面をピックアップしますが、基礎情報を丁寧に調べておくと、「あれ?これってこのチームの強みじゃね?」みたいなものが見つかります。

強みやプラス面については、内部/外部環境に分けて記載しておきます。ここで列挙される情報は、「自社の課題解決に利用できるチームの強み」です。そのチームはどんな価値や強みを持っているのか。そしてそれを利用して自社課題を解決するために何ができるのか、を着想する起点になります。なので「彼らはどんな強みがあるんだろうなぁ~」とワクワク感を持ってリサーチしてみてください。ここで集めた情報が、次の「3. 何ができるのか」の検討に役立ちます。

スポーツ団体の特徴観点
スポーツ団体の特徴観点

2-3. 何ができるのか、の検討

ここまで自社を知り、スポーツチーム・団体を知ってきました。ではそんな自社とスポーツチーム・団体は何ができるのか、を検討するステップに入っていきます。要はスポーツチーム・団体の利用方法について調べていきます。もちろんGoogleのオープン検索で、「スポーツスポンサーシップ + 優良事例」とか「スポーツスポンサーシップ + 自社の業種」などで検索するのもアリです。

また、「2. 彼らと(スポーツチーム・団体と)」のステップで出てきたチームの特徴も踏まえて検索してみるのも有効です。例えば観光地にあるスポーツチームという特徴であれば、「観光 + 自社の業種 +スポーツスポンサーシップ」で検索してみる。女性ファンが多いチームという特徴があれば、「女性 + 施策 + スポーツスポンサーシップ」で検索するなど。

はたまた、チームと企画の交渉をしている中で、チーム側がなかなか受け入れてくれないなんてこともあるかと思います。そういうときはスポーツチームの課題にも着目するのもナイスです。例えば、そのチームが入場者数減少という課題を持っている場合。「スポーツ + 入場者増加 + 取組」などで検索し、アクティベーション企画のヒントを見つけるのもアリかと思います。

アクティベーション企画検討にあたっての調査方法
アクティベーション企画検討にあたっての調査方法

スポンサー事例を取りまとめたサイトもあります。Sports Sponsorship Journal (出典:flag | Sports Sponsorship Journal ) などは、海外事例が豊富なアクティベーションサイトです。うちのSPOVA(スポバ)も頑張って記事を上げていますので、ぜひ参考にしていただけるとこれ幸いです。

じゃあどうやって検索した事例を整理すればいいのか。「1. 私は(自社は)」の自社理解のステップで、課題を絞り込めている場合は、それに絞って事例を検索するのがいいでしょう。多数の課題が抽出されていて、どの課題に絞るべきか決まっていない場合は、一旦気になる事例をピックアップし、目的別に類型化しておくといいです。企業がスポーツチームにスポンサーする目的はざっくり4つに分類できます。「R&D、商品企画」、「マーケティング・広報」、「販促」、「人事」の4つです。この4つのバリューチェーン上のどこかを改善するために企業はスポーツスポンサーシップを行います。

スポンサーシップの目的類型化
スポンサーシップの目的類型化

このスポンサーする目的ごとに気になる事例をピックアップして、事例集にします。下はイメージですが、実際にはエクセルでまとめるのがいいですかね。もちろんある程度、課題が絞れていれば、事例としてピックアップする必要もありません。例えば「ウチがスポーツ使うなら、販促か採用やで」なら、製品・サービスを作る&広めるについては事例を集めなくてOKです。

アクティベーション施策事例整理
アクティベーション施策事例整理

事例が集まったらどうするか。その中からキラリと光る事例を選定して、企画としてまとめていきます。では“どんな軸で評価し、選定”したらいいでしょうか。

下の図はあくまで簡易的なものですが、イメージとして捉えてもらえればと思います。繰り返しになりますが、“課題ありき”です。なので自社の課題解決にどれだけ貢献するか、を課題とのマッチ度で評価しましょう。あとは「2-1. 私は(自社は)」で抽出した自社の強みとのマッチ度も評価指標になります。期待できる効果でも評価しましょう。サービスを広めるためであれば露出効果、売上をあげたいのであれば、売上効果ですね。次に、実行の難易度も評価軸に入れたいところです。企画としてはすばらしい。でも他社との協業や社内調整がかかるなどは難易度:高に設定します。

このようにいくつかの軸で事例を評価し、自社のスポンサーシップの企画として採用するものを絞っていきます。

アクティベーション施策事例評価
アクティベーション施策事例評価

パクりたい模倣したい事例が決まったら、モデル図にまとめておきましょう。ポイントは「誰が」、「何をして」、「どんなコスト・人的リソースを割き」、「どんなリターンを得るのか」を表現しておきます。モデル図にしておくと、やりたい企画の概観が“鳥の目”で理解できます。すると、検証ポイントはどこか、何を手配しておかなければいけないのか、加えたほうが良い要素・企画は何か、などのブレストにも使えます。

