日本では多くのIT企業がスポーツに参入しています。そしてその勢力は拡大を続けています。近年、サイバーエージェントがFC町田ゼルビア、メルカリが鹿島アントラーズを子会社したことは大きな話題を呼びましたよね。(出典:CyberAgent | FC町田ゼルビアを運営する株式会社ゼルビアの第三者割当増資引受(子会社化)に関するお知らせ、mercari | 株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーの株式譲渡に関するお知らせ)
今回の記事は、サイバーエージェント、メルカリとともに有名IT企業として知られるミクシィについて書いていこうと思います。内容が盛りだくさんなので、前編・後編の2部作となっています。前編は、SNS「mixi」で一斉を風靡した時代から現在に至るまでミクシィがどのように変わってきたのかを分かりやすくまとめています。後編は、日本スポーツ界を揺るがすようなミクシィの今後の戦略を考察してみましたので、乞うご期待!
それでは、さっそく前編スタートです!
目次
1. ミクシィって今どうなってるの?何が主力事業なの?
まずは、現在のミクシィについて紹介していきます。30代以上の方々は、「mixi」と聞けばSNSと頭に思い浮かび、同時に淡い青春時代を思い出しちゃうのではないでしょうか。しかし、青春時代を彩ってくれた「mixi」の運営会社であるミクシィが今どうなってるのかは知らない方も多いのでは。
株式会社ミクシィは、東証一部上場企業。従業員数は1,168名(2021年3月現在)。メガベンチャー企業として括られる企業の1つです。(出典:mixi Group | 会社概要)
現在ミクシィが展開するのは、「ライフスタイル」、「デジタルエンターテインメント」、そして「スポーツ」の3事業。
まず「mixi」を筆頭にサービスラインナップを増やす「ライフスタイル事業」。サロンスタッフ直接予約アプリの「minimo」などのサービスがあります。
次に、いまの収益の柱である「デジタルエンターテインメント」事業。2021年度(FY2021)の決算では、この「デジタルエンターテインメント」事業が全体の売上高の8割以上を占めています。「モンスターストライク」通称モンストがこの事業を支えており、4サービス中3つはモンスト関連のサービスとなっています。(出典:mixi Group | サービス・グループ会社一覧)
そして最後に「スポーツ」事業。この事業の売上高は、全体の売上高の1割程度。ミクシィとしては、実は祖業のライフスタイル事業を超えて2番目に大きい事業です。「スポーツ事業」には、競輪・オートレースのネット投票を友達と楽しむことができるサービスの「TIPSTAR」。B1リーグ所属の「千葉ジェッツふなばし」の経営・運営などが含まれます。
ミクシィといえばSNSだと思っていた皆さん。いかがでしょうか。かつて一大ブームとなったSNS「mixi」でしたが、いまは全体の売上高の5%しかない事業のうちの1つになっています。ミクシィは大きく変わったのですね。
では、ここからはどのようにしてミクシィがここまで大きく変わったのか。どんな歴史をたどってきたのか。詳細を時系列で遡っていきたいと思います。
2. 大きく変わったミクシィ。どのように成長してきたのか?
