1. 前回のおさらい

前回の記事ではデジタルマーケティングとはなにか?スポーツマーケティングとはなにか?誰との対話に活用されるのか?について書いてみました。

※前回の記事は以下です

後編ではデジタルマーケティングとスポーツマーケティングでは対話する相手にどのような効果をもたらすのか、について話していきたいと思います。

それではまいります!

2. デジタルマーケティングとスポーツマーケティングを具体例で比べてみた

「消費者にどんな効果があるのか」で比べてみた①
Heinekenの事例

くどいようですが、デジタルマーケティングは情報を分析し、対話したい消費者をターゲティングします。そしてターゲティングした人がすぐに行動に移したくなるような情報を発信します。

例えばZOZOTOWNアプリのプッシュ通知。お気に入りの登録履歴から、値下げ情報などをスマホ上に配信します。お気に入りに登録してるということは、その消費者は商品を買う見込みがあるということです。何らかの理由で購入をためらっていますが、あとひと押しさえあればすぐに買ってくれる可能性が高い。つまり行動までの距離がすごく近い消費者です。

プッシュ通知などはこういった消費者に対して、あとひと押しの情報を配信して、購入という行動に移らせる効果があります。

プッシュ通知などのデジタルマーケティング施策がオンライン上の情報で行動を促すのに対し、協業系のスポーツマーケティング施策はオンラインでの行動誘発に限りません。例えば、プロモーション権を活用し、試合会場周辺にブースなどを設置し、観戦に訪れた人に直接売り込みをかける。これなどは直接対話によって購入・加入という行動に導くのです。

さらに強い誘導性を発揮する協業系のスポーツマーケティング事例もあります。例えばスタジアム内での独占販売権の活用。記憶に新しい2019年のラグビーワールドカップ。メインスポンサーにはオランダのビールメーカーであるHeinekenが名を連ねていました。Heinekenはスポンサーする代わりにスタジアム内のビールの独占販売権を獲得しました。結果として、観客はビールを飲みたければHeinekenを購入するという行動に半ば強制的に誘導されたのです。これによりHeinekenはW杯開催期間の9~10月の2カ月間で対前年282%の大幅増を記録しています。(出典:nippon.com |「ラグビーファンはやっぱりビール好き : 9~10月のハイネケンは282%」)

「消費者にどんな効果があるのか」で比較してみた②
ピンゴルフジャパンの事例

みなさんには憧れの人っていますか?もしいるとして、その憧れの人が使っている製品やサービスについてどういった印象を持ってますか?おそらく「あの人が使ってるなら間違いない」って思うのではないでしょうか。

心理学用語では“同一視”なんて言われ方もしますが、憧れや尊敬している人が購入したものなら良いものに違いないと思う心理は誰にでもあると思います。私も大学時代は当時サッカー界のファッションリーダーと言われた中田英寿選手が持っているグッズを集めたものです(中田モデルのサングラスを買ってつけたら「トンボみてーだな」と友だちに言われたのはいい思い出です)。この「憧れ」とか「権威」を使って、人々に「欲しいな」って思わせる効果もあります。

デジタルマーケティングで言えば、SNSを通じたインフルエンサーマーケティング。絶大なフォロワーを持つインフルエンサーに自社の製品・サービスをSNS上で取り上げてもらう。これなんかは人々が持つインフルエンサーへの憧れとか権威を利用して、人々の「欲しいな」を引き出します。

同じようなことがスポーツマーケティングでもあります。

スマイリングシンデレラで有名な女子プロゴルファーの渋野日向子選手。2019年AIG全英女子オープンでの優勝、そしてその時のしぶこスマイルはみなさんの記憶にも新しいと思います。私も仕事に疲れたら「渋野日向子 笑顔」で画像検索して癒やされている1人です。

ゴルフメーカーのピンゴルフジャパンはそんな渋野選手と用具提供契約を結んでいます。報道によると、AIG全英女子オープンでの優勝したことをきっかけに、2020年の1~12月でクラブ売上は前年比160%に増加したとのことです。加えて、ウェアの提供契約を結んでいるBEAMS GOLFも渋野選手着用モデルが売り切れるなど、渋野効果は大きかったようです。(出典:東洋経済ONLINE |「渋野日向子がゴルフ界に与えた絶大な経済効果」)

このようにスポーツマーケティングにおいても、人々の憧れを利用して人に行動を起こさせる効果があります。

(出典:GDO |「フォトギャラリー」)