アクティベーション施策のモデル図
アクティベーション施策のモデル図

2-4. その結果どうなりそうなのか? 、の検討

最期に事業計画として取りまとめます。この事業計画は最期の③承認されるにおいて、上申される資料の中心となるものです。事業計画はヌケモレを最小化するために、5W2Hを骨子にまとめることをおすすめします。

提案書の骨格
提案書の骨格

以上の5W1Hを事業計画にまとめるとざっと以下のようになるでしょうか。企画の概要では誰が、誰と、どこで、いつ、何をするのかを簡潔に説明します。企画の意義では自社の抱えるどの課題解決のための企画なのかを記述します。

そして、おそらくほとんどの人が気になるのが、お金の話です。要は「なんぼ儲かるんじゃい!」です。それについてはいくらの経費がかかって、どのくらいの期間で回収できそうなのかを、収支計画として提示します。

提案書の内容
提案書の内容

経費、売上に分け、いくつかの気をつけたほうがいいポイントに絞ってお伝えします。まず経費について、実際には当初の予定よりも多くかかるケースが多いです。なので、余裕を持って積んでおいたほうがいいです。企画実施後に「こんな権利も追加でほしい」とか「ロゴを追加でここに露出させたい」などのアイデアが出てきます。するとその分、追加のスポンサーフィーが発生する可能性があります。

また、その取得した権利の活用(アクティベーション)経費が思ったより多くかかったという話はよく聞きます。一般的に、スポンサー金額の2-4倍のアクティベーション費用をかけないと十分な効果が出せないと言われてたりします。これはスポーツスポンサーをしたことがある人なら知っている事実かもしれません。

例えばある選手に1,000万円のスポンサー金を出すことにしたとします。それによってスポンサー企業は選手の広告出演の権利を得たとします。その選手に出演してもらってテレビCMを作る、イベントを開催するといったアクティベーション活動の訴求力を十分なレベルで担保するためには、2,000~4,000万円の費用が伴うということです。ですので、その一般的相場感を頭の片隅に置いた上で費用を見込んでおくと、「やべっ経費足らんぞ…」となるリスクを減らせると思います。

少し話はそれますが、日本の企業はグローバル企業と比べるとこのアクティベーション費が少ない傾向があるようです。スポンサー金1円に対し、日本企業がかけるアクティベーション費は0.4円です。対するグローバル企業の平均はというと、2.2円です。世界的にみると、しっかりと1:2~4、の法則が守られているようです。(出典:IEG 2017 Sponsorship Decision-Makers Survey |Respondents said they will spend an average of $2.20 on activating sponsorships for every $1 spent on rights fees)

アクティベーション費用の国内外比較
アクティベーション費用の国内外比較

売上については、「確実に見込める売上」、「ある程度の確度で見込める潜在売上」、「即時性はない、将来的な潜在売上」の3つに分類して、試算しておくのがいいでしょう。

1つ目の確実に見込める売上は、例えばギブアウェイと言われる観客に無料配布するスポンサーグッズです。これはスポンサー企業がつくって、スポーツチーム・団体が買い取ってくれたりします。つまり、チーム→スポンサー企業に確実にお金が支払われる売上です。

2つ目のある程度の確度で見込める潜在売上は、試合会場で販促イベントをした場合の売上がそれに当たります。例えば9千人の観客がいて、過去の販促イベントの実績から3人に1人は買ってくれるだろうという前提のもとはじかれる売上です。

3つ目の即時性はない将来的な潜在売上は、例えばスタジアムで広告露出することによって、潜在意識に訴求し、将来的に買ってくれる人が増えるだろうという前提のもとではじかれる売上です。

事業計画における売上の構成
事業計画における売上の構成

おそらく3つ目を高い精度で試算することは激むずなので、確実に見込める売上&ある程度の確度で見込める潜在売上、で収支トントン以上になるよう計画するのがよろしいかと思います。

3. おわりに

今回は神々の取り決めから、トップダウンでスポンサー話が始まり、それを検討していくステップを紹介しました。繰り返しになりますが、まずは経営課題がある。スポンサーシップはそれを解決するための施策なのです。たとえトップダウンで降ってきた話であったとしても、課題に紐づく企画である必要がおわかりいただければ幸いでございます。

日本ではこのトップダウンが多いのはお伝えしたとおりです。ただボトムアップでスポンサー話が発生するケースもあります。例えば、地域のチームが企業の支店にスポンサー話を持っていくなんてのはその最たる例です。この場合はすべてが現場からスタートします。次はこのボトムアップの進め方について説明していきたいと思います。 なお弊社Eraではスポンサー先の選定、経営課題とのマッチング、効果の算出など、「スポンサー活動にまつわるエトセトラ」についてのご相談を随時承り中でございます。お気軽にお問い合わせいただければと思います。