2-1. 創世期
下の表は、ミクシィの誕生から現在までの主な出来事と、提供を開始した主なサービスを時系列に並べたものです。
この記事では、ミクシィの前身の誕生からこれまでを、「創世期」、「mixi期」、「変革期」、「スポーツ事業立ち上げ期」、「スポーツ事業注力期」という5つの時代に分類しました。後ろに見える棒グラフは、売上高を表しています。
さっそく、まだSNS「mixi」が生まれる前、創世期から見ていきましょう。
ミクシィの前身は、1997年に求人サイトの「Find Job!」の運営元としてスタートしました。ここからミクシィの歴史はスタートします。「Find Job!」は、ミクシィの現・取締役ファウンダーである笠原健治氏が、東京大学3年生だった時に立ち上げたそうです。(出典:mixi Group | 沿革、役員紹介、ニッポンの社長 | 株式会社ミクシィ 代表取締役社長 笠原 健治)
「Find Job!」はサービス開始の約2年後には、年商1,000万円を突破。その勢いのまま、1999年に笠原氏は有限会社イー・マーキュリーを設立。1年後の2000年には株式会社への組織変更を行いました。まだ笠原氏が大学在学中だった頃のことです。(出典:mixi Group | 沿革、ぼくらの履歴書 | ミクシィ創業者の回顧録「アイデアがあるなら具現化しない理由はない」 – ミクシィ笠原健治の履歴書)
2-2. mixi期
さらなる会社の成長を目指し、2003年より新しいビジネスの構想を開始した株式会社イー・マーキュリー。海外ですでに流行し始めていたSNSに目をつけ、2004年2月にSNS「mixi」の運営を開始しました。(出典:cnet Japan | なぜmixiはこれほど成功したのか–笠原社長が明かす開発秘話、mixi Group | 沿革)
SNS「mixi」とはどんなものだったのか。↓は2006年当時のmixiのトップ画面です。
ユーザー間でメッセージの送受信ができることや、個人のプロフィールを設定できる点などは、現在メジャーとなっているFacebookなどのSNSと比べて基本機能面ではそんなに遜色ないですよね。その当時、mixiが支持されていたポイントとしては、日記を書くことができたり、趣味やテーマでつながったメンバー同士で掲示板を通した情報交換ができる機能がなどが挙げられます。(出典:mixi Group | 2006年度第4四半期及び通期決算説明会)
日本においてSNSというものを世に知らしめた存在ともいえるSNS「mixi」。サービス開始からたった10ヶ月でユーザー数は20万人を突破。サービス開始から約2年後の2006年7月には500万人になりました。勢いそのままに、2006年9月には株式会社ミクシィとして、東京証券取引所マザーズ市場に株式上場。思惑通り、SNS「mixi」によって会社はめちゃめちゃ成長したってわけです。(出典:mixi Group | 沿革、@Press | SNS『mixi』、ユーザー数500万人を突破、ぼくらの履歴書 | ミクシィ創業者の回顧録「アイデアがあるなら具現化しない理由はない」 – ミクシィ笠原健治の履歴書)
ちなみに、2006年の新語・流行語大賞のトップ10に「mixi(ミクシィ)」が選出されています。SNS「mixi」がいかに大流行し、一世を風靡したのかが分かりますね。(出典:「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン新語・流行語大賞 | 第23回2006年授賞語)
しかし、時代を感じるラインナップですねぇ~。荒川静香選手のイナバウアーと同年にSNSのmixiは大流行してたんですね~。
時代をつくったSNS「mixi」ですが、徐々に暗雲が立ち込めてきます。新しいSNSが日本に進出してきたのです。
2008年4月Twitterが日本語版サービスを開始。続いて2008年5月Facebookが日本語でのサービスを開始しました。(出典:Twitter | Twitter for Japan、bizble | 【5月19日】13年前、Facebook日本版のサービス開始)
ただ、「mixi」の利用者数やPV数がこれによってすぐに激減したとかではないようです。(実際、PV数は減少していますが、ミクシィはシステムの変更によるものだと説明しています)(出典:mixi Group | 2011年度通期決算説明会)
しかし、2010年度(FY2010)のピーク以降から、ミクシィの売上高は右肩下がりになってしまいました。新しいSNSの台頭の影響は少なからずあったと思われます。
2-3. 変革期
2-2.mixi期の、2010年度(FY2010)から右肩下がりに落ちていったミクシィグループの売上高。ここからミクシィは変革期に入っていくのですが、売上高の下落は2013年度(FY2013)まで続きました。さらに、2013年度には赤字になってしまいました。
しかし、下のグラフを見てもらうとわかるように2014年度(FY2014)に売上高は爆発的に上がっています。一体、ミクシィはどんな手を打ったのでしょうか?
