今回、取り上げるのは欧米で人気のマッチングアプリを運営する、Bumbleという会社です。マッチングアプリとは、恋愛や結婚を目的とした男女(場合によっては同性)の出会いを生み出すアプリのことです。

最近の若者はこうしたアプリを効率的に活用してパートナーを探す人も増えているようです。時代ですねぇ…。もしかしたらこれを読んでいる30代半ば以降の方は「俺たちの時代は合コンやったなぁ」なんて思ってるかもしれません。アメリカでは結婚するカップルの34.9%がオンラインの出会いがきかっけで結婚した、なんてデータもあります。(出典:株式会社Mrk&Co |米国のマッチングアプリ事情)

今回の記事はアメリカのマッチングアプリ2番手のBumbleが業界1位のアプリをeスポーツを使って追撃したってお話です。Bumbleは女性eスポーツプレイヤーの悩みを解決しつつも、ユーザー拡大という自社メリットもゲットしています。さらに、女性のエンパワーメント(力を与えること)という、なんとも社会的な香りのするテーマにもフォーカスしています。

今年はなにかと人との接触がためらわれ、オンラインデートが普及しつつあります。そんな中、マッチングアプリがパッと見は関係が薄そうなeスポーツを活用して、どのような取り組みをしたのでしょうか。さっそくチェキしていきましょう!

なお今回は、この記事の参考にしようとマッチングアプリを入れてみたものの全然活用できていないキムラがお送りいたします。

1. Bumbleの課題:業界No1アプリを追撃したい

アメリカのマッチングアプリの中で、最も人気が高いサービスがTinderというアプリです。アメリカではBumbleはTinderに次いで、2番手のマッチングアプリです。Tinderが登場する前からマッチングアプリというもの自体はありました。ただ、Tinderはある仕組みを開発したことで爆発的にヒットしました。

それはどんな仕組みかと言うと…。スマホの画面に登録済の男性や女性の写真がランダムに出てきます。ユーザーは気に入った人は右にスワイプ(Like)、気に入らなければ左にスワイプ(Nope)して選定します。このシンプルながら巧妙なシステムがTinderの大ヒットを作ったのです。お互いにLikeし合うとマッチとなり、個人チャットが開始できるようになります。暇つぶし感覚でスワイプできますし、気に入ってもいない人からメッセージが来ることはないので気軽にパートナー探しができます。

実はBumbleはTinder創業メンバーの1人であるホイットニー・ウルフさんが独立して始めたサービスです。このウルフさんは女性の方なのですが、実はTinderを経営していた頃にトラウマになるほどのセクハラを受けてしまいました。

トラウマから立ち直ったウルフさんが、男性中心のベンチャービジネス界に挑戦状を叩きつけるがごとく立ち上げたのがBumbleなのです。Tinderが最初にリリースした日から約2年後の、2014年12月にリリースされました。Tinderと基本的な使い方は似ています。しかし、コンセプト&機能面で大きな差異があり、ここにウルフさんが考える社会に対する問題意識が表れています。

Tinderはマッチすれば男女どちらからでもチャットを開始することができます。一方、Bumbleではメッセージを始められるのは女性だけで、「女性主導」がコンセプトとなっているのです。(出典:Forbes JAPAN | 女性ファーストの出会い系アプリBumbleがIPOへ、企業価値80億ドル視野に)

これはすごくセンシティブな点ではありますが、男女の仲はともすれば男性主導で進みがちな傾向はあるかと思います。しかし、Bumbleでは女性からしかメッセージを送れない。つまり、女性主導でモノゴトが進むのです。Tinderでは男性がマッチした女性にセクハラまがいのメッセージを送りつけることもできるのです。しかしBumbleでは男性は待ちに徹するしかありません。プロフィールも女性からメッセージをもらえるよう、女性を気遣ったものでなければいけません。

Bumbleの特徴
Bumbleの特徴

実際、他のアプリで散見される男性の下品な写真の投稿がBumbleでは少なく、ユーザーの支持を得ています。(出典:Forbes JAPAN | 「ティンダー」に攻勢をかける、女性起業家の挑戦)

