目次
1. 前回のおさらい
前回の記事ではまずテレビCMのおかれている現状について簡単に触れました。それからテレビCMとスポーツマーケティングの違いを誰に、どのように(①変容性、②ストーリー性、③ナチュラル感)という4つの視点で比較してみました。
※前回の記事は以下からお読み頂けます
今回の記事ではこの4つの視点に着目してスポーツマーケティング事例をご紹介していきたいと思います。
それではまいります!
2. スポーツマーケティングの特徴を上手く活用した事例
i. 「誰に」、に着目した事例
実はこの仕事をしていると、「その製品売ってるのにこのチームにスポンサーすんの?取り込みたい顧客像とファンの属性、全く違うやん…」と思ってしまうようなスポーツマーケティング事例がけっこう散見されます。
もちろん寄付という名目でスポンサーしているなら問題ないのですが、スポーツチームの抱えるファン層をしっかり見定めないと、ビジネスとしての価値が全く生まれないスポーツマーケティングになってしまいます。
スポーツマーケティングをするならば、ファンの属性を見極め、それを取り込むために最適なアプローチ策を考えることが超重要なんです。
さもなくば単なるスポンサフィー垂れ流し状態になり、社内から「なんのためにスポンサーしてんの?それなら給料上げてよね」という愚痴が給湯室から聞こえてくるようになります。
というわけで、ここではスポーツチームが抱えるファン層をちゃんと把握し、リーチすることで、自社のサービスの購入・加入につなげた事例を紹介します。
米国の保険会社であるState Farm Insuranceは2008年から2012年のMLBオールスターゲームのホームラン競争の命名権を取得しました。ホームラン競争に併せて、オンライン版ホームラン競争ゲームを約10週に渡って開催し、参加者に競わせました。
参加者はゲームを開始する時に、「既に保険に加入しているか」、「保険見直しのために代理店からの連絡を希望するか」という質問に答えさせられます。これによって同社は保険の見込み客を取り込もうとしたのです。(Sports Sponsorship Journal|「第7回SSJセミナー『米国スポンサーシップ最前線』レポート」)
保険や銀行口座というのは若い頃に一度契約すると他社に乗り換えることは稀です。20代前半に入った保険を見直すことなく、月々の保険料を払い続けている人も多いのではないでしょうか。私もその1人です、はい。
State Farm InsuranceはMLBの若年層の人気の高さに着目し、オンラインゲームで接点を作り早期にリーチすることで、顧客化を図ったのです。
ii. 「どのように」(①変容性)に着目した事例
これについては前段の説明でなんとなくどんなものか想像つくと思います。
国内旅行会社最大手のJTBは2015年よりソフトボール日本代表のダイヤモンドパートナーとなり、スポーツマーケティングを行っています。
これによってJTBはWEB広告、呼称・肖像権活用プロモーション、ウェア広告へのロゴ掲載、選手との対談イベント、応援ツアーなどあの手この手で露出を確保し、本業の旅行業に跳ね返らせようとしています。
15秒動画だけでなく、手と品を変えたスポーツマーケティングの形と言えるかと思います。
せっかく双方向性についても触れましたので、それに関する事例を紹介しておきましょう。
上に触れたState Farm Insuranceの事例もアプリを使ったファンとの双方向性を実現していますが、加えてもう1つ。
ペプシコーラで知られるPepsiCo傘下のStokely Van CampはNFLと長期に渡りスポンサー契約を結んでいます。NFLではStokely Van Campのゲーターレードがオフィシャルドリンクになっており、優勝した際にゲーターレードをヘッドコーチの頭にタンクごとかける「ゲータレードシャワー」(Gatorade Shower)が行われます。
Stokely Van Campはこの伝統儀式に着目しました。同社はSnapchatを使って、一般ユーザーがゲータレードシャワーを自分がされているかのような動画を作って友達とシェアできるような企画を立ち上げました。
ちなみに、Snapchatとは、登録した個人やグループに向けて画像などを投稿するSNSアプリで、豊富なARステッカーやスタンプが用意されています。アメリカではインスタグラムを抜いて、10代が選ぶSNS第1位になるほどの人気アプリです。
同社はNFLにスポンサーし、オフィシャルドリンクに採用されるという権利を得ました。テレビ中継などでゲータレードの名前が露出されればOK、と考えてしまえばそこで終わりです。同社はもう1歩踏み込みます。
