先日、Microsoftの創業者で、世界長者番付4位のビル・ゲイツが離婚したというニュースが報じられました。これにより、ビル・ゲイツの元妻のメリンダさんは日本円で約1,970億円相当の株式を譲渡されたとか。(出典:Forbes Japan| ビル・ゲイツと離婚のメリンダ、財産分与で資産2000億円の富豪に

ビル・ゲイツの総資産は13兆円を超えています。ワタシは「ビル・ゲイツ意外とケチやなあ。」と思いつつ、離婚の際に1,970億円くれる人とどこで出会えるのだろうかと頭を悩ませていたら休日が終わってしまいました。

ビル・ゲイツとまではいきませんが、お金持ちを狙ったスポーツスポンサーシップというのは多くあります。スポバでも、これまでお金持ちを狙ったスポーツスポンサーシップ事例をいくつか紹介してきました。

実はSPOVAでは毎日せっせと国内外のスポンサーアクティベーション事例を調査、ストックしています。だいたい2003年から直近まで約2万件以上の事例を社内データベースに溜め込んでいます。このデータベースは、国内外のスポンサー事例を集約、分析したシステムです。

「スポンサー事例を探して分析すんのだるいわぁ…」

というアナタの作業をラクにするデータベースでございます。データベースについて詳しく知りたいという方は、先ほど紹介した3つ目の記事(こちら)に説明がありますので、そちらを読んでいただければ。

いつものごとく、ワタシはこのデータベースをカチカチしていました。そしたら、超お金持ちだけが集まるスポーツイベントを見つけたのでご紹介していこうと思います。まさに“人生上がっちゃった人”しか参加できんやろ、なイベントです。

なお、今回の記事は「お父さんがくれた金色のベンツで登校するのが恥ずかしい」とお父さんに相談したら「車が嫌なら電車を買ってやろう」と言われた中東出身の友人を持つマルタがお送りします。

1. 世界一周ヨットレースClipper round the world yacht race

今回、お金持ちのみが集まるスポーツイベントとして紹介するのは、Clipper round the world yacht raceなるイベントです。長くて文字数とるので以下Clipper Raceとします。

1-1. どんなレースなの?

その名の通りこのレースは世界一周のヨットレースです。初めて開催されたのは、1996年で、25年もの歴史があります。2013-14年のレースでは、ニュース・ラジオ・テレビ・ウェブでの掲載/放映を合わせて累計33億人分の視聴を集めました。さらに2015-16年のレースのTV放送がイギリスのベストドキュメンタリーシリーズに選ばれるなど、歴史と人気のあるヨットレースです。(出典:YACHTS | Clipper Race TV Series crowned best UK documentary、Clipper round the world | Record global audience boosted by TV series

レースのスタートorゴールになる港はお祭り状態になります。下の動画は2019-20に行われたレースのスタート地点の様子です。多くの人が集まり、楽しそうにヨットを見送っています。これだけ人が集まるということで、結構注目されているイベントということが分かりますね。

1-2. どんな人が参加するの?

ヨットレースと言うと熟練した技術を持つプロたちが参加するってイメージがあると思います。でもこのレース、実は参加者は一般人なんです。中にはヨット未経験の人も数多くいます。世界一周レースがゆえに過去に死者が出たことがあるほど過酷なレースにも関わらず、です。(出典:BBC NEWS | Simon Speirs: Yacht defects ‘a factor in sailor’s death’

なぜ一般人がこんなレースに参加できるかって思いますよね。純粋に、「危なくね?」って話です。実はレースに参加するためには、事前に実施されるトレーニングに参加しなければなりません。ここでヨットの構造とか扱い方、トラブル時の対応などの航海術をみっちり学ぶわけです。

で、気になるのはお値段ですよね。まずこのトレーニングへの参加費用は約90万円かかります。そしてレースへの参加費用もソコソコお高いです。世界一周コースを8レグ(コース)に分け、参加者は1レグから参加できるようになっています。1レグ参加にかかる費用は、約99万円~119万円。つまり、最低でも90万円(トレーニング費)+99万円(1レグ最低価格)=189万円が必要なってくるわけです。全レグに参加し、世界一周するならば、約800万円かかります。え?高級車1台買えるやん。うちの田舎ならちょっとした家建つやん、な値段です。(出典:Clipper round the world yacht race | Show Results

そして、当然ながら時間も確保する必要があります。先ほど説明した事前トレーニングは4週間必要です。レース本番については、1レグ完走するためには30日前後。よって最低でも約2か月はヨットのためだけに拘束されるわけです。もし全レグに参加して世界一周する場合は46週間(11ヶ月)になります。

つまり、最低でも2か月仕事から離れ、189万円払える人でないと参加はできないってことですね。このようにClipper Raceはお金と時間に余裕のある人しか参加できないイベントなんです。2か月以上仕事をしなくていい+遊びに200万円以上かけられるなんてのは、まぁ余裕のあるお金持ちくらいですよね。

1-3. どんな企業がスポンサーしてるの?どんなビジネスメリットがあるの?

