今までeスポーツにまつわる記事をいくつか出してきました。今回はそもそもビジネス視点で見た時のeスポーツとはなんぞ?に答えるまとめ記事を書いておこうと思います。

実際、日本のeスポーツは欧米や中国と比べるとイマイチ浸透していないのが現実です。「eスポーツはだいたいどんなものかわかるけど、深く考えたことはない」、「いやゲームやないかい」と思われる方もいらっしゃるでしょう。何を隠そう、つい最近までワタシも同じようなイメージを持っていました。

そこで、今回はそもそもeスポーツとは?どのくらい流行ってんの?特筆すべき点は?といった基本ポイントをサクッとまとめておこうと思います。そのうえで、マーケティングの観点からeスポーツの特徴について考え、具体的な事例にもふれておきます。

なおこの記事は、今春コロナの影響でラスベガスにeスポーツ大会を見学しにいく予定がつぶれたキムラがお送りいたします。

1. そもそもeスポーツとは?

eスポーツに馴染みのない方もいらっしゃるかと思いますので、まずはeスポーツとは一体何なのかから始めましょう。「んなことわかっとるわい」という方はザザッとスクロールして頂いて大丈夫です。

一般社団法人日本eスポーツ連合によると、eスポーツとは

eスポーツとは
(出典:一般社団法人日本eスポーツ連合| eスポーツとは)

だそうです。

ゲームの中にはシューティング系、格闘系、スポーツ系など、個人もしくはチームが対戦して勝敗を争う形式のものが数多くあります。つい最近まで単なる娯楽としてしか見られていなかったのが、近年スポーツとみなされるようになってきた。これこそがeスポーツなんですね。

イメージが湧きにくい……という方向けに動画をご用意してみました。

熱狂的なファンが観客として集まっていますし、エンターテイメントとしての演出もハデです。スポンサーもついて、プレーヤーもサッカー風のユニフォームを着ていたりします。「これならスポーツと言えるナ」という感じもしてきました。これはヨーロッパの映像ですが、中国やアメリカでもこういった大会は数多く開かれており、日本よりもだいぶ市民権を得ています。

ビデオゲームなら日本のお家芸じゃないか、と思ったアナタ。ワタシもそう思いました。しかし、日本発のゲームソフトが世界中を席巻していたのは15年ほど前までの話だそうです。近年はオンラインゲームの台頭などにより、ゲームソフトのタイトル数で見ると日本のゲーム会社のシェアは1割を切っているそうです。(出典:間野義之(2019)『東京大学大学院特別講義 スポーツビジネスイノベーション』) 任天堂を生んだ国だからといってeスポーツが発展する、ということにはならなさそうです。

2. 世界のeスポーツ市場概況:海外ではどれくらい人気?

じゃあこのeスポーツ、(IKKOさん風に)どんだけ~流行っているのでしょうか。世界でeスポーツがどんな勢いで成長しているのかって話です。下のグラフによれば、2020時点での市場規模は世界で9億7390万ドル(約1,029億円)となっています。ここでいう市場規模とは、各地で開かれるeスポーツ大会・リーグの広告収入、グッズ収入、放映権収入、入場料収入などの合算値です。3年後には15億9820万ドル(約1,688億円)に成長するとあり、2018年からの5年で約2倍に膨れ上がると予測されています。野球やサッカーと比べると、まだまだ世界的にも規模は小さいですが、これから大きく伸びる市場と想定されます。

eスポーツの世界市場規模
(出典:statista | eSports market revenue worldwide from 2018 to 2023)

ファンの数も世界中でアゲアゲな状態です。下のグラフはeスポーツ観戦者の推移を表しています。カジュアルな視聴者(Occasional Viewer)も含めると、2019年から2020年にかけて4.5億人4.9億人5千万人も増加しています。日本の人口の約半分ぐらいのペースで観戦者が増えているって他のスポーツではありえません。このアゲアゲ傾向は今後も続くと見込まれ、2022年には6.5億人にまで増えるとされています。しかも、観戦者の約半分が熱狂的な観戦者なのです。

eスポーツの世界観戦者数推移
(出典:newzoo | Global esports market reports より作成)

また、既にお察しかもしれませんがファン層は若年層が中心で、61%が18-34歳だそうです。当然ながらテクノロジーへの関心が強いファンが多いことも特徴で、ファンの82%はAIの熱心な支持者というデータもあります。(出典:Ohio University Online Graduate Degree Programs | Brand Sponsorship: How Marketers are Playing to Win in Esports)

プレーヤー側の視点から見てみると、賞金額が気になるところです。海外では賞金総額が数十億円に達することはザラで、中には100億円をこえる大会もあるそうです。(出典:間野義之(2019)『東京大学大学院特別講義 スポーツビジネスイノベーション』)

ゴルフの全米オープンの賞金総額が約13億円でゴルフ大会の中では最高レベルです。まさに伝統的なスポーツに引けを取らないどころか置き去りにする勢いなのです。

3. 日本のeスポーツ市場の特徴:国内ではどれくらい人気?