彼らは、「NFLへスポンサー → オフィシャルドリンクとなる → ゲータレードシャワーが行われる → アプリでゲータレードの露出(ゲータレードシャワー)を変容・拡散」まで行き着いています。
結果的に、この企画はSnapchat上で800万人が参加し、ファンとの双方向のコミュニケーションをはかることができています。
マーケティングは究極的に言えば「市場(顧客)との対話」です。
企業「これどう?」→顧客「いいね! or あかんわそれ」という対話を通じて、企業はその活動をブラッシュアップしていくべきなのです。スポーツマーケティングでは、テレビCMとは違い、SNSを通じて「これどう?」に対する市場の声を聞くことができると言えそうです。
iii. 「どのように」(②ストーリー性)に着目した事例
ここでは、車いすラグビーのスポーツマーケティングについて紹介したいと思います。みなさんは車いすラグビーをご存知でしょうか。
車いすラグビーは、文字通りパラスポーツの1つであり、病気や事故で障害を持つことになった人たちが、バンパーなどが取り付けられた車椅子に乗ってプレーするスポーツです。選手たちが激しくぶつかり合うため、”マーダーボール(MURDERBALL(殺人球技))”とも呼ばれています。
おそらく選手たちは障害者となった瞬間、「なんで俺(私が)が…」と運命を呪ったこともあったかもしれません。そんな選手たちが、もう一度前を向き、激しくぶつかり合うさまを見ていると、「俺も負けてられないな」と生きる勇気をもらえます。
日本では一般社団法人日本車いすラグビー連盟が中心となりその普及を推進しているのですが、本連盟には三菱商事などがスポンサーとして名を連ねています。
私は一度、大会を見に行ったことがあるのですが、障害を持った選手たちが力強くボールを追う姿、そしてその後ろに掲載されるスポンサー企業名を見て、「就活中に戻れたら、このスポンサー企業絶対受けよ」と思いました。
私の頭の中で、「車いすラグビー→障害者たちが前向きに&激しく躍動している→感動した→それにスポンサーする企業は偉大」という連想ゲームが高速で成り立っていたのだと思います。
もしかしたら、「お前、単純やな」と思われる方もいるでしょう。ただ、心を上下させるストーリー性の中で企業名を露出することは、観る人の心にスポンサー企業の印象を深く&ポジティブに残すのだ、ということを感じてもらえればと思います。
iv. 「どのように」(③ナチュラル感)に着目した事例
ユニフォーム/看板広告、WEB広告、呼称・肖像権活用プロモーションなど、スポーツマーケティングで実施されるほぼ全ての広告は人の行動を邪魔することなく、ナチュラリ~に露出されます。
ここで看板・WEB広告などの事例を紹介しても、「つまらんなぁ」と言われそうなので、ナチュラル感のある別のスポーツマーケティング事例をご紹介します。
エクスペディア・グループの子会社であるHotels.comはMLS(北米サッカーリーグ)所属のVancouver Whitecapsにスポンサーし、ユニークなスポーツマーケティングを実施しています。
同社はまず2つのポイントに目をつけました。
・カナダではアクティブ若年層にサッカーが人気であること
・2026年FIFAワールドカップがカナダ・メキシコ・米国で開催されること
この2点を踏まえ、2026年に最高潮を迎えるサッカー人気を取り込むため、今からHotels.comの認知を、自然な形でじわじわとアクティブ若年層に浸透させる戦略を考えました。
具体的にはスポンサーするVancouver Whitecapsのホームスタジアムである観戦ルームを、インスタ映えするようなホテルルームに改装しました。
その後、SNS上でファンを選定し、選ばれたファンは宿泊の様子をInstagramにあげます。最高級の家具と窓越しにピッチが一望できるという、アラブの石油王しか経験できないであろう“映えルーム”の様子は一気にSNS上で拡散されました。
結果的に、消費者の邪魔することではなく、むしろ「インスタで拡散しよっ」という消費者の行動を利用することで自然とHotels.comの認知拡大に成功したのです。
3. おわりに
今回は、誰に、何を(①変容性、②ストーリー性、③ナチュラル感)という4つの視点に着目したスポーツマーケティングの事例を紹介してきました。テレビCMと比較であったため4つの特徴とその事例になりましたが、実はスポーツマーケティングには他にも注目すべき“メディアパワー”がたくさんあります。
弊社ではスポーツマーケティングの持つメディアパワーの定量化およびコンサルティングサービスも提供していますので、将来的にはこのへんについても記事にしていければと思います。
是非、気になったらブックマークのほどお願い申し上げます。