以前、世界的企業であるバーガーキングが、イギリスサッカーリーグ4部のチームであるスティヴネイジFCにスポンサーをして大きな成果を出した事例をご紹介しました。実はこの事例において、バーガーキングはあえて下部リーグに所属する弱小チームを選びました。その結果、2021年6月には世界最大級の広告賞カンヌライオンズで二冠を獲得するほど有名になった事例です。

バーガーキングがイギリス4部のチームをスポンサー先として選んだように、あえて下部リーグのチームにスポンサーする、という事例はけっこうあります。そしてそのスポンサー企業には、実はしっかりとした戦略があったりします。今回は、そんな下部リーグに所属するチームをあえてスポンサー先として選び、上手く活用している事例をご紹介します。

今回の記事は、イングランドの3部サッカーリーグの試合観戦に行き、大の大人が試合結果について殴り合いの大喧嘩をしているのを見て、「サッカーって最高だなあ」と思ったマルタがお送りします。

1. イングランドサッカーリーグってどうなってる?規模感、人気にどのくらいの差があるの?

1-1. イングランドサッカーリーグの構造

まずは、イングランドのサッカーリーグがどのような構造なのか見ていきましょう。

イングランドサッカーリーグのトップに君臨するのは、プレミアリーグです。みなさんが、イギリスのサッカーリーグと聞いて思い浮かべるのはまずこのプレミアリーグだと思います。プレミアリーグには全20チームが所属。以前記事(以下)にしたマンチェスターユナイテッドや、南野選手が所属するリバプールなど、数々のビッククラブが名を連ねます。(出典:Premier League | Clubs

プレミアリーグの1つ下、勝てばプレミアリーグに昇格することのできるリーグをEFLチャンピオンシップといいます。EFLチャンピオンシップは全24チームによって争われ、上位2チームとプレーオフ勝利チームの計3チームがプレミアリーグに昇格できます。

そしてそのEFLチャンピオンシップの下にあるのが、EFLリーグ1。続いてEFLリーグ2です。各リーグ24チームが所属しています。上から3番目と4番目のリーグなので、日本でいうと、J3とJFLと同じ位置という感じです。今回の記事は、この2つのリーグにスポットライトを当てていきます。

1-2. 各リーグの収益規模:プレミアリーグと比べるとどれくらいの差があるの?

まずは、4つのリーグの規模感を見てみましょう。具体的には、各リーグの収益(売上)の大きさで比べていきます。下のグラフは、2018-19シーズンの各リーグ所属チームの収益を合計したものです。

2018-19シーズンのプレミアリーグの収益は、約50億ポンド=約7,700億円。プレミアリーグのすぐ下に位置するリーグであるEFLチャンピオンシップの収益は、約7億9千万ポンド=約1,200億円です。今回取り上げていくEFLリーグ1の収益は、約1億9千万万ポンド=約290億円、EFLリーグ2は約9千万ポンド=約140億円です。EFLリーグ1&2は1チームあたりの平均収益が12~6億円の規模と、J2~J3くらいの規模感ですね。

(出典:Deloitte | Annual Review of Football Finance 2020 より作成)

1-3. 各リーグの観戦者数:そんなに人気ないの?

次に、観戦者数でも比較してみたいと思います。下のグラフは2018-19シーズンの、プレミアリーグEFLチャンピオンシップEFLリーグ1EFLリーグ2の平均入場者数です。(2019-20シーズンからコロナウイルスにより多くの試合が無観客になっているため、2018-19シーズンのデータを使用しています)直接スタジアムに来て試合観戦をした人の数です。

EFLリーグ1の平均入場者数は約8,700人。上位リーグであるプレミアリーグの4分の1以下、EFLチャンピオンシップの半分以下しか観客が入っていないことになります。EFLリーグ2に至っては平均入場者数が約4,500人なので、プレミアリーグの8分の1以下、EFLチャンピオンシップの4分の1以下です。

(出典:Deloitte | Annual Review of Football Finance 2020 より作成)

もちろん上位リーグの方が観客数が多く、人気があるというのは簡単に予想がつきますが、ここまでの差があるとは…。上位リーグであるプレミアリーグ、EFLチャンピオンシップとEFLリーグ1&2の人気には、圧倒的な差があるようです。

1-4. Twitterのフォロワー:フォロワー数も少ないの?

