「俺たちの時代とは違うんだなぁ…」 ある会社で管理職をしているワタシの先輩がつぶやきました。きけば、入社したばかりの若手社員がなんの前触れもなく会社を辞めてしまったそうです。

30代以上の人といわゆる“ゆとり・さとり世代”とよばれる世代では大きな価値観のギャップがあると言われています。例えば若者の “~離れ”。車離れ、結婚離れ、タバコ離れなど、いまの30代以上の世代が当然のように利用、消費していたものから若者が離れていっています。

少子高齢化とはいえ、企業としてはこういった若者へ訴求していくことは、次の需要を作るという意味で非常に重要です。でも、おじさんたちは若者のことがわからない。

そこで今回はeスポーツを使って若者にアプローチしたアクティベーション事例をご紹介していきます。

なおこの記事は、ゆうちょがあんなことになってしまい、新たに銀行口座開設を検討中のキムラがお送りいたします。

1. 新世代にアプローチするには今までと一緒じゃダメ?ミレニアル世代、ジェネレーションZとかってなに?

みなさんと“若者”についての共通イメージを持つために、そもそも“若者”って何?を先に定義しておきます。

アメリカでは以下のように世代を分類しています。サイレント世代は現在の高齢者と言われる世代です。ブーマー世代は第二次世界大戦後のベビーブームに生まれた世代です。ジェネレーションXは40代前半から50代後半の、社会でバリバリ働いている世代になります。ジェネレーションYは20代前半から30代後半であり、企業で言えば若手から中堅一歩手前の人々ですかね。そして最後にジェネレーションZ。これは社会でいうと保育園生から大学を卒業したばかりの若者たちってかんじです。今回の記事は、このジェネレーションZをイメージいただければ、わかりやすいかと思います。(出典:KASASA | Boomers, Gen X, Gen Y, and Gen Z Explained)

世代分類(サイレント世代~ジェネレーションZ)
世代分類(サイレント世代~ジェネレーションZ)

当然ながら世代には価値観の違いがあります。ジェネレーションZの特徴としては、ゴリゴリのSNS世代です。それもそのはずで、彼らは生まれたときからSNSやらスマホやらウェアラブル端末などに囲まれています。そして健康、環境、社会といったキーワードに敏感で、それを害する食べ物を摂取したがらない、みたいな特徴もあります。(出典:JETRO | 次世代を担う「ミレニアル世代」「ジェネレーション Z」-米国における世代(Generations)について-)

各ジェネレーションの特徴と取り巻く環境
各ジェネレーションの特徴と取り巻く環境

このような世代間の環境・価値観の違いから、ターゲットとする世代によって効果的なマーケティング手法というのも当然変化します。

では、このような特徴を持つジェネレーションZに対して、企業がeスポーツを使ってどのようにアプローチしていったのか事例を見ていきましょう。

2. 三井住友銀行の事例:eスポーツを活用したSNS戦略

2-1. 三井住友銀行の課題

1つ目の事例の主人公は三井住友銀行(以下SMBC)、ご存じ3大メガバンクの1つです。彼らは2014年から野球の日本シリーズの冠スポンサーを務めています。

リアル日本シリーズに加えて、2018年からは野球ゲームの日本一決定戦「e日本シリーズ」の冠スポンサーにもなっています。「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ2018-19 SMBC e日本シリーズ」です。

一見eスポーツとは関係の薄い銀行という業種。SMBCがどんな経緯でこのスポンサーシップに至ったのか少し考えてみましょう。

近年金融業に起きている変化といえばFintechの勃興ですよね。ベンチャーが新しいサービスを次々に立ち上げ、メガバンクもベンチャーと組むなどして事業ポートフォリオの大幅見直しが求められています。

そんな今日において、銀行業界が共通して危機感を持っていると思われる現象があります。それは幼少期からSNSに囲まれて育った、ジェネレーションZたちの銀行離れです。ITに強い企業がスマホ決済などのオンライン完結型サービスを出しています。そんな中、「銀行ならスマホで完結する銀行選ぶよね」という若者が増えてきています。(出典:日本経済新聞 | 若年層「銀行離れ」に危機感 ふくおかFG、ネット銀設立発表)

ジェネレーションZが今後主要顧客になってくる銀行からしてみれば、若年層と接点を作ることは極めて重要な経営課題です。 SMBCもデジタル化を絶賛推進中であり、「俺たちだってデジタルネイティブを満足させるサービスを提供できるんだ!」って若者たちに印象づけたかったのです。(出典:Social Game Info | 三井住友銀行、プロ野球eスポーツリーグ「e日本シリーズ」の冠スポンサーに決定!)