権威や憧れによる効果と似ていますが、スポーツマーケティングでより色濃く出る効果があります。それは応援している主体間で醸成される「同志感覚」です。当然ながらスポーツとは対戦相手や記録に挑む活動です。観戦者はそんなアスリートの挑戦する姿を、泣いたり、笑ったりしながら応援するのです。この挑戦する人を応援するという行為は人々の間に熱狂や興奮を生み、強い連帯感を発生させます。

例えばサッカー日本代表がW杯で試合をしたとき。渋谷のスポーツカフェでは多くの若者が「オ~ニッポ~」と叫びます。そして日本代表が勝つと、スクランブル交差点は熱狂の渦に包まれます。みなさんも、見ず知らずの人たちが「大迫半端ないって!」といいながらハイタッチを交わす様子を見たことがあると思います。

国際的に日本人は内向的で、人見知り度が強いと言われます。そんな日本人が見ず知らずの人とアメリカンなハイタッチを交わすなどスポーツ以外ではなかなかありえません。このようにスポーツはともに応援した主体に対して同志感覚を抱かせるパワーがあります。

サッカー日本代表にふれたので、そのスポンサーであるKIRINの事例についてお話します。KIRINは現在、日本代表のオフィシャルパートナーですが、その歴史は1978年までさかのぼります。

みなさんは1970年代の日本サッカーがどのような状況だったかご存知でしょうか?当時の日本サッカーは「冬の時代」とか「暗黒時代」と形容されます。Jリーグの基礎となったJSL(Japan Soccer League)の1977年の平均観客動員数は1,773人。試合会場の1つとなっていた国立競技場の収容人数が約5万人だったので、約3%の観客席しか埋まっていない計算になります。試合によっては500人という日もありました。(出典:サッカーマガジンWeb |「史上最高の得点力を誇った77年のフジタ工業【連載◎J前夜を歩く第16回】」

1970年代のJSLの試合の様子
(出典:サッカーマガジンWeb |「史上最高の得点力を誇った77年のフジタ工業【連載◎J前夜を歩く第16回】」

私は日本代表の熱狂的なファンです。忘れもしない2006年ドイツW杯。日本代表は予選敗退。ブラジル戦のあと、大好きな中田選手がセンターサークル付近で横たわる姿を見た次の日は、ショックで大学院を休みました。

そんな私からすると冬の時代から日本代表を支えてくれているKIRINには感謝しかなく、必ず1日1つはKIRINの商品を購入します。いま、この記事を書いているのは午前ですが、私の机の上には“午後の紅茶”が置かれています。日本代表を愛しているからこそ、それを応援してくれるKIRINには勝手に同志感覚を抱き、商品の購入に至るのです。

そしてこの効果は数字にも表れています。KIRINは、年齢もスポーツ好きかどうかも関係ない層に「キリンがサッカー日本代表のスポンサーであることを知っているか」と調査をしたそうです。結果、4割の人が「知っている」と回答したそうです。また、サッカーファンとそうでない人へキリンの好意度を聞いたときも、前者のほうが高い好意度を持っていることが明らかになったそうです。(出典:毎日新聞 |「キリンとサッカー日本代表、40年の絆。「支援」ではなく「応援」だ!」

スポンサーは資金提供、用具提供等という形で応援する主体です。ファンはそんなスポンサー企業に、このような“同志”感覚を抱きます。この感覚を抱いたファンは、スポンサー企業の製品・サービスを購入・加入の選択肢の上位にあげてくれます。

特にチームのコアなファンの中にはチームの懐事情にも詳しい人も一定数存在し、「自分たちがスポンサーの商品を買う⇒スポンサーの商品売上が伸びる⇒スポンサーがスポンサー契約を継続する」というサイクルを知っています。こういうコアファンは「チームの経営のために」という理由で購入・加入に至ることが想定されます。

3. おわりに

今回の記事ではデジタルマーケティングとスポーツマーケティングを比べてみました。中にはデジタルマーケティングとスポーツマーケティング、どっちがええの?とか悩んでいる方もいらっしゃるかと思います。

ただ、これはどちらが優れているという問題ではありません。両者の特徴を理解し、自社のビジョン、戦略、売り出したい商品・サービスなどを考慮しながら選択、もしくはミックスしていくものだと思います。

この記事がみなさんのデジタルマーケティング、スポーツマーケティングに対する理解を深め、意思決定の一助になれば幸甚でございます。