全国のコロナ感染者が減少傾向になりつつある中、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
このコロナ禍によって減ったもの&増えたものがあります。例えば外食やら出勤なんかは減ったものですね。一方、オンラインほにゃらら、なるものがめちゃ増えましたね。オンライン会議、オンライン飲み会、オンライン診断。中にはオンライン婚活パーリーなるものもあるようです。
このように人々の交流ってオンラインに移りつつあるのがトレンドなのかなぁと思ったりします。
今回のお話は、少額の広告予算でスポーツスポンサーシップを効果的に活用し、オンラインに集まる世界中の人たちにリーチ&関係強化した企業のお話です。主人公はバーガーキングとスティヴネイジFC。
今回の記事は相手の反応が分かりづらいオンライン会議で「俺の話、みんな聞いてんのかな…」と不安でたまらないサセがお送りします。
目次
1. バーガーキングの課題:マクドナルドの背中を追い、追い越したい
冒頭でもお伝えしましたが、今回はバーガーキングがスティヴネイジFCにスポンサーしたってお話です。ちなみにスティヴネイジFCはイギリス4部のサッカーチームです。
ではまずバーガーキングについてカンタンに説明しておきます。バーガーキングはアメリカを本拠地に世界各国に1万8,000店舗以上を出店しているファーストフードブランドです。日本国内では2001年に撤退するなどの紆余曲折はあったものの、2020年12月時点で111店舗を展開。2021年以降はさらに店舗数を増加させ、「2090年には日本一の店舗数を誇るハンバーガーチェーンとなることを目標にしてます。(biz SPA! | バーガーキング、“笑える広告”の狙いとは。「価格ダジャレはスベった」)
そんな一転して攻勢を強めているバーガーキングですが、シェア拡大のためにはどうしても乗り越えなければいけない壁があります。それは絶対王者マクドナルドです。
2019年のバーガーキングの店舗数はグローバルで18,786店舗。絶対王者マクドナルドはその約2倍の38,695店舗です。売上で見るとその差はさらに開きます。バーガーキングの2019年のグローバルの売上は$1.78 billionで日本円にすると1,800億円ぐらいですかね。一方、マクドナルドは21.08 billion、日本円だとざっくり2.2兆円です。つまり売上では、10倍ぐらいの開きがあるのです。(statista | Burger King – Statistics & Facts、McDonald’s – statistics & facts)
企業やその商品、サービスが提供する価値を包括的にブランドバリューなんていい方をします。(OMNIMOSOUQ | ブランディングとは/ブランドバリューの構成要素とブランディングのステップ) そしてこのブランドバリューでも両社の差は歴然です。バーガーキングのブランド価値が約$6.4 billionなのに対し、マクドナルドは約$130 billionです。その差は約20倍にまで開きます。
2. バーガーキングのプロモーション:ビハインドを逆手に取る!
このようにバーガーキングはマクドナルドに大きく差をつけられちゃってるわけです。しかし、そんなバーガーキングはマクドナルドの持つ圧倒的な知名度や、両社の差を利用した(逆手に取った)プロモーションを展開しています。
例えば↓の2つの写真。左の写真はバーガーキングが販売するワッパーバーガーをビッグマックの箱に入れて、そのボリュームを誇示しています。右の写真は、あのイメージキャラクターも隠れてバーガーキングに買いにくるほど美味しいよ、ってことですかね。
このように圧倒的な知名度を持つマクドナルドをいじりつつ、それに挑むバーガーキングという構図を作って広告を打っています。
2018年にはアメリカでWhopper Detourという驚きのキャンペーンも行っています。彼らは通常5ドルぐらいで売っているワッパーバーガーを1セント(約1円)に値下げするキャンペーンを打ちました。ただし、1セントでワッパーバーガーを買うためには、購入者はスマホアプリをインストールし、“マクドナルドの近くに行く”必要があります。そしてマクドナルドの店舗から半径約180メートルに行くと、1セントに値下げされるクーポンが発行されるのです。Detourは回り道って意味ですが、購入者に一回マクドナルド周辺にまで行ってもらうのです。(PREDGE | マクドナルドでワッパーを注文!? 米Burger Kingによる驚愕の割引キャンペーン)
しかも撮影スポットまで用意して、人々がSNSに投稿しやすいようにもしています。
ちなみにこのWhopper Detourは世界的な広告賞のカンヌライオンズでも高く評価されました。ダイレクト部門、モバイル部門、最も先進的なクリエイティブを評価するチタニウム部門でグランプリを獲得しちゃってます。(ITmediaマーケティング | カンヌライオンズ3冠のバーガーキング「Whopper Detour」キャンペーンを支えたBrazeとは?)
