少し前に驚愕のニュースを目にしました。それは米国人アーティストの書いたデジタルアート(NFT作品)が75億円で落札されたというニュースです。このニュースを見た瞬間、ワタシも「絵描いてみようかな。パワポで。」と思いました。
ちょっと前まではピカソやらゴッホといった画家のリアルな絵が高額で取引されていました。でもここ最近生まれたある技術により、PCなどで作成&保存される芸術作品にも同様の価値が付きつつあるのです。
今までのデジタルアートって簡単に同じものが量産できちゃいました。極端な話、コピペしちゃえば寸分狂いなく同じものが出来上がるわけで。このコピペで大量生産できちゃうデジタルアートに「これが世界で一つしかない○○!」ってプレミアム価値を証明するのにある技術が使われ始めました。それがブロックチェーンです。ブロックチェーンと言えば、仮想通貨絡みで聞いたことがある人もいるかもしれません。
そしてこのブロックチェーンという今どきな技術がスポーツ界でも活用されつつあり、大きな変革を起こす可能性があるんです。今回はこのブロックチェーンとスポーツ界について記事にしようと思います。キーワードはNFTとファントークンです。
この記事は友人の言葉を鵜呑みにして仮想通貨を購入し、数十万円の損を叩き出したため、マジで焦って仮想通貨の勉強を始めたサセがお送りします。
目次
1. ブロックチェーンとはなんぞ?
1-1. ブロックチェーンの仕組み
ブロックチェーンは、2008年に正体不明のサトシ・ナカモトという人物が公開した論文の中で提唱された技術です。簡単に言うと取引とかのデータを記録する技術なんです。
ブロックチェーンはその名の通り、ブロックと呼ばれる取引データを入れる箱と、それをチェーンで繋いでいく形状を持っています。
かなりシンプルに言うと「いつ、誰が、どのくらい取引したのかの記録が格納されたデータがつながっている仕組み」ってかんじですね。
取引データ以外にもブロックに格納されるデータはあります。過去のすべての取引を暗号化した「ハッシュ値」とかブロックチェーンに書き込む権利の「ナンス値」とか。でも、ここでは↓のようなイメージでブロックチェーンとはなんぞ?をご理解いただければ十分です。
そしてこのブロックチェーンという技術を使って貨幣化したのが、ワタシが損をこいている仮想通貨です。誰が、いつ、いくらビットコインを売ったのかor買ったのか。損こいたのか。これをブロックチェーン上に記録しながら、Web上で売買できるわけです。
1-2. ブロックチェーンの強み
取引データなんかが格納されているブロックがチェーンで繋がれちゃってる特性上、ブロックチェーンには様々な強みがあります。その強みはいくつかありますが、ここでは①非中央集権性、②データの耐改ざん性を取り上げます。
まず1つ目の非中央集権制。通常のデータベースであれば、1つのサーバーに置かれ、取引などのデータは必ずこのサーバーを経由して行われます。「サーバーが落ちやがった」という現象は、この1つのサーバーが「もうだめぽ…」と動きを停止してしまった状態です。要は中央集権(1つのサーバー)であるがために起こるものなんです。一方ブロックチェーンは、特定のサーバーを持たず、各ユーザーのPCを介して情報を集積するため、1つのPCやサーバーがクラッシュしたとしても、情報は維持されます。さらに、特定の誰かがデータを管理しているのではなく、みんなで共有・管理しているため、非中央集権的に(自律的に)自動でデータが記録・保存・管理されています。
2つ目はデータの耐改ざん性です。ブロックチェーンの技術によって、改ざんが激むずなデータの生成・保存が可能になりました。データ改ざんがまったく「できない」ではないのですが、それをするためには膨大なコストがかかります。なぜなら連なるブロックすべてにデータが格納されてるので、その全てを書き換えなければいけないのです。というわけでブロックチェーンに記録された全てのデータを改ざんするのはメチャ大変なわけです。
2. スポーツチームなどに活用されつつあるトークン
ここまでで「取引データなどが自律的(非中央集権的)に自動で記録・保存・管理され、データ改ざんが難しい技術。それがブロックチェーンやで!」までおわかりいただけたかと。
ではではここからこのブロックチェーンという技術がスポーツ界とどう交わってきているのかを解説していきます。
実はブロックチェーン技術を使ってサービス化されたものは大きく2つに分類できます。それがトークンとトークン以外のもの、です。で、ビットコインなどの仮想通貨はトークンに分類されます。そして、このトークンに分類されるサービスがスポーツと深く関わりだしているのです。(トークン以外のものについてはここでは説明を割愛させて頂きます)