収益、観戦者数でみるとイングランドサッカーリーグの中でEFLリーグ1&2がどれほど規模の小さいリーグかがおわかりいただけたかと。では念のためTwitterのフォロワー数も見ておこうと思います。

↓のグラフは、各リーグ所属チームの公式Twitterアカウントのフォロワー数を合計したものです(2021年6月30日時点)。

やはり、プレミアリーグが圧倒的で、全20チームの合計フォロワー数はなんと延べ約1億1千万人。続くEFLチャンピオンシップ全24チームの合計フォロワー数は、延べ約910万人。プレミアとチャンピオンシップの間にはこんなにも圧倒的な差があるのですね。

ではEFLリーグ1&EFLリーグ2はどうでしょうか。EFLリーグ1所属の全24チームの合計フォロワー数は、延べ約370万人EFLリーグ2の合計フォロワー数は、延べ約170万人です。上位リーグであるプレミアリーグ、EFLチャンピオンシップと比べるとEFLリーグ1&2の人気には、やはり圧倒的な差があるようです。

(出典:各チーム公式Twitter より作成)

2. 下部リーグチームにスポンサーしてビジネスメリットを作る大企業

ここまでで、EFLリーグ1&2がイングランドサッカーリーグの中で規模・人気でどのような立ち位置にあるかおわかりいただけたかと思います。ではここからはこのようなリーグに所属するサッカーチームにスポンサーしている企業の取組についてお話していきます。彼らは日本にありがちな「小さいチームだからお恵み程度にお金入れる」ではなく、しっかりとビジネスメリットを生み出しています。

2-1. 将来、自社で働いてくれる優秀な科学者に接触したい!

まず1つ目は、アストラゼネカEFLリーグ1に所属するCambridge Unitedというチームの事例です。Cambridge Unitedは、かの有名なケンブリッジ大学のあるケンブリッジという都市にあるチームです。

スポンサーはアストラゼネカです。新型コロナウイルスのワクチンを開発した製薬会社としてニュースなどでも報道されいます。実はアストラゼネカの本社は、Cambridge Unitedの本拠地と同じケンブリッジ。チームの本拠地に本社を置いている企業とのスポンサー契約は日本でも多くのチームが行っていますよね。しかし、この事例はただ地元チームにスポンサーすることで、地元住民からのイメージUPを得ようとしただけではないというところがポイントです。

アストラゼネカは、「発見」、「開発」、「商用化」を重視するサイエンス志向の医薬品企業です。そして、アストラゼネカは「人生を変える薬を届けるために、サイエンスの限界を広げること」をミッションとしています。会社としてかなりサイエンス(科学)を重要視しているみたいです。(出典:Linkedin | AstraZeneca

そんなアストラゼネカはサイエンスを重要視しているだけあって、世界中で未来の科学者を育てる「STEM at AstraZeneca」なる活動をしています。この活動は、世界中の子どもたちにSTEM (Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育をするというもの。ご存知の通り、STEM教育は社会の技術革新の根幹であり、それは病気の治療・予防の発展のためにも当然欠かせない知識です。つまり、未来の医療科学の発展、ひいてはアストラゼネカで活躍する科学者を育てるための活動というわけです。

アストラゼネカは、この「STEM at AstraZeneca」をイギリス国内でも行っており、その一部の活動においてCambridge Unitedと手を組んだのです。

アストラゼネカが「STEM at AstraZeneca」の一環としてCambridge Unitedと共同で行ったのは「Active Science」という活動。「Active Science」とは、地元の子供たちを対象にスポーツを通してサイエンスを教えるというものです。例えば下の写真では、男性がボールに矢印を付けて何かを教えていますね。これはサッカーボールを使って、反作用重力を教えているのだそうです。(出典:Cambridge United | AstraZeneca Renews Community Sponsorship and Active Science Programme

サッカーを通してサイエンスを教える。というのがこの事例の大きなポイントです。

イギリスでは、男の子がする運動の習い事で最も人気なのがサッカーです。女の子では2番目に人気の習い事です。(出典:Mirror | These are the most popular sports with boys and girls – and they may surprise you

ただ「サイエンスを教えます」というだけでは、子どもたちは興味すら持ってくれないかもしれません。しかし、「大好きなサッカーをしながらサイエンスを勉強する」と聞いたらどうでしょう。先ほども言った通りイギリスの子供たちはとにかくサッカーが大好きなので、「楽しそう!」と思うはずです。サイエンスだけを座学で学ぶよりも、普段の遊びであるサッカーが上手くなる方法としてサイエンスを学ぶから楽しい。そして楽しそうだからより多くの子供たちが集まる。それがアストラゼネカの狙いだと思われます。