3. スティヴネイジFCとのパートナーシップ:4部リーグだからこそできること
もちろんバーガーキングのこんなやり方に賛否はあるかと思います。“狡いことしよんな”と思った方もいらっしゃるかと。ただ、カンヌライオンズで3冠を達成していることから、世界的にその手法は高く評価されています。
このようにバーガーキングは弱みやビハインドを逆手に取ったマーケティングが上手なんです。そしてその手法はスポーツマーケティングのある事例にも活用されています。それが最初にお話したスティヴネイジFCとのパートナーシップです。
スティヴネイジFCはイギリスのハートフォードシャー州、スティヴネイジ市を本拠地とするサッカーチームです。ん?スティヴネイジ?聞いたことないな、という方がほとんどではないでしょうか。それもそのはずで2019-2020シーズンはイギリスのフットボールリーグ2(4部相当)所属で、ここ数年はリーグ中位から下位の成績です。当然、日本では「だれやねん」なチームなわけです。
バーガーキングはこんなスティヴネイジFCと2019年6月、スポンサーシップ契約を締結しました。勘のいい方なら“4部&成績が低迷しているってのを逆手に取って何かやりよったんだな”と思ってらっしゃるかと思います。正解でございます。
ではではバーガーキングはスティヴネイジFCと共にどんな取り組みをしたのでしょうか。
みなさん、FIFAというサッカーゲームをご存知でしょうか?EAスポーツという会社が開発したこのゲームは、FIFA公認で、チーム、選手が実名で登場するのが特徴です。1994年に発売されて以降、シリーズ化されており、現在ではFIFA21が最新版として販売されています。PS4、ニンテンドーswitch、PCなどを使ってプレーでき、世界中で4,000万人近くものユーザーがいます。(gamstat | Track your playtime – even on PlayStation 4)
ふつうサッカーゲームって有名チーム、いわゆる1部のみが登場してプレーできるってイメージがあると思うんです。例えばイタリアだったらセリエBより下は使えず、セリエAのみとか。でもこのFIFAではリーグによってはトップリーグ以下のチームを使ってプレーできます。そしてイングランドサッカーリーグは、スティヴネイジFCのいるフットボールリーグ2(4部相当)まで含まれてます。
バーガーキングはここに目を付けました。つまり、FIFAに登場するスティヴネイジFCにスポンサーすることで4,000万人ものFIFAプレイヤーにリーチ・関係強化しようとしたのです。
3-1. スティヴネイジチャレンジ
スティヴネイジFCにスポンサーしたので、ゲーム内のスティヴネイジFCのユニフォームにはバーガーキングロゴが掲載されました。これだけでも世界中にいる4,000万人ものユーザーの目に触れるため、露出効果はそこそこありそうです。しかし、バーガーキングはもう少し突っ込んだ策を講じていきます。それがスティヴネイジチャレンジなるものです。
このキャンペーンは、2019年10月、米国、中国、メキシコ、ブラジル、英国、フランス、ドイツ、ロシア、スウェーデン、スペインの10カ国を対象に開始されました。(スポンサーシップからたった4か月でのキャンペーン開始は異例の早さです) 内容としては、ゲームのユーザーにスティヴネイジFCを選択してもらい、ユーザーがプレーしている国によって、チャレンジ課題を設定しました。例えば、コーナーキックを直接ゴールさせる、ヘディングシュートさせる、など。そして課題をクリアしたシーンの動画をSNSに投稿させたのです。投稿したユーザーは見返りに、バーガーキングの無料ハンバーガー券などがプレゼントされました。
で、何をどう逆手に取ったか、って話です。当然ながらFIFAの中のチームは実際のリアルのチーム戦力と選手の能力があてはめられます。そしてスティヴネイジFCはイングランドフットボールリーグ2(4部相当)所属です。ということはゲーム内でのチーム力&選手の能力も激ショボなわけです。このチームを使ってコーナーキックを直接ヘディングでゴールさせるなんてのはなかなかの難易度になります。化け物のようなジャンプ力を持つクリロナ(クリスチャーノ・ロナウド)を使ってヘディングゴールさせるのとはわけが違うんです。ここにユーザーたちは熱狂しました。“おっしゃ、激ショボ戦力のスティヴネイジFCを使ってヘディングゴール決めたろ”と、挑戦心を煽られたわけです。
3-2. スティヴネイジチャレンジの効果
キャンペーンは2週間限定で行われました。チームを育成していくキャリアモードでスティヴネイジFCは全チームの中でもっとも多くプレーされました。オンライン上でも25,000を超えるゴールがシェアされたとのことです。加えてスティヴネイジFCのユニフォームが飛ぶように売れたそうです。地元だけでなく、海外からの注文もあり、すぐに売り切れとなりました。(BBC | スティヴネイジ:バーガーキングのスポンサーシップがどのようにFIFAゲームの人気につながったか)
スティヴネイジFCのCEO、アレックスタンブリッジさんはこう言ってます。
“デジタル空間はオフラインよりも価値があるってことっす。
このキャンペーンは12億回のインプレッションをたたき出したっす。
世界10カ国でのこのキャンペーンを通じ、何百万人もの人々がクラブと交流し、
オンラインとオフライン両方から応援してくれることを期待するっす。”
(Stevenage FC | バーガーキングのスティヴネイジチャレンジの紹介、BBC | スティヴネイジ:バーガーキングのスポンサーシップがどのようにFIFAゲームの人気につながったか)
4. バーガーキングに学ぶ
バーガーキングのスティヴネイジFCとの取り組みから我々はどんな学びを得られるでしょうか?