トークンという言葉はそもそも商品との引換券とか代用貨幣、って意味があります。要は「何か別の価値と交換するするもの」ってことですかね。
仮想通貨のようにブロックチェーン技術を使って作られたトークンをデジタルトークンっていい方をします。このデジタルトークンの定義・分類については、人によってブレがあるのが現状です。ただ、大きく分類しようとすると2つのパターンがあります。それがFT(ファンジブルトークン)or NFT(ノンファンジブルトークン)。もう1つがユーティリティトークンorセキュリティトークン。
簡単に2つの分類について説明しときます。
まずは1つ目の分類のFT(ファンジブルトークン)or NFT(ノンファンジブルトークン)について。ファンジブル(fungible)って意味を調べてみると、代替可能なって意味が出てきます。なのでNFTは「代替できないぜ」って意味です。
ビットコインなどの仮想通貨なんかはファンジブルトークンに分類されます。例えばワタシが持っている1ビットコインをアナタが持っている1ビットコインと交換してください、って言ったとします。「なんやこいつきめぇな」感は否めないかもしれませんが、大抵の人は1ビットコイン同士を交換することをOKするはずです。だからこの1ビットコインはファンジブル(代替可能)なトークンなわけです。
でも仮にですよ、ありえないことではありますが、その1ビットコインにクリロナのサインが入ってたらどうでしょう。ワタシがその1ビットコイン、僕の1ビットコインと交換してください、って言ったらどうですか?「は?これはクリロナ印が入ったビットコインだから交換しねーわ」となるんじゃないでしょうか。このように「唯一無二の一点物」であるのがNFT:ノンファンジブル(代替できないぜ)なトークンなわけです。
続いて2つ目のユーティリティトークンorセキュリティトークンという分類についてです。 ユーティリティ(utility)とは、「有用性、実用性」っていう意味を持ちます。具体的には、なにかのサービスを利用するときに使われるトークンです。例えば、YouTubeを1分視聴するために使ったり、サービスやコミュニティの重要な意思決定に投票するために使われたりします。(DMM Bitcoin | ユーティリティトークンとは?特徴や機能、事例を解説)
一方でセキュリティトークンですが、ここで言うセキュリティとは安全って意味ではなく、「証券」って意味です。要は株式会社の株式をトークン化したものをセキュリティトークンって呼んでいます。(マイナビニュース | トークンにはどんな種類があるの?)
そして、この中で特にスポーツチームに活用され出しているトークンはNFT(ノンファンジブルトークン)とユーティリティトークンになります。
ではでは次の章からは、この2つのトークンがどのようにスポーツチームに使われつつあるのかを解説していきます。
3. スポーツチームとNFT(ノンファンジブルトークン)
まずはNFT(ノンファンジブルトークン)についてです。冒頭でデジタル作品はコピペすれば簡単に同じものが量産できてしまうって言いました。でもブロックチェーン技術でデジタル作品をNFT化すれば、唯一無二の一点物を証明できるようになります。そしてこれによって豊富な無形資産を持つスポーツチームが収益を上げつつあります。
例えばレアルマドリード。彼らはブロックチェーン技術を使ったサッカーゲーム、Sorareと提携し選手のデジタルカードをNFT化し販売しています。購入者は入手したカードでSorareをプレーしつつ、他の人に売却して利益を得ることもできます。Sorareはユベントスとも提携していますが、クリロナのカードは約3,200万円で取引されました。(あたらしい経済 | サッカーゲーム「Sorare」で使えるクリスティアーノ・ロナウドのNFTが約3,200万円で売却)この取引もSorare上のクリロナが「唯一無二の一点物」だから成立します。このクリロナデータが簡単にコピー生成可能だったら、1円でも誰も買わないですよね。無形資産(選手の肖像権)を有するスポーツチームが、NFTという仕組みを使ってこそ、生み出せた収益ということになります。
他にはNBA Top Shotなんかも有名ですね。彼らはブロックチェーンのベンチャー企業Dapper Labsと提携し、NBA選手とその名シーンをNFTのデジタル・トレーディングカードとして販売しています。トレーディングカードがデジタルで、名シーンの動画で、かつ唯一無二なのです。↓を見るとステファン・カリーなんかのコンテンツがデジタルカード(動画)としてNFT化されて販売されています。
ここまでお読みの方の中にはお察しが付いてるかもしれませんが、NBAが収益を上げる仕組みは↓のようになります。ブロックチェーン技術を持つDapper Labsがコンテンツの製造・販売を手掛けます。それに対してコンテンツホルダーのNBAは人気選手のダンクシーンなんかを提供するわけです。その対価としてNBAはコンテンツ使用フィーをDapper Labsからもらうって仕組みです。