「男性主導で進みがちなことに関して、女性にも意思決定の権利を!」という主張。すなわち女性のエンパワーメントを社会に訴えたい。そんな創業者の思いが機能として実装されているのがBumbleなのです。

そんなBumbleですが、やはり本家大元のTinderにはまだ人気で劣っています。

どちらも世界中に利用者がいますが、こちらはアメリカでの利用者数のデータです。ご覧の通りTinderが断トツの1位で、2位のBumbleとは1.5倍以上差があります。Bumbleとしては、この差をなんとか縮めてTinderからシェアを奪う。特に核となる女性ユーザーを獲得したいという課題に向き合わなければなりません。

2. Bumbleはなぜeスポーツに目を付けたか

Bumbleは人気向上の起爆剤としてeスポーツを活用したマーケティング戦略を立てました。なぜeスポーツなのか。その理由はBumbleが重視する「女性のエンパワーメント」というコンセプトと、eスポーツの抱える課題に共通点があったからなのです。

以下の記事でもご紹介した通り、eスポーツは身体能力の差が競技能力の差に表れにくいのが特徴です。他の多くの競技とは違って男女別々に競う必要は特にありません。男女が同じ条件で競うのが一般的なルールですし、「全国高校eスポーツ選手権」では男女混合チームが優勝したこともあります。

しかし、現状を見るとeスポーツって男社会だったりします。実際に2018年のeスポーツプレイヤーに占める女性の割合は35%。同時期のeスポーツ観戦者に占める女性の割合は30.4%となっています。2016年の女性eスポーツ観戦者割合が23.9%であったことを考えると増え続けてはいますが、まだまだ男性中心です。(出典:GamesBeat |Interpret: Women make up 30% of esports audience, up 6.5% from 2016)

そんな中、eスポーツ界では女性プレイヤーから不満の声が上がっています。それは「女性というだけで、大したことないプレーヤーと思われる」「ハラスメントを受けた」「女性のロールモデルが必要」といった声です。男性と同じフィールドで戦えるにも関わらず、女性軽視や尊敬されないと言った空気感・扱いが問題化しているのです。(出典:YouTube | Gen.G x Bumble)

こんなeスポーツの女性プレイヤーが抱える問題意識と、恋愛というフィールドでBumbleが感じる問題意識。この共通点にBumbleは目をつけた。Bumbleは「eスポーツも恋愛も女性のエンパワーメントが必要よ!」と考えます。そうした背景でBumbleは女性eスポーツプレーヤーをスポンサー支援することにしました。

では具体的にBumbleはどうしたのでしょうか? BumbleはeスポーツチームのGen.Gと協力し、Fortniteで史上初、女性のみで構成されるeスポーツチームを立ち上げました。チーム名は“Gen.G Empowered by Bumble”、通称“Team Bumble”です。(出典:bizwomen | All-women pro esports team gets Bumble sponsorship)

FortniteとはPlaystationやXboxでプレイできる、シューティングゲームです。BumbleがFortniteを選んだ理由。それはFortniteには世界に2.5億人のプレイヤーがいるからです。そしてその35%のユーザーが女性です。つまり、8,750万人の女性プレイヤーがいるということです。さらに、米国全体での数字にはなってしまいますが、約1.7億人のゲーマー人口のうちの46%が女性で、その女性の平均年齢は34歳です。

Fortniteのeスポーツ大会は年に何度も各地で開催され、Fortnite World Cupなんてものも開かれています。この大会には、約2万人の観戦者がスタジアムに訪れます。決勝戦のデジタル配信のライブ視聴者は約230万人にも上ります。つまり、Fortniteのプロチームのスポンサーになるということは、世界中にいるこの8,750万人の女性プレイヤー・観戦者に広く認知されるってことです。また、ゲーマーの特性として内向的な人が多いと想像されることから、まさにオンラインマッチングアプリとばっちりフィットする潜在ユーザーにアピールすることができるのです。(出典:bizwomen | All-women pro esports team gets Bumble sponsorship)