ここまでで、Clipper Raceには高確率でお金に余裕のある人が参加しているってことがおわかりいただけたかと。

そしてこんなリッチな大会に目を付けたのは、LMAX Exchangeという会社です。LMAX Exchangeは、ロンドンに本社を置き金融機関や機関投資家向けサービスを展開する企業です。外国為替取引やCFD、仮想通貨取引の流動性供給事業を行なっています。主なクライアントは証券会社とかヘッジファンドになります。

(出典:LMAX | HP

Clipper Raceは11チームによるチーム対抗戦です。事前トレーニングを受けた参加者はランダムにチーム分けされます。この11チームそれぞれに企業スポンサーがつきます。LMAX Exchangeは2015-16年に開催されたレースにおいて、このうちの1チームのスポンサーを務めました。

Clipper Raceの参加者が富裕層であることは明らかですが、その周辺の人も富裕層であることは容易に想像がつきます。例えば応援に来る人。おそらくスタート地点とかゴールで応援する人はレース参加者の家族・友人・恋人で同じぐらいの資産保有者と考えられます。

また参加者と関係なくてもヨットレースに興味がある時点で富裕層である可能性がありますね。もちろん富裕層である可能性は参加者家族などと比べたら下がりますが。

このように、「高確率でお金持ちな参加者」、「おそらくお金持ちな応援者」、「きっとお金持ちな観戦者」が集まるのがClipper Raceなわけですね。

ではこんなお金持ちがギュッと集まるイベントで、LMAXはどんなビジネスメリットを生み出しているのでしょうか。彼らが特に力を入れていた施策がネットワーキングです。↓の写真は2015年大会における中国、青島でのレセプションの様子です。

このレセプションに招待されたのはレースチームのメンバー、そして80人のLMAXのクライアントたちです。上でも紹介しましたが、LMAXのクライアントは証券会社やヘッジファンドです。では証券会社やヘッジファンドの顧客はどんな人でしょうか。そうです。お金持ちたちです。LMAXは自分たちのクライアント(証券会社やヘッジファンド)に、彼らの潜在顧客(富裕層)を出会わせることでクライアント満足度を上げようとしたってわけです。またネットワーキングには当然LMAX社員も参加しているため、新たなビジネスや新規顧客獲得のチャンスもゲットできるってことですね。

LMAXはグローバルにビジネスを展開し、世界中の証券会社やヘッジファンドをクライアントに持っています。Clipper Raceは世界中からレース参加者が集まり、世界の港を転々としていきます。その都度、このようなレセプションを開催し、その都市のクライアントに富裕層たちを引き合わせていくわけです。実際にロンドンニューヨークケープタウンなど名だたる金融都市でネットワーキングイベントを開催したようです。(出典:Clipper round the world yacht race | LMAX EXCHANGE BRAND AWARENESS, BUSINESS DEVELOPMENT, EXPERIENTIAL / ENGAGEMENT, GROWTH, HOSPITALITY

LMAXはこの施策に確かな手応えを感じているようです。彼らがゲットしたビジネスメリットは↓のとおりです。かなりわかりやすい効果があったようですね。

  • 大会期間中に229ものクライアントをおもてなし
  • LMAXのHPはUU数が20万増加(30万⇒50万UU)し、120万PVを獲得
  • メディアを通して800万人以上にリーチ(特にキーマーケットである中国)
  • 50以上の新規開拓に繋がりうるコネクションが生まれた
    • ロンドン、ケープタウン、シドニー、青島、ニューヨークで新規ビジネスの機会を獲得 etc
  • 新規顧客獲得と既存顧客の取引量増加により700%の機会リターンを生んだ

(出典:Clipper round the world yacht race | LMAX EXCHANGE BRAND AWARENESS, BUSINESS DEVELOPMENT, EXPERIENTIAL / ENGAGEMENT, GROWTH, HOSPITALITY