Jリーグ開幕とともに凄まじい人気を誇ったJリーグチップス。ファンたちはレアカードを求め、駄菓子屋やコンビニを何軒もさまよいました。ワタシも少ないお小遣いからJリーグチップスを買い、開けた瞬間「またアルシンドかよ!」って何回叫んだかわかりません。今はインターネットがあるおかげで、コレクターたちはWeb上でレアカードをゲットし、需要が高まれば売ることができます。そしてカード販売収益の一部はスポーツチームに還元されます。これが、スポーツチームがNFT(ノンファンジブルトークン)によって収益を上げている仕組みなんでございます。
4. スポーツチームとユーティリティトークン
4-1. チームの運営に参加できるファントークン
続いてユーティリティトークンについてでございます。おさらいになりますが、ユーティリティトークンとはサービスなどを受ける際に使うトークンです。このユーティリティトークンはファントークンという呼び名でスポーツチームによって活用されています。
スポーツチームはこのファントークンによって、購入者に投票権を付与したり、VIP体験への特別招待したりする形で使っているようです。
例えば$JUVというファントークンを発行しているユベントス。彼らのファントークンを販売しているSocios.comのサイトを見ると、購入者は↓のようなことができるようです。イベントへの投票やらグッズの割引、VIP体験なんかも得られるようです。感覚としては株主優待券に近いかもしれないですね。
このファントークン、世界ではあらゆるスポーツチームが導入しつつあります。Socios.comを見ると、サッカーだとバルセロナ、パリ・サンジェルマン、ASローマ、ACミラン、アトレチコ・マドリード、ガラタサライなどのビッグクラブがファントークンを発行しています。他にはeスポーツチームや総合格闘技のUFCなんかの名前もあります。
4-2. ファントークンのメリット
このファントークン、関わる全てのステークホルダーにメリットがあります。それをまとめたのが↓の図です。構造としてはNFT(ノンファンジブルトークン)とほぼ同じです。
スポーツチームなどのコンテンツホルダーはファントークン販売による収益を得られ、活動資金に充てられます。また、ファンがより深くチームに興味を持ってくれるようになり、ファンエンゲージメントが高まります。
ファントークンの運営会社(Socios.comはChiliz社)はトークンが売れることで販売手数料などの収益を得ることができます。
最後にファンについてもメリットがあります。NFTと同様、ファントークンは購入したときよりも値段が上がれば、売って売却益を得ることができます。ユベントスのファントークンの場合はChiliz社の運営するChiliz Exchangeで取引ができます。
また、ファンはチーム運営の意思決定にも関わることができます。例えば選手の入場曲とか新しいユニフォームに投票できる権利が得られます。これによって「俺のチーム感」とでも言うようなエンゲージメント・熱狂度が高まります。Socios.comではこれを「ファン以上」と表現しています。ただ観戦したり、テレビの前で応援するだけでなく、より深くチームと関わる。これをファン以上って表現してるわけですね。
ちなみ日本でもBリーグの仙台89ERSやJリーグの湘南ベルマーレがFiNANCiEという会社と提携してファントークンを発行しています。そしてこのFiNANCiEがこのファントークンによってチームにお金を集める仕組みをクラウドファンディング2.0なんて表現しています。個人やチームの夢をみんなで応援する。その代わりに何かしらの対価を得られる。そのためにトークンが発行され、購入した人の財産になる。「あなたの夢がみんなの財産になる」ってとても素敵な表現です。
※2021年6月10日追記
2021年4月29日にFiNANCiEでトークンを上場した渋谷シティFCが驚異的な価格上昇を生み出したので、そちらについての考察記事もあげました。詳しくは↓
4-3. なぜファントークンの価格が上がったり下がったりするのか
ちなみに、ファントークンは購入したときよりも値段が上がれば、ファンはトークンを売って売却益を得ることができるって言いました。ではこのトークンの価格変動ってなぜ起きるのでしょうか?Chiliz社は「ファンの感情、試合結果、トーナメントの勝利、移籍活動などの要素に依存する市場の需要」によって決まるって言ってます。要はファンの感情やら試合の勝ち負け、人気選手の加入・流出などで変わるファンの注目度・関心で決まるってことですね。 (COINPOST | サッカー:ユベントスのファントークン、仮想通貨取引所で取引開始)
