これまでスポーツを使って海外進出を成功させた事例をいくつか紹介してきました。そんな記事を書いていて、海外進出におけるスポーツの活用方法について考慮すべきポイントを全体感を持って整理しておきたいなぁ、と感じた次第です。

というわけで今回は(スポーツを使って)海外進出する際に、気をつけておくべきポイントと具体事例をまとめていきます。

今回の記事は学生時代に参加した留学フォーラムで「海外行くのにハンコ作っておいたほうがいいですか?」ときいて、失笑されたサセがお送りします。

1. 日本経済の抱える現状:人口減からの内需減

日本の人口が減り続けているのは、みなさんご存知のとおりかと思います。どのくらい減ってるかというと、2029年には1億2千万人を下回り、2053年には1億人をわる、なんて予想されています。(出典:総務省|我が国の人口及び人口構成の推移)

ちなみに2020年の世界人口は約77億人。同時期の2029年は84億人、2053年は98億人てな具合に増え続けると予測されています。(出典:United Nations | Total Population – Both Sexes) なので、世界人口に対する日本人の割合が加速度的に減っていくということです。

そして日本は内需の国です。要は日本で作られた商品・サービスの大半は日本で消費されているのです。直近5年のネット輸出額(輸出額-輸入額)の対GDP比率を見てみると、2015:18.03%、2016:15.28%、2017:16.82%、2018:18.29%、2019:17.24%です。(出典:OECD | Trade in goods and services) つまり、残り80%くらいのGDPは日本国内の需要によるものっちゅうことです。でも、これを支える人口が減り続けているのが我が国Japanなわけです。

2. どれくらいの企業が海外進出してるの?

そんなわけで日本企業はどんどん海外に出ていってます。下のグラフは外務省が出している、海外における日系企業の拠点数推移です。これを見ると海外に拠点を置く日系企業の数は総じて増えていることがわかります。2017(平成29)年時点では、約7万5千もの日系企業が海外に拠点を構えとります。

(出典:外務省 | 海外在留邦人数調査統計)

3. みんなどこの国に行ってるの?

では、こういった日系企業はどういった国に進出しているのでしょうか。進出先として圧倒的に人気なのは中国。ついでアメリカです。インド、タイなんかは進出数が急激に増えてきています。あとは人口が2030年頃に日本を上回ると予想されるベトナムも人気が高まっています。

(出典:外務省 | 海外在留邦人数調査統計)

4. 海外進出で気をつけるべきポイントは?

この海外進出。言うは易しですが、なかなか難しいというのも現状のようです。日系企業の海外進出成功率は大体30%なんてデータもあります。(出典:Digima | 日本企業の海外進出成功率は31.4%? 〜『海外進出白書(2016-2017年版)』より〜) つまり100社出ていったら、70社ぐらいは「アカン!失敗や!」って実感してるってことですね。

ではこの成功と失敗を分けたポイントは何だったんでしょうか。

海外進出には2つの形式があります。輸出直接投資です。輸出は日本で作ったものを海外で売ること。直接投資は、出資により海外に法人を設立すること&企業が海外現地法人に資本参加すること、です。つまり現地に会社を作っちゃう、もしくは現地企業の経営に参加しちゃうってことですね。(出典:中小企業庁 | 中小企業白書)

そしてそのどちらの形式においても、成功と失敗の分かれ道、として1番にあげられているポイントは一致しています。それは「販売先の確保」です。要はお客さん、売り先を確保できたのかどうか。これが成功を左右するポイントのようです。

(中小企業庁 | 中小企業白書 より作成)

5. 販売先(顧客)を確保するとはどういうこと?