ワタシはアストラゼネカの本当の狙いは別のところにもあるかも、と思ったりします。それは「将来の優秀な研究者候補に接触しておくこと」

製薬会社にとって競争力の源泉は研究開発から生まれます。医薬品って、開発できてしまえば製造にかかる費用(製造原価)が安いので、非常に利益率が高くなります。他社が作れない革新的な薬さえ作れれば、かなりの儲けが期待できる業界なんですね。(出典:治験業界の看護師の仕事内容 | 製薬企業の趨勢は新薬の研究・開発(治験)・営業にかかっています

しかし、この新薬を作るための研究開発にはお金と時間がかかります。しかも成功確率がめちゃ低い。例えば日本では、ひとつの薬ができるまでに9〜17年もの期間を要し、その間にかかる費用は約500億円と言われています。ここまで時間とお金をかけても開発の成功率は約3万分の1とも言われ、ほとんどの研究開発は途中段階で断念されているのです。(出典:中外製薬 | くすりを創る

つまり、「当たれば儲かる。でもそのためには時間とお金がかかる。しかもなかなか成功しねぇ!」。これが新薬の開発なんですね。こんな環境に置かれている製薬会社ですから、常に優秀な研究者を求めているわけです。アストラゼネカも、“来たれ!お金と期間をかけないで、新薬作ってくれる天才研究者!”な状態なんですね。

この事例は、表向きは子供たちにサイエンスを教える、ってことなのかもしれません。ただ、裏の狙いとしては「受講生のみんな!10年後の就活のときはアストラゼネカにエントリーシートだしてね!」ってことなのかな、と思ったりします。

加えて、STEM教育の重要性やアストラゼネカの取組みに強く共感してくれそうな人達がここケンブリッジにはいます。そう、ケンブリッジ大学の学生・職員です。地元の教育環境を支えるアストラゼネカの取組みに、深く教育受け&与えてきたケンブリッジ大学の学生・職員は少なからず好感を抱くはずです。そして好感を抱けば、自ずとエントリーシートに手を伸ばす数も増えていくのではないでしょうか。

まとめると、かなり長期的な狙いも含まれますが、自社の発展を支える将来の人材確保のために行った地元のサッカーチームとの取組みではないでしょうか。

2-2. 環境にやさしい企業・ブランドイメージを発信したい!

続いては、EFLリーグ2に所属するForest Green Rovers(FGR)というチームの事例をご紹介します。

FGRは、世界で最も環境にやさしいサッカーチームを標榜し、”Sustainability”を全面にテーマとして打ち出しています。(出典:Forest Green Rovers | Another Way

環境に優しいチームと言うだけあって、彼らはチームのホームスタジアムのエコ化に力を入れています。スタジアムの電力は100%太陽光でまかなっていたり、ピッチ整備のための水は雨水を使ったりと様々な取り組みを行っています。結果、二酸化炭素排出量を約30%減らすなど、環境フレンドリーな成果を出しています。

さらに畜産業は環境に負荷をかけるという理由から、2015年から”100%ヴィーガン”なサッカーチームになりました。選手・スタッフへの食事、そしてファンがスタジアムで購入する食事も全てヴィーガン食とのこと。

こんなFGRのチームテーマに共感し、スポンサーした企業があります。その1つがFaith in Natureというブランドです。イギリス発祥の消費財ブランドで、人工香料、化学物質、遺伝子組み換え成分不使用などエコな製品を展開しています。現在は世界10カ国で展開されおり、日本でも販売されています。

(出典:Faith in Nature | ホームページ

Faith in Natureが行ったFGRと行ったアクティベーションはなかなかユニークです。一般的に多くのスタジアムでは化学肥料を使って芝のメンテナンスを行います。しかし、FGRのスタジアムの芝は有機肥料を使ってメンテナンスされています。Faith in Natureはここに目をつけます。彼らはFGRスタジアム内の、有機肥料を使って育てられた芝からボディソープをつくるというアクティベーションを行ったのです。

従来のスポンサーであれば、チームが勝利のために奮闘する姿と自社イメージを重ね合わせる、というのが多かったように思います。しかしこの事例は、チームの勝利に加え、環境にやさしいというチームの社会的なテーマに注目し、自社のイメージを重ね合わせるという狙いです。

日本でスポンサーを獲得したいチームも、FGRのように「他チームにはない尖った社会的テーマ」を考えてみるといいかもしれないですね。例えば女性活躍、若者の育成、地域活性化などなど。こんな社会性が高く、尖ったテーマを全面に押し出して、それに共感してくれそうな企業をスポンサーとして探していく。小さいチームであるがゆえに1テーマに絞って一点突破していくってことがポイントなのかもしれません。

2-3. 製品の機能性を高めたい&アピールしたい!