2. Clipper Raceに学ぶ:富裕層を集める企画づくり

冒頭でお伝えした通りClipper Raceが初めて開催されたのは1996年で、25年もの歴史があります。ニュース・ラジオ・テレビ・ウェブを合わせて33億人分の視聴を集めるなど、興行価値もかなりのものです。

こんなイベントをいきなり作ることは難易度高し!ってのはちょっと考えればわかります。では、我々はClipper Raceから“イベントの作り方”について何を学べばいいでしょうか。

Clipper Raceがここまで社会的な注目を集める大会になった源泉。それは「お金持ちを密度濃く集められたこと」であると思います。お金持ちを密度濃く、一定数抱えることができればLMAXのようなスポンサーを引っ張ってこれます。そしてそのスポンサー金を使ってイベントを大きく成長させることができます。

ではどんな要素が富裕層を惹きつけたのでしょうか。それはすごく端的に言うと人々の「それやってみたかった」というような稀有な体験を企画化できているからかと思います。少し前にZOZOTOWN創業者の前澤さんがISS(国際宇宙ステーション)に行く、ってニュースが話題になりました。

これなんかも「宇宙から地球を見てみたいなぁ。“地球は青かった”って言いたいわぁ」という人々の持つ思いを企画化し、民間人に開放したものです。

そしてお金持ちのみが言える言葉があります。それは「金ならいくらでも払うから」です。彼らはやってみたかったこと・稀有で貴重な体験にいくらでもお金を払える資力があります。この言葉を引き出せるような体験が作れれば、富裕層を集め、それをフックにスポンサーを引っ張ってこれるわけです。

この、“富裕層がいくらでもお金を払いたくなるような、やってみたかった稀有な体験”ってClipper Raceのように、スポーツでも再現できるハズです。むしろスポーツと稀有な体験は親和性が高い気がします。

例えばF1などのモータースポーツ。富裕層がフェラーリなどのスーパーカーを買いがちってのは想像に難くないかと思います。おそらくスーパーカーを購入する富裕層の中には、「F1レーサーのように思いっきり走ってみたいなぁ」「ちゃんと教えてもらってドリフト走行マスターしてみたい」なんて思う人はいると思います。ただ、レースができるコースは限られているというロケーションの制約があります。あとは下手に運転したら盛大に事故るという技術上の制約もあります。だからモータースポーツをやれる人はそこまで多くない。

こういった人たちに対して、「東京からお越しの際には全ての交通を手配します。宿泊施設、練習場も準備します。事故らないように一流レーサーがみっちり指導します。最後にプロ並みの演出でタイムを競っていただきます。」みたいな企画だったら、お金持ちは例のセリフを言うのではないでしょうか。「それならお金はいくらでも払う!」と。

書いていて思ったのですが、こういった企画はあらゆる制約で普及がなかなか進んでいないマイナースポーツのほうが親和性があるように思います。要はDO層(スポーツをする人)が少ないスポーツですね。DO層が少ない要因は色々ありますが1つは季節や場所の制約があげられると思います。例えばそういった制約があり、なかなか誰でも手軽に手を出せるわけではない稀有な体験としてウィンタースポーツ、マリンスポーツなんかは大いにポテンシャル・ニーズがありそうですね。

つらつらと書いてきましたがまとめるとこんなかんじでしょうか。

人々の持つ“やってみたかった”を企画にする

それをもとに富裕層を集める

集めた富裕層をフックにお金持ちにリーチしたいスポンサーを連れてくる

富裕層からの参加費&スポンサー費をイベント拡充のためのプロモーション費等に充てる

もしこれが何かしらの競技団体であれば、集まった資金を普及活動のために使うってこともできるようになりますよね。

3. おわりに

いかがでしたでしょうか。ヨットレースはなかなか普通の人では馴染みのないスポーツだと思います。ただ、大海原をヨットで駆けぬけ、世界一周をする。こんな、人々の“機会があればやってみたい”に着目して、プログラム化してしまうあたりにClipper Raceのうまさを感じます。

前澤さんのように大きく稼げた人は好奇心が旺盛である人が多い気がします。みなさんの周りの稼いでる人も行動範囲が広かったり、色んなことにチャレンジしている人が多いのではないでしょうか。

Clipper Raceはお金持ちたちが持つそんな“冒険心”を上手くくすぐったのだと思います。

今後もスポーツを使って、人の心理を上手くつき、刺さる企画を作っている世界中の事例をご紹介していきます。乞うご期待!!