5-1. 潜在顧客のニーズを顕在化させ、顧客化する

販売先(顧客)を確保する、にはいくつかのステップがあると思います。最も遡った場合の最初のステップは、ほぼ未開拓の新規市場に参入し、お客さんのニーズを顕在化させ、顧客になってもらう、というステップです。

日本などの先進国では当然のように使われていても、海外、特に新興国では“必要ない”と認識されている(≒ニーズが顕在化していない)商品ってけっこうあったりします。こういった国では潜在顧客はいるものの、人々が“それ必要”って考えていないため、お客さんになっていない状態です。なのでこういった市場で商品を売る場合は、まずは人々にニーズを認識させ、“ほしい!”って思ってもらう必要があります。

例えば女性の生理用ナプキン。インドでは生理用ナプキンの利用率は都市部でも3割程度と言われています。農村部では土や灰を使う場合もあるそうです。(出典:JETRO | 生理中でも制限のない輝きを(インド)) これには宗教的背景が深く関係しているのですが、インドでは“生理にナプキンが必要”と認識されていないのです。

こういった地域に進出する場合は、人々のニーズを顕在化するために一定の啓発活動が必要になります。“もっと生活が豊かになるよ”、“今のままだと危険だよ”というメッセージを発し、自社商品の必要性を認識してもらうのです。

みなさんご存知の通り、スポーツチーム、選手は社会的な注目を集め、その言動には大きな影響力があります。以前、我々はこのスポーツチームとともに人々が持つ認識や価値観を変え、市場を開拓しようとした事例を紹介しました。詳しくは以下記事をご覧ください。

5-2. マス市場とニッチ市場の違いをさらっと①

では人々のニーズが顕在化している市場に進出した場合はどうしたらいいでしょうか。さっきの例で言えば人々が“生理の時にナプキンを使うのは当たり前”と認識している状態です。言い換えると、ナプキンを買いたいというニーズ&人が存在している市場なわけです。

ここで、リーチしたい顧客、いわばターゲットとしたい市場は様々な観点で分析することができます。ここでは商品特性の観点から大きく2つに分けてみようと思います。それはマス市場ニッチ市場です。ご存じの方も多いと思いますので、簡単にサクッと説明したいと思います。

マス市場は文字通りMass Market≒大衆、大量市場です。簡単に言うと、みんながいつも使うものが売られている市場ってことですね。下の表は経済産業省が出している商品分類表から、明らかに“みんながいつも”使うものを抜き出したものです。

例えば、シャンプーやリンス。これは男性だろうが女性だろうが、大人だろうが子供だろうが、先進国ではほぼ毎日使われます。中には「いや、俺はボディソープで髪洗ってまうし」みたいなワイルドな方もいらっしゃるかと思いますが、少数派だと思います。このようにどんな人でも頻度高く使う&消費するものが売られる市場がマス市場なわけですね。

(経済産業省 | 商品分類表 より作成)

で、マス市場の対比で使われるのがニッチ市場です。英語で書くとnicheで、くぼみとか隙間って意味です。要は、特定の人が使うor特定のタイミングだけ使われるものが売られている市場です。

先ほどの商品分類表からニッチ市場に該当すると思われるものをピックアップしました。全く馴染みのない商品が並んでます。例えばカゼイン。え?南米のどこかの国の大統領? マニラボール。え?最近話題の変化球? こんな勘違いをしそうな商品とか、誰が、いつ使うんやろか…?、と思うような商品たち。こういった限られた人にしか使われないor限られたタイミング、機会だけでしか使われないであろうモノやサービスを売っているのがニッチ市場ってことですね。

(経済産業省 | 商品分類表 より作成)

5-3. マス市場とニッチ市場の違いをさらっと②

マスとニッチ市場の違いについて、“価格”、“顧客”、“競合”の観点からもう少し説明しておきます。繰り返しになりますが、マス市場は“みんながいつも”な市場です。というわけで、お客さんの数は多いです。そして、たくさんの人が払うことのできる価格でモノが売られます。しかし、お客さんの数が多いので、そこに群がる業者も多くなり、競争が激しくなります。

一方、ニッチ市場はどうでしょうか。ニッチ市場は“特定の人がor特定のタイミングで”な市場です。なのでお客さんの数は多くはありません。しかし、ある特定の強いニーズを持った人が顧客となることが多いため、モノの価格は高くなりがちです。そしてお客さんが少ないため、競合も少ないのが特徴です。