3つ目は、現在EFLリーグ1に所属するBolton Wanderersというチームの事例です。

Bolton Wanderersは、イギリスのマンチェスターという都市にある、ボルトンという街を拠点にするチームです。ボルトンは、首都ロンドンから北に向かって車で約4時間の距離にあります。Bolton Wanderersは、直近では2001年~2012年にプレミアリーグに所属。しかしここ数年は、下位リーグから抜け出せず、2020-21年シーズンはEFLリーグ2まで降格していました。(出典:Bolton Wanderers | Club History

そんなBolton Wanderersが手を組んだのは、アメリカ・テキサス州に本社を置くファッションブランドのDickies(出典:Linkedin | Dickies®, a VF Company丈夫でおしゃれなデザインのパンツなんかが人気のブランドです。

(出典:Instagram | dickies

Dickiesは、Bolton Wanderersのどんなところにメリットを感じ、スポンサーするに至ったのでしょうか。それは、ズバリ…天気です。

Bolton Wanderersの本拠地である、Boltonは気象条件が悪く、かなりの頻度で雨が降ります。しかもその雨に雹、強風が加わるそうです。さらに冬は超寒いし、雪降るし、とかなり厳しい天気みたいです。

Dickiesは、AWTという機能が付いた新商品を開発しました。AWTは、Advanced Waterproof Technologyの略で、耐水圧10,000mmという高い防水性能を持ちつつ、風通しが良いという機能なのだそうです。まさに悪天候の中、で働く人々にピッタリの商品です。(出典:Professional Electrician & Installer | Dickies Workwear put to the test by Bolton Wanderers FC

Dickiesは、悪天候の中、毎日で働かなければならないBolton Wanderersのスタッフたちに目を付けます。スタジアムのピッチ整備スタジアム整備警備スタッフです。Dickiesは、このATW機能が付いた新商品をBolton Wanderersのこれらのスタッフに提供し、製品の質をテストしました。(出典:Professional Electrician & Installer | Dickies Workwear put to the test by Bolton Wanderers FC

悪天候の中働く人にピッタリな自社商品を、悪天候な土地に本拠地を構えるサッカーチームのスタッフに試してもらう。Dickiesは、Bolton Wanderers本拠地の天気というチームの特徴にメリットを感じ、スポンサーしたのです。

この事例、日本でも大いに参考になりそうですね。日本の天候といえば、四季があり、北と南、東と西でそれぞれにかなり天候条件が異なります。沖縄や九州は台風が直撃、北陸は何mもの豪雪、関東も夏には40℃を超えるなど、地域によって激しい天候条件もあります。「うちの商品は、○○な天気に強いんです!」という企業さんはその天候条件にあった土地のスポーツチームへのスポンサーを検討してみてはいかがでしょうか。

逆にチームとしても“うちの本拠地はUV強め”とか“冬は激寒”みたいな気候的特徴があれば、それをもとにスポンサー探しをしてみるのも1案かもしれないですね。

3. おわりに

いかがでしたでしょうか。競技面での強さや、人気が劣る下部リーグのチームが、固有の特徴や強みに着目し、スポンサーにビジネスメリットをもたらした事例を3つご紹介しました。

スポーツチームへのスポンサーってチームの人気の高さに着目したスポンサー事例が多かった気がします。しかし、日本において人気が高い&メディア露出などが大きいチームは限られます。ならば今回の事例のようにメディアへの露出量などから離れて、チームが持つ別の特徴に目を向けてスポンサー先を探すってのもアリかもしれません。

チームとしても、チーム規模が小さいほど知名度やメディア露出を強みにスポンサーを獲得するのは難しくなります。こういった強みで戦えるのはプロ野球、Jリーグ、Bリーグなどの一部のトップチームなんですよね。ならば彼らとは違う特徴を打ち出してスポンサーに価値を訴求していく戦略も検討すべきではないでしょうか。

最後に、スポーツスポンサーシップに関するお悩みのある企業様、スポーツ関連団体様は良ければご相談に乗らせて頂きますので、お気軽に↓からお問い合わせ下さい。お待ちしております。