変革期の序章として、2013年の5月(FY2013)にミクシィは経営体制を一新。創業者の笠原氏が、代表取締役社長から取締役会長に。新社長として朝倉祐介氏が就任しました。(出典:mixi Group | 2012年度第4四半期及び通期 決算説明会資料)
そのわずか5ヶ月後の2013年10月にスマホゲームのモンスターストライクをリリース。リリースからわずか9ヶ月後の2014年7月には利用者数1000万人を突破。リリースから1年後に1500万人、1年半後には、利用者数はなんと約3000万人にまで!ハンパねえスピードで人気を獲得し、爆発的ヒットとなりました。(出典:日本経済新聞 | ミクシィ、「モンスト」1000万人突破 スマホゲーム課金好調、)
リリース後まもなく超人気スマホゲームになったモンスターストライクは、ミクシィグループの売上高の半分以上を支えるほどの存在になりました。2013年度(FY2013)→2014年度(FY2014)の売上高爆上げに大きく貢献したのは言うまでもありません。ミクシィ復活の一手はモンストだったのです。(出典:2014年度第4四半期及び通期 決算説明会資料、2013年度第4四半期及び通期 決算説明会資料)
モンストによる大復活に続き、ミクシィはこの変革期に新たなサービスと続々と提供開始しています。2014年1月にサロンスタッフ直接予約アプリ「minimo」の正式提供を開始。(出典:mixi Group | 沿革)
2015年3月にチケット売買サイト「チケットキャンプ」を運営するフンザ社の全株式を取得し・子会社化。「チケットキャンプ」はスポーツ関連のチケットも取り扱っていたようなので、ミクシィがスポーツとの接点を初めて持ったのが、おそらくこの頃だと思われます。(出典:株式会社mixi | フンザ社の株式取得について)
さらに、2015年4月家族向け写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」の正式提供を開始。3ヶ月後の2015年7月にはエンタメ事業ブランドのXFLAGを設立。とにかく新しい事業が続々と発表されており、まさに変革期であることが分かります。(出典:mixi Group | 沿革、XFLAG | 「XFLAG(エックスフラッグ)」スタジオ設立!、PR TIMES | チケットキャンプ正式版を公開、エスクロー決済による安心チケット売買をサポート)
続々と新しい事業をスタートさせ売上高も好調な中、実はミクシィは2017年からスポーツとの接点を増やしていきます。この時期にスポーツとミクシィを繋いだのは、先ほど紹介したチケット売買サイトの「チケットキャンプ」でした。
「チケットキャンプ」は、プロ野球パ・リーグの配信事業などを手がけるパシフィックリーグマーケティングと2017年2月にスポンサー契約を締結。2017年4月には3×3プロバスケチームのDIME.EXEともスポンサー契約。さらに、Bリーグ所属のサンロッカーズ渋谷とも2017年8月にスポンサー契約を締結したのです。確実に、プロスポーツ団体との関わりを増やしてきていますねぇ。(出典:mixi Group | フンザとパシフィックリーグマーケティンがスポンサー契約パ・リーグTVにて、チケットキャンプスポンサードコンテンツ「まいにちホームラン!」提供開始 、チケットキャンプ運営のフンザとB.LEAGUE所属「サンロッカーズ渋谷」がスポンサー契約を締結「渋谷からバスケットボールを盛り上げる」をテーマに利益全額寄付等の活動も、財経新聞 | チケットキャンプのフンザ、バスケットボール競技3×3プロチーム「DIME.EXE」とスポンサー契約 )
2-4. スポーツ事業立ち上げ期
変革期の終盤から、スポーツ事業へ徐々に足を踏み入れていったミクシィ。ここからミクシィはスポーツ事業立ち上げ期へ移行していきます。変革期までは、ミクシィが持つスポーツとの関係は子会社が持つサービス「チケットキャンプ」との関係だけでした。しかし、ここからは株式会社ミクシィとして着実にスポーツ事業へ参入していきます。
スポーツ事業立ち上げ期の足がかりに、ミクシィのエンタメ事業ブランドであるXFLAGはBリーグ所属の千葉ジェッツふなばしとパートナーシップ契約を締結。さらに、2018年1月にはJリーグ所属のFC東京とも新規クラブスポンサー契約を締結しました。この時点では、2チームにとってミクシィはいちスポンサー企業であり、ミクシィとしてもデジタルエンターテインメント事業のプロモーションパートナーといった関係性だったと思われます。(出典:CHIBAJETS FUNABASHI | ミクシィ XFLAG? スタジオとB.LEAGUEで観客動員数1位を誇るプロバスケットボールチーム 「千葉ジェッツふなばし」がパートナーシップ契約を締結、 F.C.TOKYO | 新規クラブスポンサー契約のお知らせ)