(高瀬 敦也| 人がうごく コンテンツのつくり方 より作成)

ではマス市場とニッチ市場において、お客さんを確保していくためにどういったやり方が考えられるでしょうか。

5-4. マス市場へのアプローチ:お客さんに知ってもらう、選んでもらう

“みんながいつも”なマス市場では、とにかくたくさんのお客さんに知ってもらって、買ってもらう必要があります。そのためにはAIDMAでいう、Aの注意・認識をいかに確保するかが重要になってきます。人は得体の知らないモノに対して興味を持ったり、好きになったりしません。なので、まずはお客さんに「知ってもらう」ことから始まります。

以前、我々は森永がハイチュウを全米に広めた成功事例を紹介しました。これなんかもがスポーツチームを使って、人々のA(注意・認識)を惹きつけたケースとなります。ぜひ、参考にしていただければと思います。

お客さんに知ってもらったら、次は競合と比べて、選んでもらう(関心・欲求を持ってもらう)必要があります。マス市場には競合が多いと言いました。なので、似たような差別化の難しい商品で溢れているわけです。そんな市場で、企業は何かしらの付加価値を商品につけて、消費者に選んでもらわなければいけないのです。

スポーツチームというのは人々のあこがれであり、特別な存在だったりします。インド市場でUberがこのスポーツチームへのスポンサー利権を活用した特別体験を付加価値として、競合と差別化し、顧客数を増やしたってケースがあります。こちらについてもまとめてありますのでぜひ、ポチしてみてください。

5-5. ニッチ市場へのアプローチ:熱狂的なファンになってもらう

ではではニッチ市場ではどうでしょうか。ニッチ市場にいるお客さんの数は多くはありません。ただ、彼らは強烈なニーズを持っています。マス市場のお客さんのうっす~いニーズに比べて、「絶対これほしい!」とか「絶対にこうなりたい!」という欲求が強い。だから、価格が高くても何度も買ってくれるわけです。

ではこういった人々をお客さんとして取り込むにはどうしたらいいでしょうか。

その1つのヒントが、特定の価値観・興味で集まるコミュニティに強く訴求し、「知る人ぞ知る商品」としてエンゲージメントの強いファンを獲得していくというやり方があります。

以前、レッドブルがスポーツを使っていかにして今の地位を確立したのかをご紹介しました。レッドブルはスポーツを使ってスモールコミュニティ(ニッチ市場)に熱狂を作り上げた。そしてペルソナに合致する特定層をファン化することでバイラル効果を生み出し、波及的に売上を伸ばしていく。そんなプロセスを経て、彼らは新規海外市場への進出に成功してきました。

このレッドブルのスモールコミュニティ(ニッチ市場)に翼を授け続けた歴史については、こちらをご覧ください。

6. おわりに

いかがでしたでしょうか。文中でも言いましたが、日本企業の海外進出は、その7割が失敗で終わるのです。そして成功・失敗の分かれ道となるのが販売先の確保なのです。この販売先確保には市場(お客さんの認識、価値観など)の状態を見極め、商品特性(マスorニッチ商品)等に応じて戦略を定める必要があります。

そして日本企業が弱いと言われがちな海外での販売力強化策の一つとして、戦略に応じたスポーツスポンサーシップの活用は一つの有力な選択肢ではないでしょうか。日本には世界に誇る商品やサービスがたくさんあります。商品自体の質は海外と比べて高いものが多いと思っています。まるで調理したてのような冷凍食品。独自進化を重ねた文房具類。甘味が段違いな日本米・日本酒。柔らかさ・旨味に飛びぬけた和牛。子供から大人まで楽しめるアニメ。などなど、スポンサー利権を有効活用することによって日本企業の販売力が補完されたなら、日本が誇るこういった商品やコンテンツがさらに世界に広まるかもな、と思います。

これからも日本企業の海外での活躍に役に立つスポーツスポンサーシップの活用方法を研究していきますので、ご興味ある方はSNS(Twitter、Facebook)のフォローやシェアをどうぞよろしくお願いいたします。