そんな世界中で旋風を巻き起こすeスポーツ。日本では海外ほど市民権を得られていないものの、市場規模としては順調に推移しています。

eスポーツの国内市場規模
(出典:KADOKAWA Gaming Linkage | 2019年日本eスポーツ市場規模は60億円を突破。)

2020年時点では約76億円。世界全体が1,029億円でしたからGDP比を考慮しても納得感のある数字です。また2023年までに倍以上に成長すると予測されています。成長の勢いは世界全体に負けず劣らずです。

ファン数も絶賛増加中です。2020年には602万人ですが、2023年には1,215万人まで膨れ上がる見込みです。国民の10人に1人がeスポーツファンという時代がすぐそこまで来ていることになります。

eスポーツの国内観戦者数推移
(出典:KADOKAWA Gaming Linkage | 2019年日本eスポーツ市場規模は60億円を突破。)

一方で、日本でのeスポーツの発展にとってやっかいな壁があります。それが法規制です。主には景品表示法刑法賭博罪)、風営法の3つの法律が障壁となっていると言われています。

現状では、景品表示法と刑法(賭博罪)についてはクリアしつつあります。詳しくは出典をご参照下さい。(出典:eSports DOGA |[2019年版]日本のesports(eスポーツ)の賞金と法律を徹底解剖!!)

eスポーツ発展の前に立ちはだかるのは3つ目の風営法です。風営法の正式名称は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」です。ざっくり言うと、風俗営業により周辺環境や子供の育成に悪影響を及ぼさないよう、一定のルールを定めている法律です。(出典:Square |バーや居酒屋を開業!風営法の押さえるべきポイントを解説)

1980年代に非行防止の観点でゲームセンターも風営法の規制対象となりました。これにより、「映像を使ったゲームを楽しむ場を有料で提供する行為」は規制されることになりました。eスポーツも“大会会場は店舗であり、競技用の機器をテレビゲームと捉えるとeスポーツの大会がゲームセンターと解釈できる”、となり規制対象となりうるのです。 すると、eスポーツ大会は風営法により以下のような影響を受ける可能性があります。(出典:eSports DOGA |[2019年版]日本のesports(eスポーツ)の賞金と法律を徹底解剖!!)

eスポーツの法的課題と興行としての課題の関連性
eスポーツの法的課題と興行としての課題の関連性

とまあ複雑な事情もあるようですが、そのへんはeスポーツファンの弁護士の方に頑張って頂くとして。とりあえず、日本でもeスポーツ市場には巨大なポテンシャルがあるとともに、法的な課題もあることがお分かり頂けましたでしょうか。

4. ビジネス視点で見た、eスポーツの特徴

最後に、「企業がマーケティングにeスポーツを活用するとしたら?」というビジネス視点でeスポーツの特徴をまとめてみます。

4-1. ファン特性:ジェネレーションZ、デジタルネイティブ世代からの人気が高い

先ほどもご紹介した通りですが、ファンの多くは若者で、しかもテクノロジーには人一倍親しみがあります。こういった若年層をジェネレーションZ(5-23歳)と言いますが、eスポーツはこの世代へリーチするために有効な手段となります。

SPOVA(スポバ)でも三井住友銀行、サッポロビールがeスポーツを活用して、ジェネレーションZへアプローチしたという記事をまとめています。

4-2. プレーヤー特性:性別、年齢、障がいの有無に関わらず同じような条件でプレーできる

eスポーツでは性別や年齢で競技クラスを分けたりしません。障害の度合いにもよりますが、基本的には障がい者であってもハンデなくプレーします。eスポーツは性別、年齢、障がい、国籍等の有無を超えるのです。障がいやジェンダーに高い意識を持っているとアピールしたい企業などは、eスポーツを使ってブランディング戦略を立てることができます。

SPOVA(スポバ)では障がい者を応援し、大きな反響を得たマーケティングの成功事例として、マイクロソフトの取り組みを取り上げています。

また、女性活躍という社会的なテーマを織り交ぜ、潜在顧客層の開拓に成功したマッチングサイトBumbleの事例を取り上げています。

4-3. 競技特性:とにかく頭脳戦で、高い集中力を要する

「アスリートは体が資本」という言葉がありますがeスポーツプレーヤーはとにかく頭脳が資本です。一瞬も気が抜けない時間が長く続き、人並み外れた集中力も求められます。これは受験勉強や仕事に通じるものがあり、頭脳労働の人々に向けてハイパフォーマンスを助けてくれる商品をアピールできます。

こちらについては記事にしていませんが、東大卒のeスポーツプレイヤー「ときど」選手と大塚食品が、「e3」というエナジードリンクを共同開発したという事例がございます。詳しくは出典をご参照下さい。(出典:大塚食品|e3)

eスポーツのマーケティング視点での特徴3つ
eスポーツのマーケティング視点での特徴3つ

5. おわりに(それでもeスポーツなんてスポーツじゃないと仰る方へ)

今回はeスポーツってなんだっけ?やら国内外でどのくらい人気なの?みたいな基礎的なポイントに絞ってまとめてみました。eスポーツについてなんとなく知ってる。でも、どうビジネスに活かしたらいいかわからん、みたいな方は、是非参考にしていただければと思います。

これをお読みのアナタ。eスポーツはただのゲームと思っていたかもしれません。しかし、ファンの数、市場規模、そして性別や障がいの有無を超えるという特性。こういった点を俯瞰してみると、次の世代に広がる新たなスポーツの一形態なのかもしれません。

野球だってもともとは批判されていたのです。野球は1871年に日本に入ってきましたが、タダの遊びやんけ!と考える人は少なくありませんでした。1911年には東京朝日新聞が「野球と其害毒」と題したテーマで野球を批判しています。(出典:tabiyori |【野球の歴史】国民的人気スポーツ・野球が歩んできた歴史とは?)

しかし今となってはスポーツとして認知され、野球で稼ぐことに異義を唱える人はいません。1911年に批判していた東京朝日新聞も今では高校野球のメインスポンサーです。

このようにeスポーツもスポーツとみなされる時代はいずれ訪れます。SPOVA(スポバ)も新たなスポーツの萌芽であるeスポーツのビジネスとしての魅力や活かし方を日々研究していこうと思います。SNSのフォロー・シェアなどどうぞよろしくお願いいたします!