また、ミクシィは2018年からスポーツチームだけでなく個人アスリートとのスポンサー契約も開始。契約アスリートは4人。東京オリンピックで金メダルを獲得したスケボの堀米雄斗選手をはじめとする、競泳の松本弥生選手、BMXの内野洋平選手、スポーツクライミングの野中生萌選手。(出典:FY2019 Q3 決算説明資料)
2019年1月にはFC東京とマーケティングパートナーシップを締結し、FC東京のファン拡大やご来場者満足度の向上などのサポートを行うことに。2018年1月の契約よりもFC東京との関係を強めていることが分かります。FC東京のユニフォーム胸部分にXFLAGのロゴ掲出が始まったのもこの時からです。(出典:F.C.TOKYO | 新規クラブスポンサー契約のお知らせ)
さらに注目すべきなのが、ミクシィが事業を展開するのはプロスポーツだけではないということ。ミクシィは、競輪車券のインターネット投票サービスを運営するチャリ・ロトを子会社化。公営競技(競馬・競輪などの公営ギャンブル)でもサービスを展開していきます。(出典:mixi Group | FY2019決算説明資料)
2-5. スポーツ事業注力期
スポーツ事業立ち上げ期に、プロスポーツだけでなく公営競技にも進出したミクシィ。ここからは、さらにスポーツに力を入れていくスポーツ事業注力期になります。実際にミクシィは、2020年度(2019年4月1日~2020年3月31日)の経営リソース集中投下分野2つのうち1つに「スポーツ領域の事業成長」を掲げています。会社を挙げて、スポーツに力を入れていこう!!!となったわけです。
実は、ミクシィの売上高は2017年度くらいから徐々に右肩下がりに。利益を生み出す新事業に投資をしようということで、スポーツ領域に注力すべきとみたようです。(出典:mixi Group | 2019年3月期 第4四半期及び通期 決算説明会資料)
ミクシィがスポーツ事業へ注力していくという発表通り、ここから既存スポーツ事業の強化、同分野での新規事業のスタートとかなり力を入れていきます。
スポーツ事業注力期の足がかりとして、2019年10月にもともとスポンサーとしての関係であったBリーグの千葉ジェッツふなばしを子会社化。ミクシィは実質的に千葉ジェッツのオーナー企業になりました。とうとうミクシィは、プロスポーツチームの経営を始めたのです。(出典:mixi Group | 沿革、FY2020 Q2 決算説明資料)
スポーツ領域の新事業も続々とスタートします。競馬メディア「netkeiba」、スポーツギフティングサービス「Umlim」、スポーツベッティングサービス「TIPSTAR」、競輪メディア「netkeirin」がローンチされました。(出典:mixi Group | FY2020 Q3 決算説明資料、FY2020 Q3 決算説明資料、FY2021 Q1 決算説明資料)
ミクシィは2020年6⽉23⽇にマザーズから東証⼀部へ市場変更という会社としての節目を迎えました。(出典:mixi Group | FY2021 Q1 決算説明資料)
ちなみに、ミクシィはスポーツチャンネル「DAZN」のセールスエージェントパートナーにもなっています。DAZNが展開するサービスの日本での拡大を任されているようです。スポーツメディアとの協業という、新しい角度からのアプローチも初めているようです。(出典:mixi Group | FY2021 Q3 決算説明資料、 PR TIMES | スポーツ動画配信サービス「DAZN」公認 店舗でのスポーツ観戦に特化した飲食店検索サービス「Fansta(ファンスタ)」本日4月15日(木)より提供開始)
そしてつい最近の2021年11月22日に、ミクシィはもともとスポンサーしていたJリーグのFC東京も子会社化しました。(出典:mixi Group | FC東京を運営する東京フットボールクラブ株式会社の第三者割当増資引受(子会社化)に関するお知らせ)
スポーツ事業注力期に、2つのプロスポーツチームを子会社化、スポーツの新事業を5つスタートしたミクシィ。SNSで一時代を築いたIT企業が、今ではスポーツに注力している。この戦略が果たしてミクシィをまた大きく成長させるのか。これからが楽しみですね。
3. おわりに
いかがでしたでしょうか。SNS時代を築き上げたIT企業が、本格的にスポーツ事業に力を入れる体制になるまでの長いようで短い歴史を見てきました。
後編ではミクシィのスポーツ事業についてもっと深堀りをしていくとともに、ミクシィが目指す日本スポーツ界の大変革戦略について考察しています!
後編も面白い記事になっていますので、ぜひぜひステイチューンでお願いします!