3. Bumbleはどのようにeスポーツを活用したのか、そしてその成果は

スポンサーとなり立ち上げたTeam Bumbleを使ってBumbleは様々なアクティベーションをしていきます。まずはわかりやすくジャージへのBumbleロゴの掲載。他にも共同でイベントを開催しています。

特徴的なアクティベーションとして、Bumble BFFユーザーを対象としたものがあります。BFFユーザーとはBumble For Friendsの略で、友達探しをしているユーザーです。Bumbleはマッチングアプリですが、女性が友人探しにも使うことができ、ユーザーは目的を選んで登録することができるのです。ユーザーはプロフィール画面でゲーマーであることを登録することができ、他のユーザーは「ゲーマーである人」でフィルタリングできます。

こういった取り組みについてBumbleはどう感じているのでしょうか。

「この取り組みは、男性が支配的だった分野において、女性のコミュニティをサポートするという、Bumbleの目標を示しています。」こう語るのはBumbleのマーケティング担当のチェルシー・マクリンさんです。彼女はこうも言っています。「eスポーツコミュニティで存在感を発揮する女性ゲーマーを支援することで、マッチングの場というコミュニティに参加する女性を後押ししたいです。」(出典:Ministry Of Sport | Bumble Plans To Drive Empowerment In Esports Through New Gen.G Partnership)

男性中心に回りかねないeスポーツの世界で戦う彼女たちを支えるBumble。一般消費者の目からしても女性を思いやり、女性のエンパワーメントを念頭に置いたサービスを提供してくれるのでは?と期待を持たせますよね。

BumbleとGen.Gの取り組みがスタートしたのは2019年の夏のことです。この前後、Bumbleのユーザー数は3,500万人(2018年)→7,500万人(2019年)→1億人(2020年)と順調に成長しています。株価も15億ドル(2018年)→30億ドル(2019年)→80億ドル(2020年)と、株式市場でも評価を上げています。eスポーツでの取り組みが一定の貢献をしたことが想像できます。(出典:Business of Apps | Bumble Revenue and Usage Statistics (2020))

Bumbleのユーザー数推移
(出典:Business of Apps | Bumble Revenue and Usage Statistics (2020))

4. おわりに

eスポーツの特徴を上手く活用した女性潜在顧客層への訴求と、女性のエンパワーメントという社会的意義も含ませたトピックでマッチングアプリのBumbleの事例をご紹介しました。

男女が同じ条件、同じフィールドで競うことは、eスポーツの他にはなかなかありえません。前回の記事でも言いましたが、eスポーツは障がいの有無を超えます。そして今回の記事で性別も超える力があることがおわかりいただけたかと思います。

エンパワーメントとは力を与えることで、女性の社会進出を後押しする、と言い換えられるかもしれません。「私たちの会社は女性のエンパワーメント(≒社会進出)を重視してるんだけど、消費者にうまく伝わっていないなぁ」という場合。また、「自分たちのサービスのユーザーが男性ばかりで、なかなか女性ユーザーが獲得できない」という場合、eスポーツという人気爆上がり中のコンテンツの活用も検討していただけると幸いです。FortniteではまだBumbleが立ち上げたチームが唯一の女性チームです。もし日本から対抗馬となる女性オンリーのチームが誕生したらけっこうな世界的話題になるかと思いませんか?(もちろん適切なアクティベーションを行う必要はありますが)
こういった発想は国内ではまだまだ認知されていないので、競合との差別化という意味で早めに検討を開始するのもアリかと思います。

eスポーツを活用した新しい発想のマーケティング事例はまだまだございます。今後もeスポーツの可能性を掘り下げていくのでぜひお楽しみに!「どのeスポーツチームにスポンサーすればいいの?」「スポンサーした後、何すればいいの?」など疑問がありましたらご相談に乗らせて頂きますので是非お気軽にご連絡お待ちしております!