2020年の4月にコロナ禍で故郷のポルトガルで隔離生活をしていたクリロナがイタリアに帰ってくるって報道されました。このニュースが報道されるやいなや、$JUVは一気に噴き上がりました。おそらくファンは「俺たちのクリロナが戻ってくるでぇ!強いユーベが戻ってくるでぇ!」状態だったのだと思います。こんなファンの荒ぶる感情を表すように$JUVは高騰したんですね。
このへんのニュースによって価格が変動するっていう性質は株に似てますね。企業が革新的なサービスを発表したときなんかは、株価は上がります。反対に不祥事なんかを起こすと株価は下落します。
ちなみに我々はこのトークンの価格変動予測に役立つ可能性を秘めた2つのシステムをβ開発しました。
ファントークンの価格は「市場の需要」によって決まる、というChiliz社の見解をお伝えしました。市場の需要はスポーツチームの場合、端的に言ってしまえば「ファン」によって作られます。
1つ目のシステムは、この市場の需要を作るファンの興味・関心をSNSから分析し、各スポーツチームにどんな特徴のファンが多いのかを明らかにするものです。具体的には↓のようなイメージです。チームの公式アカウントをフォローしている人たちが他にどんなアカウントをフォローしているのか、を分析します。これによって公式アカウントのフォロワー(≒ファン)がチーム以外に何に興味を持っているのかがわかるってことです。
例えばこのシステムを使うと、このチームのファンは地元ファンが多そうだ、とかアイドル好きが多そうだ、とかが見えてきます。もしチームがそういったファンにドンピシャの施策が打てば、ファンは歓喜します。ファンの感情も市場の需要を決める一要素なので、ファントークンが高騰するかも、と予想できるようになります。
2つ目のシステムは、国内外の各スポーツチームがスポンサー企業と行った約2万件にも及ぶ取り組みを格納したデータベースです。このDBは単なる事例の寄せ集めではなく、SNS上でどのくらい反響があったのか、まで見れる仕様となっています。このDBを使えば、過去にSNS上で反響の大きかった取組みと、応援するチームの取組みを比べファントークンの値上がりを予測できるかもしれません。
また、スポーツ団体やスポンサー企業も「過去にあのチームとあの企業がやったあの取組みは注目度が高かったな」というのが把握できます。すると、トークンの価値向上に向けた施策も考えやすくなろうかと思います。
この2つのシステムを紹介した記事のリンクを最後に載せておきますので、気になる方は最後までスクロールしてみてください。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか。ブロックチェーンという技術がスポーツ界に交わりつつある現状がおわかりいただければ幸いです。
直近では新型コロナウイルスによるスポーツ観戦者の減少により、入場料やグッズ販売収入も減少しています。例えばJリーグによると、2020年度の決算は全56クラブのうち約8割のクラブが赤字となる見通しとのことです。そのうち約4割のクラブが債務超過となる見通しで、クラブの経営リスクは高まっています。(JIJI.COM | 予断許さぬクラブ経営 8割が赤字―コロナ禍、2年目のJリーグ(上))
こんな中、ファンにメリットを返す形で活動資金を調達できるNFTやファントークン(ユーティリティトークン)が救世主となりうるかもしれません。
もちろんトークンを買ってもらうためのリワード設計とか、トークンというものに馴染みのない日本人がどこまで食いつくのか、などの不安要素はあります。
ただ、FiNANCiEが「あなたの夢がみんなの財産になる」と提唱するように、この仕組みはチームもファンもメリットを享受できます。新しい、チームとファンの関係がここに生まれつつあるのかもしれません。
我々は、スポーツ市場がファン、チーム、スポンサー企業にとってより魅力的で&成長する産業へと発展していくことを全力で支援するために活動しています。なので、今後もNFT・ファントークンの経済発展に寄与する情報を発信していきたいと思います。
上で紹介した2つのシステムについてはこちら↓
5-1. SNS分析によりファンの興味関心を分析するシステムについて
セレッソ大阪 v.s. ガンバ大阪のSNSファン分析:大阪ダービー
横浜F・マリノス v.s. 横浜FCのSNSファン分析:横浜ダービー
5-2. 国内外のスポンサー事例を調査・分析できるデータベースについて
【Jリーグ・サービス業編】スポンサー施策SNS反響ランキングTop5
【Bリーグ編】スポンサー貢献度の高いBリーグチームはどのチーム?
海外でいま女子サッカー×スポンサー企業の取組がSNSで大注目?