2-2. 三井住友銀行はなぜeスポーツに目をつけたか

そこでSMBCが目を付けたのがeスポーツです。eスポーツの主なファンは若者でテクノロジーに親しみのある人たちです。主なファン層は若年層が中心で、61%が18-34歳です。テクノロジーへの関心が強いファンが多いことも特徴で、ファンの82%はAIの熱心な支持者というデータもあります。(出典:Ohio University Online Graduate Degree Programs | Brand Sponsorship: How Marketers are Playing to Win in Esports)

2-3. 三井住友銀行はどのようにeSportsを活用したのか、その成果は?

SMBCはパワプロ・プロリーグの冠スポンサーになるとともに、若者ともう少し濃密な接点を持つように仕掛けます。そこで利用したのがTwitterです。SMBCはTwitterの公式アカウントでフォローを貰う代わりに、PS4などをプレゼントしちゃうキャンペーンを打ちました。ちなみに、このツイート、2.5万回リツイートされています。#パワプロリーグ、#eBASEBALLやPS4に強い関心を示す層の多くはジェネレーションZでしょう。ちゅうことは、ターゲットである若者層の獲得に一定程度成功したと言っていいのではないでしょうか。

なお、SMBCの普段のツイートに対するリツイート数は数件から多くて数百件です(ディスっているわけではなく)。それを考えると、スポーツの強力な拡散力によってSMBCの名を普段の数十倍拡散できていると言えます。この施策の直接的成果としてどれくらいフォロワーを獲得できたかは分かりません。ただ、2020年10月時点でSMBCのTwitterアカウントフォロワーは17万人を超えています。ライバルである赤い銀行が9.7万人、青い銀行が7.9万人なので、大きく引き離しています。

SMBCのTwitterフォローキャンペーン
SMBCのTwitterフォローキャンペーン

以上の経緯を図にまとめてみると以下のようになるかと思います。以前何度か登場したアクティベーションモデル図(簡単な図の説明はこちら)です。「誰が、誰と組んで、誰にリーチしようとしたか」を図式化したものになります。

SMBCとe日本シリーズのアクティベーションモデル図
SMBCとe日本シリーズのアクティベーションモデル図

3. サッポロビールの事例:eスポーツを活用したLTV獲得戦略

3-1. サッポロビールの課題

2つ目の事例は箱根駅伝のスポンサーでも知られるサッポロビールです。スポーツのスポンサー企業でビールメーカーは定番で、本サイトの過去記事でもビールメーカーが何度か登場してきました。

eスポーツにも熱狂的なファンがいますし、ビールをお供に観戦したらなんとなく楽しそうな感じはします。しかし、サッポロビールはもっと深い考えでeスポーツに関わっているのです……とにかく順を追ってみていきましょう。

最初は先ほどの銀行と同じような話から始まります。サッポロビールに限らず、ビール業界全体が感じていると思われるのが、若者のビール離れです。

こちらのグラフから明らかなように、20代の人の飲酒習慣率は1997年から2017年までの20年で半減しています。 (出典:imidas | なぜ酒を飲まない若者が多いのか) 

ビール会社にとって若者の市場をごっそり取り逃がすのは痛すぎます。若者世代が今後消費の中心となっていくことを考えると、なんとかして若者からの支持を取り戻したいところです。サッポロビールのマーケティング担当者も「酒の中でビールが選択されづらくなっている」、「若い世代がビールに出合う“体験”がない」という危機感を語っています。(出典:日経クロストレンド | サッポロが取り組むeスポーツ 狭く深く刺さるマーケこそ効果的)

3-2. サッポロビールはなぜeスポーツに目をつけたか

ならば若者向けのテレビCMやウェブマーケティングなんかをガンバったらいいのではないか、と思います。しかし、若者はテレビからも離れていっています。そしてウェブマーケティングにも、若者にリーチする上で弱点があります。それがアドブロックなるものです。アドブロックとは、ネット広告をブロックできるソフトウェアのことです。(出典:bitwave | Adblock(アドブロック)とは?今さら聞けないメリットと知っておきたい注意点)