“FIFAってゲームが無かったらできんやろこれ”って思った方もいらっしゃるかと。ただもう少し突っ込んで考えてみたいと思います。
繰り返しになりますが、スティヴネイジFCのCEO、アレックスタンブリッジさんは「デジタル空間はオフラインよりも価値がある」って言ってます。確かにデジタル空間はオフライン空間よりも優れている点があります。その強みを一言でいうと“無限である”と表現できるかもしれません。スティヴネイジチャンレンジのようなオンラインでのイベントには参加人数の制限はありません。参加者は時間や地理的条件にも制約を受けません。参加する人の性別や障害の有無だって関係ありません。誰もが、いつでも、どこでも参加できる無限性がある。これがオンライン空間なのです。
だからこの無限性を持つオンライン空間でいかに多くの人々を引き付けられるか、がキーになってくるわけですね。これまでスポーツチームやスポンサー企業は“スタジアムを軸になにかおもしろいことできんかなぁ”って考えていたかと思います。しかし、デジタル化した今、検討の力点をオンライン上に移してみる。オンラインでなるべく多くの顧客と接点を持つためにはどうすべきなのか。オンラインで接点を持った人をどうやってオフライン(orオンライン)上のマネタイズポイントまで導くか。そんなことに知恵を絞ってみる。これがバーガーキングからワタシたちが学ぶべきポイントなのかなぁと思う次第です。
バーガーキングはFIFAというゲームを使って成果をあげました。でも上のような考え方をすると、もう少しいろんなアイデアが浮かぶのではないでしょうか。“オンラインならSNSとか配信もあるなぁ。じゃあSNS、配信で人を集めるには?”みたいに。
また、この事例は“弱小チームでも知恵を絞れば大きな成果を実現することが可能である”ってことも教えてくれます。
スティヴネイジFCのCEO、アレックスタンブリッジさんはこうも言ってます。
(この取り組みを通して)うちらはイノベーティブ&面白いことをするクラブだ
っていう評判を世界から得始めてるっす。
ビッグクラブじゃなきゃ世界規模・大規模なことが実現できないなんてことはないんす。
(Stevenage FC | バーガーキングのスティヴネイジチャレンジの紹介)
ちなみにですが、オンライン空間は障害の有無を超えるって言いました。その事例についてはこちらでもふれています。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか。マクドナルドをいじってプロモーションを仕掛けてきたバーガーキング。しかし、もう少し解像度を上げて見てみると、そこには巧妙な仕掛けがあるようです。
コロナ禍でスポーツ興行ができなかったり、観戦人数の制限が行われています。ならば今回の事例のようにオンライン上でどれだけ多くの人を集められるかor交流できるか、に検討の力点を移すってのもアリかもしれません。
繰り返しますがオフライン空間は有限、オンライン空間は無限、です。この有⇔無にあるように、オンラインとリアルの非対称性みたいなものを見つけられると、そこには大きなチャンスが眠っているかもしれません。スティヴネイジFCのようにオフラインで弱いからこそ、オンラインでは面白みが出る、みたいな。
今後もスポーツを使って、オフラインとオンラインを融合しながら顧客と接点を図ったという事例をご紹介していきます。
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