実際アドブロックってどのくらいの人が入れているのでしょうか。下のグラフでは、日本でも10%前後の人がアドブロックをスマホやPCに入れていることがわかります。注目したいポイントは、どの国でも若年層ほどアドブロックをインストールしている割合が高い、っちゅうことです。イギリスにいたっては18-24歳と25-34歳を比べるとその差は倍以上です。このように若者ほど広告接触を嫌う人が増えているのです。

年代別・国別のアドブロック使用率
(出典:REUTERS INSTITUTE | DIGITAL NEWS REPORT 2016)

そんなわけで、若者にリーチする手段としてテレビもWeb広告もアテにならん!ってサッポロビールは考えました。というわけで、お待たせしました。そこでサッポロビールは若者に人気のeスポーツに活路を見出したというわけです。(出典:日経XTREND | サッポロ、eスポーツへの投資決断 黒ラベルが若者に拡散)

3-3. どのようにeSportsを活用したのか

サッポロビールは、北海道を拠点に活動するeスポーツチームのスポンサーとなりました。命名権を獲得し、今ではそのチームは「レバンガ☆SAPPORO」と呼ばれています。彼らはシャドウバースというゲームのプロリーグで年間王者になったこともある強豪で、プロゲーマーの中では知られた存在です。多くのeスポーツファンがSAPPOROの文字を目にすることになり、テレビCMにもWeb広告にも関心を示さないイマドキの若者から認知が高まります。

(出典:レバンガ☆SAPPORO | レバンガ☆SAPPORO HP)

加えて、サッポロビールは、eスポーツ大会「PUBG JAPAN SERIES Winter Invitational 2019」にも協賛しました。この大会ではサッポロ生ビール黒ラベルを2杯まで飲めるサッポロビールプレミアムシートが1席3,000円で販売されました。このプレミアムシート。60席限定だったそうですが、光の速さで売り切れたとのことです。 (出典:CHEER UP! – サッポロビール | ”ビールを飲みながら、eスポーツ観戦”がついに叶った!「PUBG JAPAN SERIES WINTER INVITATIONAL 2019」)

こういった活動は「XXといえばコレ」と人の頭の中に連想させる効果があります。例えば「ラグビーと言えば、、、Heineken!」、「サッカー日本代表の試合といえば、、、KIRINビール!」みたいに。こういった連想をブランド連想なんていい方もします。

ちなみに、こういった消費者への刷り込みが成功するとどうなるか。それは、必要以上に広告費を投下せずとも、eスポーツの大会が開催されれば、その観戦者は自然とサッポロ黒ラベルを購入するようになるってことです。こういった事例は世の中に山ほどあります。例えば、クリスマス→ケンタッキー、受験生の小腹を満たす食事→カロリーメイト、クラブの飲み物→レッドブルウォッカみたいな。消費者の頭の中で、「eスポーツと言えば、、、サッポロ黒ラベル!」みたいなブランド連想が定着する日も来るかもしれませんね。

以上の流れを図解してみると、次のようになるかと思います。

サッポロビールとPUBG JAPANのアクティベーションモデル図
サッポロビールとPUBG JAPANのアクティベーションモデル図

4. おわりに

今回はeスポーツの特徴の中でも、若年層やデジタルネイティブ世代からの人気に着目し、その特質を活用したスポンサーシップ事例を2つご紹介しました。

これを読んでいるジェネレーションY以上のみなさま。若年層顧客の獲得に日々、苦戦されている方もいらっしゃるかもしれません。そういった方にはぜひ、eスポーツを活用したマーケティングについて一考していただけると幸いです。

eスポーツはスポーツの中でまだまだ新興勢力的存在です。ただ、最近のコロナ禍を考えると、物理的に集まらなくとも大会ができるeスポーツは大きな可能性を秘めています。そして、SMBCやサッポロビールなどの、日本を代表する大企業は既に目をつけてマーケティングに活用し始めています。弊社は国内・海外の数々のeスポーツスポンサーシップ事例を独自調査し、日々分析・研究しております。今後はこのeスポーツについても定期的に取り上げていきたいと思いますのでチェキをお願いします。